第239話 1年次夏期集中訓練 1日目(2)

 整備を終えた小銃と空薬莢を持って立ち上がると

「射座は私が閉めるよ」

 と山奈さんが言うので

「お願いします。保管庫に片付けて来ます」

 と言って、射座から続く保管庫の扉の電子ロックを解除して、扉を押し開けて保管庫に入る。


 ガンロッカーに小銃を片付け、整備道具・空薬莢を専用の保管庫に片付ける。

 それぞれの保管庫と扉に鍵が掛かっている事を確認してから、通路側の扉の電子ロックを解除し扉を開いて外に出る。


 扉の前に居た美智子さん達が『えっ』って顔をして立ち尽くしている。

 その横で山奈さんがお腹を抱えて笑っている。


 扉を閉めながら苦笑いをするしか無かった。

 私も初めての時に引っかかった奴だ。


 この保管庫の通路側の扉は、横開きの扉だ。

 だが、通路側から見ると押し開きの扉に見える。

 ご丁寧にレバーハンドル式のドアノブまでついてる。

 防犯用の偽装なのだが、知らなければ驚く事間違いなしだ。


 山奈さんのイタズラが成功した所で食堂に向かう。

 皆で食事を取っていると、戸神さんと以前見た事がある男女3人が近寄ってきた。

「やあ、お久しぶり」

「お久しぶりです」

 と戸神さんと挨拶すると、3人は会釈をして私達の席の隣に座る。


「神城さんは、彼らを覚えているかな?」

 と戸神さんが問うので

「はい。

 3人共、検査の時に居た人ですよね」

 と答えると

「その通りです。

 私は伊島いしま たけし

 九州支局の思金おもいかねで、放出系を主に研究している者です。

 この二人は、私の助手として一緒に来ている、武井たけい 悠真ゆうま君と照山てるやま ひじり君だ」

 と自己紹介をしてくれた。

 助手の二人も、「武井です」「照山です」と挨拶をした。


「午後の属性診断と習得訓練には、伊島さん達3人も参加してくれるそうだ」

 と戸神さんが教えてくれた。


 美智子さん達は

「よろしくお願いします」

 と少し緊張気味に返していた。


 そんな彼女達を横目に

「良いのですか?」

 と尋ねると

「問題ありません。

 その為に予定を変更しました。

 とは言え、今日を含めて3日しか時間が取れませんでしたので、ちょっと駆け足気味になると思いますが、基礎の基礎位は付き合えます」

 と伊島さんは朗らかに言っているが、武井さんと照山さんが苦虫を潰した様な顔をしているから相当無理をした様だ。

 戸神さんも苦笑いをしている所から、無理を言って入ってきたんだろう。


 とは言え、放出系の権威が直接指導すると言う幸運だ。

 これを使わない手は無い。


「では、お願いします」

 と言って、伊島さん達に向かって頭を下げた。


「もちろん。任せてくれ」

 と返事が返ってきた。


「あ、そうだ。

 時間があるなら、彼女達の属性診断に神城さんも立ち会わないか?」

 と伊島さんが聞く。


「どうしてですか?」

 と問うと

「新しい技術が開発されたんだ。

 それを彼女達に試したいと思っているから、どうかな」

 と言うので

「新しい技術ですか。

 分かりました。

 御一緒します」

 と答えると嬉しそうに

「よろしく頼むよ。

 上級能力鑑定師としての意見も聞きたいから助かる」

 と言った。


 隣に座った千明さんが、私の肩を突く。

 振り返ると

「どういう事?」

 と聞く。

「普通は、水見式とか水鏡式とか言われる方法を使います。

 この方法は、容器に水を張り、その上に紙等を浮かべた物に両手で魔力を流す事で、水や紙の状態の変化を見て判断する方法です。

 今回は、違う方法を使うみたいです」

 と言うと

「そうなんだ」

 と返ってきた。


「ここで講義も良いのですが、先にご飯を食べてしまいましょう」

 と戸神さんが止めてくれた。


 昼食後、13時まで休憩してから、工廠こうしょうの地下2階にある研究室に美智子さん達を連れて移動する。


 確かここの研究室では、魔力の性質を調べている研究室だったかな?

 と思いながら研究室の扉をノックして入室する。


 研究室には、戸神さん、伊島さんと2人の助手と安藤さんが居た。

「やあ、良く来たね。早速、測定したいけど大丈夫かな?」

 と安藤さんが、切り出した。


 困惑している美智子さん達の代わりに

「それは構いませんが、説明はしてくれますか?」

 と言うと

「それは、もちろんするよ。

 ただ、この方法は、試作の領域をまだ出ていなくてね。

 計測に10分も掛かってしまうんだ。

 だから計測中に説明するよ。


 さあ、そこの椅子に座って」

 と言うと、作業机の横に置かれた丸椅子を指さした。


 作業机の上には、コードの付いた長さ10cm位で太さ2cm位の青い6角柱の物体が5個置いてある。

 丸椅子に美智子さん達が座った。


 安藤さんが

「出来たら神城さんも測定に参加して貰えないかな」

 と依頼するので

「どうしてですか?」

 と聞くと

「まだ試作だから、多くのデータを集めたいんだ。

 お願いできないかな」

 と言うので

「分かりました」

 と答えてから、開いている席に座った。


 私が椅子に座ると、その青い物体、測定子を握る様に指示をされた。

 私達が測定子を握ったのを確認すると、安藤さんは研究室の奥に向かって計測開始の指示を出した。


 安藤さんは、私達の方に向き直り

「では、説明します。

 この装置は、今握っている測定子から被験者の魔力を吸収し、被験者の魔力の性質を分析する装置です。


 この装置は、今まで経験に頼っていた判断を数値化と自動判別の可能にする事を目指しています。

 ここに居る伊島さん達のお陰で、一気に実用化の目処がたった技術を体験して貰っています」

 と言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る