第240話 1年次夏期集中訓練 1日目(3)
「他にも属性とか調べる方法があるのに、どうしてこの装置を作ったのですか?」
と郁代さんが問う。
「それは、魔力について分かっている事が少ないからだよ。
だから詳細に調べる為にも、数値化と細分化は必須なんだ」
と安藤さんが答えると
「そうなんですか?
だって、ライセンス証に身体強化、放出系、具現化系、特殊系とか分類してあるから、詳細に分かっていると思っていた」
と郁代さんが驚きの声を上げた。
「それは、五行思想やチャクラ思想に基づいた経験による分類でしかない。
だから矛盾が多くて、基礎から見直しする必要がある」
「矛盾?」
「例えば、放出系と具現化系の両方の所有者が極端に少ない上に、両方の所有者は片方の
身体強化、放出系、具現化系の
この2つの件は、これまでの理論では説明出来なかった。
他には特殊系の種類が多い事。
これは、元々攻撃系に属さないものを一括りにしていた経緯があるから、異常に数が多い上に法則性もよく分かっていないから、特殊系の中の分類も大雑把なんだ。
だから、特殊系の整理も行いたいんだよね。
そうすれば、今まで気付かなかった法則も分かるかもしれないからね。
そういう訳で現状の分類は、科学的では無いのだよ」
安藤さんの説明に皆納得した様だ。
「それで分かった事はなんですか?」
と私が聞くと、安藤さんは嬉しそうに
「攻撃系の
と発表した。
私は、十分に驚きに値する内容だったのだが
「それって凄い事なんですか?」
と美智子さんが首を傾げながら聞いた。
安藤さんは、かなり驚愕した様子を見せている。
戸神さんと伊島さんは、苦笑いをしている。
ポンと手を打つ音が聞こえた。
武井さんが手を打ったようだ。
「これまでの能力評価方法を知らないから、この発見の凄さを理解出来ていないんだな」
と武井さんが言うと、安藤さんも戸神さんも伊島さんも納得した様だ。
安藤さんも気を取り直し
「じゃあ、簡単に能力評価について説明しよう。
まず、能力評価を行う様になったのは、自衛隊の前身、保安庁設立の頃まで遡る。
この頃はまだ対魔庁は存在せず、保安庁の一部、魔物対策室としての配備だったんだ。
この頃は能力に対する評価と言うものが無くて、倒した魔物の討伐部位を持ち帰る事で奨励金が貰える仕組みだったんだ。
でもこの方法だと、他人が討伐した魔物の討伐部位を奪う事や、上官が部下の手柄を奪う事件も多々起こった。
そこで魔物討伐で活躍した者に、評価を上乗せした給料を払う様に変わったんだ。
その評価は、戦場を監視する専門の役職の者によって行われた。
保安庁が防衛庁に変わった時に、魔物対策室が地域防衛隊に変わり、基本階級に戦力評価階級を加えた階級制度に変わった。
2007年に防衛庁から防衛省へ移行する時に対魔物対策庁として独立。
しかしまだ、能力評価は戦場での戦力評価のままだったんだ。
そして、2013年に現行の基本階級に能力評価方式に変更されて、今日に至るという訳さ」
と言って一息をついた。
「今の評価基準となっている大元は、保安庁時代に制定された戦場で活躍出来る能力を優遇する評価なんだ。
それを魔力量による能力測定に適応しているだけだ。
だから、今でこそ特殊系として定着し有効に活用されているが、かつては無能能力と言われ冷遇されていた。
特殊系の有用性が認められ始めたのも、2000年代以降と比較的最近の事なんだ。
魔力量の測定技術だって、1970年代に開発された技術で1980年代能力別測定が可能になったのに、評価に利用される様になるまで30年以上も掛かっているんだ」
と後半興奮気味に語った。
戸神さんが、安藤さんの肩を叩き
「安藤君。話が逸れてるよ」
と教える。
「あ。済みません。
話を戻すと、現在の評価基準は、あくまでも過去の戦闘評価と言う経験を元に分類・評価されているだけで、魔力や
それでも現在の分類と属性が、魔力の本質と思われているのが現状なんだ。
そして今回、これまでの定説が間違いである事が証明出来た。
この事が世紀の発見なんだ」
と力説する。
「凄い発見をした事は分かりましたが、それが私達の訓練とどう関係するのですか?」
と郁代さんが聞く。
「ふふ。
これまでの方法だと、比較的習得出来そうな属性や能力の傾向が分かるだけだった。
しかし、詳細分析が可能になった事で、単に得手不手だけでなくより効率の良い訓練方法を検討・施策出来る様になるのだ。
そして属性に関しても、これまで天性の物と考えられていたのだが、ある程度自由に選択可能になる可能性が高い。
これ程素晴らしい研究結果は無いだろう」
と自信満々に宣言した。
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