第76話 年末年始の神城家(4)

 Side:舞 

 舞「うーん、残念」


 希「キッパリ断れたね。」


 香織「興味がないのかな?」


 舞「折角、堂々と夜更かしできる機会なのに。」


 母「年越しそばが出来たわよ。」


「「「はーい」」」


 年越しそばを食べ終わってしばらくゆっくりと過ごしてから、二年参りの準備を始める。

 家から最寄りの神社は、家から歩いて20分位の距離にある。

 小さい神社だけど年越しの際は、甘酒の無料配布と数店の屋台が出ていて、結構な人出になる。

 23時20分頃に、優お姉ちゃんを除いて全員で出かける。

 年末の静かな冷たい夜空の中を家族で歩くのは、何度体験しても不思議な感覚だ。神社の近くになるに連れて、人が増えていく。

 

 神社の前には屋台が並んでいる。

 焼きそば、たこ焼き、串焼き、フライドポテト、人形焼、綿飴、りんご飴、チョコバナナの8店舗、後で何を食べようかな。


 取り敢えず、甘酒の無料配布を行っている社務所しゃむしょに向かう。

 甘酒を1杯貰って飲む。

 冷たい冬空で温かい甘酒って、本当に美味しい。

 希と香織も美味しそうに飲んでいる。


 甘酒を飲んでホッとしていると、章さんと零士さんが手に甘酒を持って此方に来る。

 舞「こんばんは」


 章「よぉっ」


 零士「こんばんは」


 零士「優は来てないか。」


 舞「誘ったんですけと、断られました。」


 章「折角の年越しイベント何だから参すればいいのに。」


 希「色々提案したんですけど、『護衛を断っているから参加しない。』の一点張りです。」


 零士「その優は、何をしている?」


 香織「10時には、寝てしまいました。」


 零士「いつも通りか。」


 舞「年越しそばも食べないで寝たよ。」


 章「寝るにしても、普通食べるだろ。」


 零士「そういう事にも頓着とんちゃくしなくなったのかもな。

 ほんと、何を考えているのか分からない。」


 舞「私も分からないよ。

 今日も、私達が勉強している間、お母さんとおばあちゃん達と一緒に料理していたんだって。

 お兄ちゃんの時からだと、考えられないよ。」


 章「俺達、優の幼馴染のだったはずだよな。」


 零士「そのはずだが、今は自信がないな。

 舞ちゃんが分からなくなるレベルで、優が変わった事だけは分かった。

 問題は、俺達はどう優と付き合っていくかだ。」


 希「共通の話題があれば、切掛になると思うんだけど。」


 章「共通の話題、共通の話題・・・」


 香織「お料理とかお菓子とかなら、話題になるのでは無いですか?

 優お姉ちゃん、お料理もお菓子作りも上手だったから。」


 零士「料理とお菓子か、思いつきもしなかったな。

 ありがとう。参考にさせてもらうよ。」


 後ろから呼ばれる声がしたので振り向くとクラスメイト達が居た。

 零士さんと章さんに、「ちょっと、行ってきます」と言って、クラスメイト達と合流した。

 希と香織は、そのまま零士さんと章さんと一緒にいるようだ。

 近くに私の両親や祖父母、零士さんと章さんの両親も居るので問題ない。


 クラスメイトに、「彼氏?」と聞かれるが、「残念、お姉ちゃんの幼馴染」と答えると、ブーイングが返ってきた。

 お喋りをしていると、カウントダウンが始まった。

 皆でカウントダウンをして、皆で「おけおめ、ことよろ」してから家族の元に戻り、初詣を済ませる。

 露天で買い食いをしながら、希と香織と一緒に神社内を散策したり、友達や零士さん、章さんも交えてお喋りしていた。

 お母さんも、零士さんと章さんのお母さんと一緒になってお喋りをしている。


 お母さん達のお喋りが一段落した所で、帰ることになった。

 帰りは、零士さんと章さんの一家も一緒に帰る。

 お父さん達の手には、破魔矢を持っているのも、毎年の光景だ。

 いつもと違うのは、お祖父ちゃん達と従姉妹が居る事との姿が無い事だ。

 いつもなら、お兄ちゃんと零士さんと章さんが、ふざけながら帰るのだが、今は二人が並んで歩くだけだった。

 その光景が、寂しく見えた。

 お兄ちゃんが、お姉ちゃんになった事で、二人が失ったモノを初めて見た気がした。だから、お姉ちゃんとの繋がりを作るのに苦労をしているのかもしれない。


 自宅に帰ってくる、室内は温かーい。

 時刻は、1時50分、いつもなら寝てしまうけど、今年こそは初日の出を見たい。

 初日の出の時間は、6時50分位だから5時間は寝る事が出来るけど、去年も一昨年も起きれなかった。

 なので、今年は起きて時間を過ごす。

 希と香織も居るし、お姉ちゃんがもう使わないからとTVとゲーム機一式も貰っているので、色んなキャラが吹き飛ばし合う対戦ゲームをやる。

 二人が来てから、何度も対戦しているが、大きく負け越している。

 さあ、やるぞ。


 大きなあくびをして、時計を見ると5時40分。

 日の出まで、あと1時間位だ。

 ゲームを中断して、トイレに行く。

 洗面室前を通ると誰かがお風呂に入っている様だ。

 お父さんかお母さんかな?

 それよりも、トイレに行かないと。


 用を足して、リビングに向かおうとした時、洗面室からお姉ちゃんが出てきた。

 え、お風呂に入っていたのお姉ちゃんだったの?


 優「おはよう。

 その様子だと、徹夜したんだね。

 もう少ししたら日の出の時間だよ。

 初日の出見るんでしょ。」


 お姉ちゃんに言われて我に返った。

 もう、お姉ちゃんは、台所の方に向かって歩いていた。


 部屋に戻り、希と香織にお姉ちゃんが起きてきた事を話すと、「初日の出を見るためかな」という事で納得した。


 

 6時30分を回ったのでゲームを止めて、ベランダに出れる準備をして、希と香織と一緒にベランダに出る。

 外は、薄明るい。

 リビング側のベランダには、お父さん達も出ていたけど、お姉ちゃんの姿は無かった。


 東の空と大地の境界線当たりが徐々に赤みを帯びてくる。

 ゆっくりと、非常にゆっくりと朝日が昇る。

 じれったく思いながらも、昇る朝日を見続けた。

 やがて、朝日が昇り、その球形を全て見る事が出来た時には、すっかり体が冷えていた。


 部屋に戻ると、お婆ちゃんに呼ばれたのでリビングに行くと、お姉ちゃんが温かいお茶を用意していた。

 温かいお茶を飲んでホッとしていると、朝食の準備ができていた。

 全員で新年の挨拶をして、お屠蘇とそを飲むと、お雑煮が出てきた。

 お姉ちゃんは、お雑煮の準備をしていたみたいだ。

 それから、お雑煮とお節料理を食べる。

 ふと、疑問に思ったことを聞いてみる。

 舞「お姉ちゃんは、初日の出見たの?」


 優「少しだけ見たよ。」


 舞「初日の出を見るために早起きしたのに?」


 お姉ちゃんは、首をひねった後に

 優「普段通り起きただけだよ。」


 舞「え、普段通り?」


 母「優ちゃんは、毎日5時20分に起きて、身嗜みだしなみを整えてから、朝食作りを手伝ってくれるのよ。」


 私だけでなく、希と香織も驚いた。


 優「大したことしてないよ。」

 照れているお姉ちゃんは、可愛いです。


 お節を食べてお腹が膨れると眠気が襲ってきた。

 希と香織も眠そうだ。

 私がフラフラと自室に戻ろうとすると、お姉ちゃんに呼び止められた。

 優「寝るんだったら、歯を磨いてから。」


 文句を言おうと思ったけど、何も思いつかないので洗面所に向かう。

 洗面所には、希と香織も来た。

 3人で、歯を磨いて部屋に戻り、寝間着に着替えて揃って布団に潜り込んだ。

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