第130話 戦術課中部駐屯地(4)

 一巡した所で中之さんが対戦場に入って来て私の横で止まり、6人組の方に向き直る。

「貴様ら何をやっている。腑抜けた戦いしかできんのか」

 盛大な罵声が飛ぶ。


 高野「ちっと油断しだけだ。本気を出せば負けない、次は勝つ」


 中之「バカモン。

 何が本気を出せばだ。

 貴様らに次など無い。

 お前らは既に1度死んでいるのだ。


 手加減されている事すら気付いていないこの無能共が」


 6人共、落ち込んでいるというより、顔を伏せて私を睨んでいる。

 やっぱりこの程度では心が折れないか。


 中之「次の1戦次第では、貴様らを地域防衛隊に戻す事も検討するからな」

 そう言うと対戦場を出ていった。


 6人の顔は、私を睨み恨む表情がありありと出ている。


 高野「ちくしょー、ぶっ殺してやる」

 そう言って対戦場に入ってくる。


 向かい合った処で中之さんが怒声で叫ぶ

「貴様ら何をやっている。

 誰が1対1でやれと言った。

 貴様ら6人、総掛かりで戦え。

 最低限、1撃位当てろ。


 神城も能力アビリティを使え、殺さなければ何をしても良い」


 私は右手を上げて了解の意を伝える。

 私の事を知っている人は何も言わないけど、知らない人の中には抗議の声を上げる人も居るが、中之さんが一喝をして黙らせる。


 此処まで煽られた6人組は、視線だけで人を殺せそうな程の怒りと恨みの籠もった目をしている。


 伊坂さんの合図で沼田が先制の遠距離攻撃を仕掛け、禰津を先頭に5人が間合いを詰めてきたが、全員が絶望の眼差しで地面に転がるまでに2分と掛からなかった。


 沼田の先制攻撃を水の膜で防ぎ、前衛組を迎え撃つ。


 禰津のシールドチャージは、ナイフ握ったまま拳による刺突衝撃ピアシング・インパクトの一撃で盾ごと左腕を粉砕。


 動きが止まった私に猪山の巨大ハンマーの一撃が振り下ろしたが、振り上げた左の拳の刺突衝撃ピアシング・インパクトで巨大ハンマーを粉砕し、反動で尻餅を着いた。


 間隙かんげきを突くように攻撃してきた高野の炎を纏った剣の斬撃を、ナイフに被せる様に水の能力アビリティで作った短刀でロングソードごと切り捨てた。


 沼田の前衛を巻き込む様に放った火と風の能力アビリティを用いた波状攻撃は、周囲に展開した水の能力アビリティで生み出した水の膜の前では意味を成さなかった。


 その隙に背後に回った鳥山の水弾と槍の連続攻撃は、水の膜で水弾を無効化し、槍を回避と同時に左手で槍を奪い、石突で鳥山の5倍の速度で滅多打ちにした。

 鳥山は、四肢を砕かれ、全身打撲と骨折で地面に転がる。


 新島は5人が時間を稼いでいる間に力を溜め、必殺技を繰り出してきたが同じ技を鳥山から奪った槍を用いて、後出し且つ5倍以上の威力と速度で打ち返したので、新島の武器・防具を粉砕、全身の打ち身と骨折で地面を転がった。

 得意技を封じられた残り3人が、特攻を掛けて来たが、四肢と装備を砕かれ、全身打撲と骨折と絶望で地に伏せるまでに時間は掛からなかった。


 余りにも一方的な殲滅戦せんめつせん、戦いとさえ言えない惨状さんじょうに言葉無く沈黙が支配する中、拍手が響く。

 拍手を打っているのは、篠本さん、高橋さん、中之さんの3人で、中之さんはそのまま対戦場に入ってくると地に伏せる6人の前に立ち

「普段偉そうな事言っている割に、不甲斐ないな自称天才共。

 お前ら自慢の大技も通用しなければただの雑魚だ。

 貴様らがどれだけ基礎を疎かにしていたか少しは身にしみたか?


 お前達を機動戦略隊に昇格させなかったのは、基礎能力、状況判断力、応用力の無さだ。

 そして、他人を見下す傲慢さ、自分の為なら他の隊員を平気で犠牲にする身勝手さからだ。


 お前達6人を15日付けで、特務防衛課への移籍とする」

 話は終わりと衛生部隊の人達に合図を送り、隊員達が入って来て手当を始めた。


 全体の注目が私に移り注目される中、篠本さんが私の横に来て全体を見渡した後、私の方に向き直り

「改めて、協力を感謝します」


「いえ、これで良かったのですか?」


「ええ、問題ありません。

 お恥ずかしい話、最近、隊規が乱れており、近々大規模な引き締めを行う予定が少し早まっただけです。

 神城が気にする事ではありません」

 周囲が息を呑むのが分かった。


「改めて自己紹介をお願いします」


「東海支局教導隊、思金おもいかね、衛生隊所属の神城 優 准尉です。

 篠本司令の紹介通り、本年度から訓練校に通う事になりました。

 ここには規定訓練等の関係で通わせて貰います。

 以上、よろしくお願いします」


 周囲は驚愕のため、私の言葉を把握しきれていない中、伊坂さんが更なる爆弾を落とす。

「神城准尉はランクBのだが、俺と対等に戦える猛者だからな」


 それに続き、高月さんが

「私と久喜君が1対1の模擬戦やって、神城准尉が勝っているからね。

 あと、彼女、上位の治癒師で相当腕が立つわよ」


 反応が無い。

 不自然な沈黙が支配する。


 そんな中、小声で

 女性隊員「市川さん、服部さん、あの教導官と知り合いって言ったわよね」


 澪「言った」


 女性隊員「普段からあんな感じなの?」


 澪「普段?

 優しくていい子。

 ただ、戦場に立つとベテラン顔負けの冷徹さを出す子」


 萌「そうね、オンとオフの差が激しいだけ。

 今回のは、オンの時にしてはかなり優しい方だったね。

 本気の時の苛烈さは、今回のと比較できないなー」


 女性隊員「それって、大丈夫なの」


 澪「大丈夫。

 基本的に合理的な行動するから、無茶しない、押し付けもない」


 萌「だから今回のだって、相手の心を折るレベルで抑えていたしね。

 戦闘不能にするだけなら、30秒と掛からずに終わっていた」


 本人達は気づいていなかった様だが、周囲の耳目を集めていた。

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