第208話 校長の企み
学科が終わり、能力訓練の時間になった。
普段通り宿泊棟に移動しようとしたら、田中さん達と一緒に霧崎教育官に呼び止められた。
そして、霧崎教育官に連れられて、田中さん達4人と共に教育官室に入る。
そこには、校長と各学年の主任教育官が居た。
校長は、3人の学年主任と立ち話をしていた様だったが、我々が入室した事に気づくと向き直った。
田中さん達は緊張した様子で、慌てて私の後ろで横一列に並んだ。
私がそんなに緊張しなくても良いのにと思っていると、校長から
「神城教導官、急に呼び出して申し訳ない」
と言ってきた。
私も
「いえ、問題ありません」
と返す。
ここで肩書を着けて呼んだ以上、何があるのだろう。
「まあ、そう固くならなくても良い」
と言う。
時間外とはいえ、私が彼女達に訓練をつけている事には気づいているだろうから、その事に対する苦情だろうか?と勘ぐっていると
「単刀直入に言う。
神城教導官、君にその4人の訓練の担当教官をお願いしたい」
と言うではないか。
全く予想していない事だったので、非常に驚いた。
「理由を聞いても良いでしょうか?」
と出来るだけ落ち着かせた声で問い返す。
「私としては、これまでの画一的な訓練で、画一的な能力者を生産する方針では無く、より訓練生の能力を伸ばす方針を取りたいと思っていたのだよ。
その為の準備を行っている最中で、実施可能になるのは数年後だと考えていたんだが、今年の訓練生には優秀な者が多くいるので、早々に取り組む事にしたのだ。
だが、準備不足である事は事実だ。
そこで、教導隊所属の貴官にも教導をお願いしようと思った次第だ」
「そうですか。
なら、何故彼女達4人なんですか?
先日の試験で、優秀な成績を収めた者は6名だと聞いています」
「神城教導官と後ろの訓練生との間に友好があり、時間外訓練を行っている事も知っている。
だから、最適な人選であると考えた次第だ。
それに、我々にもプライドはある。
優秀な人材を全て神城教導官に預けるのではなく、我々の手で育て、教導隊に負けていない事を証明したいのだ」
と言って、ニヤリと笑った。
「分かりました。引き受けます」
特に意地を張る必要も無いので、素直に受ける。
「そうか。それは助かる。
それと訓練場所はなんだが、出来るだけ他の訓練生と被らない様に配慮してもうと助かる」
「分かりました。善処します」
「ありがとう。
施設等の調整は、霧崎君にお願いしてあるから、使用する際は彼を通してくれ。
あと、訓練成果を図るために、彼女達には毎月の能力測定と定期試験にも参加してもらう」
「分かりました」
「何か聞きたい事はあるかね?」
「夏期集中訓練も、独自の訓練にしてよろしいでしょうか?」
「それで構わない。
だたし、研修島までの移動までは一緒でお願いしたい」
「分かりました。以上です」
「では、よろしく頼む」
「では、失礼します」
と言って教導官室を退室しようと扉を開けたら
「競技会を楽しみにしているよ」
と言ってくるので
「楽しみにしていて下さい」
と返して退出した。
宿泊棟に足早に移動する私の後を、田中さん達が慌てて追いかけてくる。
「神城さん。どういう状況?」
追いついた鳥栖さんが聞いたので
「訓練校公認になったという事です」
と答えると
「それって、能力訓練の時間も神城さんに教えてもらうって事で良いの?」
と土田さんが聞いたので
「その通りです」
と答えると、4人は驚いて喜んでいた。
「ところで、競技会って何?」
と鳥栖さんが聞く。
「毎年12月に行われる、訓練校対抗の能力技術競技会の事です」
と答えると、4人とも首を傾げている。
「競技の種目は、探索、戦闘、射撃の3種類です。
探索は、探索範囲内に隠された対象物を探す競技です。
戦闘は、個人戦と団体戦の
射撃は、
毎年10月に各訓練校で選手の選抜が行われ、選手を選出します。
選手数は、探索が3名。
戦闘は、個人戦が1名、団体戦が5名の
射撃が、3名の12名が選手として出場します」
「へぇー、そうなんだ」
と鳥栖さんは他人事の様に答えた。
「3年生が主体で選手に選ばれます」
と言うと、「そうだよね」って雰囲気になっている。
「校長は、貴方達を選手候補として見ています」
と言うと、間抜けな返事が聞こえた。
「それって、嘘だよね?」
と恐る恐ると言った感じで、鳥栖さんが聞き返してきた。
「校長がわざわざ私達を呼び出した上で、競技会を楽しみにしているなんて言った以上、間違い有りません」
と答えると、4人共頭を抱えた。
「それと同時にあと2人、山田君と伊吹さんも選手候補だと
それ以外にも、今回の試験でそれなりの成績を残せた者も候補でしょう。
なので、教育官側も4人に揃えると思われます」
と言うと、またしても間が抜けた声が聞こた。
「要は、教導官と教育官で、訓練生の育成競争を期待しての呼び出しだったのです。
私としては都合が良いので、その提案に乗りました」
私の言葉に対して
「なにそれ?」
「嘘でしょ」
「ありえない」
「…」
と驚きの呟きが聞こえた。
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