第104話 羽佐田と優

 回収物の確認が終わったので、山奈さんと黒崎さんと別れて、三上さんと一緒に別室に移動している。

 何でも、ずーと身に着けているバイタルメーターのメンテナンスの為に、取り替えるそうだ。

 案内された部屋には、若桜さんと男性が居た。


「よお、半年ぶりだな。元気そうで何よりだ」

と男性が挨拶をしてきた。


「えーと」


「まあ、覚えていないよな。

 俺は、羽佐田うさだ 庄司しょうじだ。

 お前が女体化した時、能力鑑定をした5人の内の一人で、お前が身に着けているバイタルメーターの開発者でもある」


「すみません」


「謝らなくて良い。

 お前に、余裕がなかったのは理解している。

 早速だが、今着けているバイタルメーターを外すから、そこのベットに横になってくれ」


「分かりました」


 私が横になると、バイタルメーターを外し始めた。

 今まで、ずーと着けていたので、失くなると何故か寂しく感じる。

 若桜さんに、肌の確認を頼むと外したバイタルメーターを載せた台車と一緒にベットから離れた。


 若桜さんが、肌の状態を確認して、洗浄している。

 洗浄が終わると、羽佐田さんが新しいバイタルメーターを載せた台車押して戻ってきた。


 前のものより、小さくなっている。

 色は、銀色から薄い黄色に変わり、表面が平面から曲面になっている。


「以前の物は、機能優先で作ったから無骨で枷みたいになっていた。

 今度のは、デザインもアクセサリーに近づけてみた。

 ただ、俺はその辺りのセンスが無いから、無地になっているのは勘弁して欲しい」

と羽佐田さんが言った。


「大丈夫です」


「たしかに、以前の物より大分いい感じになっているわ。

 前の銀色は、かなり目立っていたけど、こんどのは淡い黄色で白い肌に映えるけど、以前程目立たないわね。

 それに、無地だからシックでいいわね」

若桜さんの反応も良い。


「そうか、それは良かった。

 今日からは、それを着けて生活をしてくれ」

と羽佐田さんが言った。


「あ、はい、わかりました」


 そう答えた私を、羽佐田さんはジーと見つめている。

 どうやら、私を鑑定しているみたいだ。

 なにやら納得した様に頷くと


「聞きたいのだが、戦闘と医療以外はやっていないのか?」

羽佐田さんが疑問を口にする。


「戦闘と医療以外とは?」


能力アビリティの訓練だよ。

 これまでのデータと、今鑑定した結果、戦闘と医療に関する能力しか成長していない。

 これだけの資質があるのだから、もっと別の事にも興味を持つべきだ」


「別のことですか?」


「そうだ。

 俺の様に、魔力回路を研究して、魔道具を作ってもいい。

 動物や魔物の生態を研究したりしてもいい。

 機械いじりやオシャレ等、能力アビリティに関係なく、色々な物にもっと興味を持つべきだ。

 このままでは、戦いの中でしか生きる事が出来ない人間になってしまう。

 もっと、我儘で良い。

 俺は、お前が戦闘兵器になる事を望まない。」

と力強く言われた。


「え、でも」


「守護者として、強くならなくてはいけないという気持ちも分かる。

 だが、その前に、神城 優という一人の人間である事を辞めるな」


「私は、そんなに強くない。

 女王クイーンタラテクトの外殻を破壊できなかった」


「理想とする強さでは無いから、より強く成りたいと思うのも理解出来る。

 それでも、一人で倒したんだろ。

 お前は十分強い。


 でもな、強くなるのと戦闘兵器になるのは、別物だ。

 人として強くなれ。

 他人との交流を制限されている身だと言うのも理解しているが、だからと言って自らから孤独を選ぶ理由にはならないだろう。

 今のお前の交友関係は、この訓練所以外は失くなってしまっているだろ。

 もっと、外に目を向けろ。

 守護者としての使命が在るとしても、人として生きる権利はある。

 外の世界は、厄介事だらけだけど、その分得られる物も多い。

 戦闘兵器ではない、神城 優という個人の力を大切にして欲しい」

と羽佐田さんが力強く言った。


 色々と反論したい思いはある。

 でも、その思い全てが、無意味に思える。

 なんでだろう、私が無自覚にしてきた事を言い当てられたのかもしれない。

 私が、堂々巡りの思考にはまっていると


「そんなに気にするな。

 俺がお前と同じ年齢、立場なら、お前と同じ様に自分の可能性を捨て、周りの期待に応える様に生きただろう。

 俺は、ここの連中より一歩下がった状態でお前を見ているから言えるだけだ。

 それに、それだけ悩むなら思い当たる節があるのだろう。

 だったら、まずは何か趣味を持つことだ。

 どんな些細な事でも構わない。

 それが、解決の糸口になるかもしれん」

と羽佐田さんと軽い感じで言う。


「そうなのですか?」


「そんなものだ。

 切掛なんて、些細なものだ。


 お前は、優秀で素直で真面目すぎる。

 だから、周囲の期待以上の理想を追求してしまう。

 周囲からしてみれば、その事が異常に見えてしまう。

 それが、孤立をより深めてしまう。

 それをお前は受け入れてしまっている。


 このままでは、いずれ心が壊れる。

 あんまり、自分で自分を追い詰めるな。


 だから、周りと関係ない事をするのが一番良い。

 そこに、周りから期待される事が無い。

 その事に期待されるのは、同好の士からだけだからだ。


 俺的には、ものづくりがオススメだな。

 全て自己満足で完結しても良いし、人の役に立つ物を作っても良いからな。

 なにより、楽しく没頭出来る事が重要だ」


「羽佐田さんが、ものづくりが好きだから言ってるのですか?」


「その通りだ。

 自分の好きな物を他人に勧めているだけだ。」

 笑いながら、言われた。


「俺の能力アビリティ、物性変化と魔力回路付加を覚えて見ないか?

 俺の場合、金属限定だが、お前の場合は何になるか興味があるし、色々と面白い物が出来るかもしれん。

 ちょっと見ていろ」


 そう言うと、台車に載せてあった鞄から、スマホ位の金属の板を取出した。

「触ってみろ」と言うので、触るついでに鑑定を掛けると、普通の鉄の板だった。


 羽佐田さんが、手に持って暫くすると、鉄の板がグニャグニャと動き人型のロボットの形になった。


 私が食い入る様に見ていた。

 再び「触ってみろ」と差し出されたので、受け取り触ると首が、腕が、手が、脚が動く。

 その様子を微笑ましく見ている羽佐田さん、若桜さん、三上さんに気づかずに、夢中で弄っていた。


 羽佐田さんが、別の鉄の板を取出し、同じ様に変形させた。

 今度は、くまのぬいぐるみ(鉄製)だった。

 差し出されたくまの人形を触ると、鉄の硬く冷たい感触で無く、柔らかく粘土みたいで冷たくなかった。


 再び鉄の板を取出し、今度は自動車の形に変形させた。

 鉄の車を渡されると、「魔力を少し入れてみろ」と言われたので、ほんの少し魔力を送ると、物凄い勢いでタイヤが周りだした。

 羽佐田さんが、「それは、注ぎすぎだ。お前に微小の魔力を送れという方が酷だったな」と笑われてしまった。


 私がむくれていると


「いい顔になったじゃないか。

 能力アビリティの使い方も、楽しかっただろ。

 能力アビリティを覚え、鍛え、強くなる事に喜びを覚える事も大切だが、純粋に物事を楽しみ、喜びを感じる事も重要だ。


 そして、今のお前に欠けているものだ。

 どうだ、俺の持つ物性変化と魔力回路付加は、その玩具からバイタルメーターまで幅広く使える。

 これを覚えて、無駄な物をいっぱい作ってみないか」

 物凄くいい笑顔で言われた。


「お願いします」

 と二つ返事を返してしまった。


 三上さんが以前言っていた習得しやすい期間を過ぎていたが、無事に物性変化と魔力回路付加を覚えることが出来ました。


 羽佐田さんは、一冊の本を私に渡すと

「その本は、俺が研究した魔力回路の基礎を記した本だ。

 1から魔力回路を研究するのは、大変だからな。

 それを使って勉強すると良い。

 もっとも、気合を入れてやる必要はないからな。

 遊びの延長としてやっみろ。

 あと、他にも趣味を色々と探してみろ。

 きっと他にも楽しいことが見つかるはずだ」

 そう言い残して、帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る