第131話 戦術課中部駐屯地(5)

 篠本さんが咳払いをして注目を再び集める。

「伊坂2尉以外で、神城教導官と手合わせしたいヤツは居るか?」


 数人が手を挙げ順次対戦する。

 移籍が決定した6人も対戦場の外で治療を受けながら観戦していた。

 その横に中之さんが立って何か話しかけている。


 ハイレベルな攻撃を捌いている私には聞き耳を立てる余裕がない。

 能力アビリティを制限している状態では、ちょっとした油断で負けてしまう。

 伊坂班の面々に匹敵する程の技巧者だ。


 軌道と攻撃の質を見極めて適切な切り返しを行う事で凌ぎ、ナイフや能力アビリティを使って反撃を行う。

 1人2人と対戦が進むに連れて戦闘時間が伸びている事から、傾向と対策を練ってきている。

 17時で模擬戦が終了するまでに、今日来ていた機動戦略隊のほぼ全員と、3回対戦する事になったが、戦術課の一般隊員は誰一人として対戦に名乗りを上げなかった。


 模擬戦終了後、シャワーを浴びて制服に着替えた後、駐屯地の食堂で夕食を伊坂さんと高月さんと一緒に食べている時に、一般隊員が模擬戦に参加しなかった事を話すと伊坂さんが

「神城さんが最初に模擬戦をした6人は一般隊員最強だった。

 それが手も足も出ないでボロ負けしたもんで怖気づいたのさ」

 と言って笑っていた。


 更に

「彼らがどうやって戦術課に配属されているか知っているかい?」

 と聞かれたので

「知らない」

 と答えたら

「今では年1回の選抜試験は、機動戦略隊の隊員選抜試験と認知されているけど、本来は戦術課の隊員選抜試験なんだ。

 機動戦略隊は、元々戦術課の隊員の中でも優秀な人材を選抜して作られた特殊部隊なんだ。

 今では、高位の戦闘部隊という認識になっているけど、それは部隊の一面でしか無い。


 そして、選抜試験で特に優秀かつ機動戦略隊に即配属しても実力に問題が無い者は機動戦略隊に配属されるが、選抜試験で優秀だが機動戦略隊に配属するには実力足りないと判断された者が一般隊員として配属される。

 だから、機動戦略隊への入隊合格者が0人の年もあるわけさ。


 ちなみに、戦術課一般隊員への移籍は、毎年10名前後いるよ。

 全国7箇所に分散しているから、各支局で毎年1~2名程度隊員の補充がされているが、一般隊員から機動戦略隊隊員に昇格するのは、全国で年に0~2人位しかいない。


 何故かと言うと、一般隊員の任務の中に機動戦略隊のサポート業務がある。

 機動戦略隊だけでは、どうしてもサポート要員まで人員が回せないから彼らに行ってもらう訳だが、ここで活躍出来ると機動戦略隊への近道だと思っている節があるんだ。

 だから、与えられた任務以上に張り切って、業務侵害を犯す事も多々ある為、選抜試験よりも選定基準が高くなっているから、なかなか昇格出来なくなっている」


「だから、活躍出来そうだとしゃしゃり出て来る。

 逆に加点されそうになかったり減点対象になりそうだと縮こまって出てこない。

 隣、お邪魔します」

 そう言いながら澪さんは、私の隣の席に座った。

 その隣に萌さんと名前の知らない女性が座った。


 食堂の席は、8人掛けのテーブルで、私は左端に座っていた。

 私の正面とその右隣に伊坂さんと高月さんが座っている。

 他の隊員達は、私達の席から離れた席に座っているので私達の周りはガラ空きだ。


 高月さんが嬉しそうに

「今年、機動戦略隊に入隊した期待の新人ね。女性隊員が増えるのは大歓迎よ」

 と迎え入れた。


「今年の選抜試験は、過去最多の18名が合格した。

 その合格者全員が女性隊員で、彼女達3名が中部支局に配属になった。

 神城さんと縁のある東海支局で研修を受けていた女性隊員全員は、合格している。

 ちなみに今年の昇格者は0だ」

 と伊坂さんが補足を入れてくれた。


 澪さん曰く、

「一般隊員と今年入隊した私達との実力差は殆ど無い。

 むしろ、個人なら彼らの方が能力高い。

 なのに、昇格出来ない不思議」


「それは私も思いました。

 あ、私、今年入隊した飛騨ひだ 愛美まなみと言います。

 よろしくお願いします」


「先輩方と優ちゃん教導官は、挨拶しなくても大丈夫です。

 よく存じておりますので」

 と萌さんが茶目っ気を入れてくる。

 隣で飛騨さんが目を白黒させている。


「それは良いですけど、おふざけ過ぎで飛騨さんが固まってますよ」


「あははは、ごめん」

 と誤りながら飛騨さんを揺すって正気に戻していた。


 高月さんが

「貴方達の個人戦闘能力は、一般隊員より劣っているわ。

 でも、集団戦での安定感と技術は彼らより数段上ね。

 それに、その他の雑務の処理能力も彼らより高い。

 総合評価が上なのは当然の事よ」

 と評価をした。


 伊坂さんも

「個人戦闘能力については、これから鍛えれば良いだけだ。

 それよりも、基礎がしっかりと身についている方が重要だ。

 派手で目立つ大技ばかりに磨きを掛けている者が多すぎる。

 型に嵌まれば強いかもしれないが、それ以外は問題だらけで使い物にならない。

 むしろ、地味で堅実な技術を磨いて、突出した強さが無い方が使いやすい。

 そういう点も評価されていると思うな」

 と評価した。

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