第132話 戦術課中部駐屯地(6)

 3人共変な顔をしていた。

 まあ、「地味だから入隊出来た」と言われたら微妙な顔に成るのも仕方ないと思う。


「でも実際の処、今日みたいな時に日和ひよっていたら昇格出来るものも出来なくなるのに」


 飛騨さんが、ちょっと申し訳無さそうに

「多分、神城教導官に負けるのが嫌だからだと思います。

 こう言ったら失礼ですが、外見からだと、か弱い少女にしか見えませんから」


「でも、飛騨さん達を含めた機動戦略隊の面々も殆ど参加してましたよね」


 高月さんは少し思い出すように考えてから

「そうね。私と伊坂班長、休養中の隊員と衛生隊以外は参加していたわね」


「それだけの人数が挑んで、私に勝てたのは2回だけですよ。

 負けて当然の状況の中なのに、一般隊員は誰一人挑まなかった。

 大幅な減点対象ですね」


 私達の事を聞き耳を立てていた周囲の人達が息を呑むのが分かった。


「それに、あの6人組の処罰も職務怠慢にしては重かった。

 ひょっとして、今居る一般隊員は、資源ダンジョンでやらかした連中ですか?」


 伊坂さんが渋い顔をして

「その通りだ。何処まで知っている?」


「調査任務を放り出して足場作りで競い合っていた事と、虚偽報告していた事位です」


 更に渋い顔をして諦めたように

太和たいわ教導官の報告を聞いて、最前線の探索を一般隊員に行わせた。

 その時の探索隊の指揮官が新島だ。

 まあ、前から調子のいい奴だったからあんまり信用していなかったので、定期的に報告させたうえ秘密裏に監視を付けていた。

 まあ、そこで虚偽の報告等色々と不祥事が発覚した。

 その主犯格があの6人だった訳だ。


 アイツラの動機は、恐らくダンジョンコアルームを確保したという実績を作りたかっただけだろう。

 ところが、ボス部屋に続く垂直縦坑の攻略で難航し、人員交代の期限が迫っていたから、攻略順調・縦坑80%踏破や騎士大蜘蛛ナイト・タラテクト小隊を撃退なんて虚偽の報告までして時間稼ぎをしつつ、大急ぎで攻略しようとしたんだろう。


 プライドが高く出世欲の強い人間は、『どの様な手段を使っても実績を残せば良い』と思っている節があるから、思うように行かなった場合にボロが出るんだよな。


 6人とも能力アビリティのランクだけなら機動戦略隊の隊員でもおかしくなかったが、ランク相応の実力を伴っていないし、戦術課の隊員としての資質にも疑問符が付く状態だったから、機動戦略隊への入隊が見送られていたんだ。


 それにアイツラは上官批判をよく繰り返していたから、今回の懲罰で降格処分は決定していたんだが、防衛課にするか特務防衛課にするかが決まっていなかったんだ。


 今回、ちょうどいいから、自称天才と本物の天才の差を肌で感じて貰うとの、初見の強者を見極められるかを試したんだが、ものの見事にプライドが邪魔をして正しい判断が下せない事が判明した。

 なので、特務防衛課への移籍が決定しただけだ」


 特務防衛課は、強制収容所及び附属鑑戎かんかい学園の出身者がほとんどを占める課で、魔物多発地域に配備される。

 そのため、魔物との戦闘を頻繁に繰り返す事で有名だ。

 その様な環境での戦闘部隊なので、規律が非常に厳しく、連帯力と戦闘能力に定評がある。

 能力者の犯罪者は強制収容所経由で送られ、各部隊からは問題を起こした隊員が送られる。

 極稀に戦闘狂が異動を希望する位だ。

 確かに特務防衛課なら嫌でも規律と実力が着く。

 そして、特務防衛課から他課への移籍条件が厳しい事と、戦場での生活に慣れた者が一般社会に馴染めないという問題から、特務防衛課から他課への移籍は、殆どない。


 伊坂さんは、途中から周囲に聞かせる様に話しているよね。

 周りも妙に納得しているし。

 なので、ちょっと拗ねた感じで

「私をダシに使わないでください。

 それに、私は天才ではありませんよ。

 今日の模擬戦でも自分の力量不足を痛感しているのですから」


 それを聞いた飛騨さんが、ギョッとした顔で私を見ている。

 周囲で聞き耳を立てていた者達も、「え!」って声が複数上がっている上に私に視線が集中している。


 呆れた表情の澪さんが

「この子本気。

 能力アビリティに目覚めてから教導官と思金おもいかねの研究者に囲まれて育った。

 だから、能力アビリティ技術スキルの考え方が違う。

 常識なんて一切通用しない正真正銘の天才」


「うー、澪さんまで、私をからかってるでしょ」


「私は本気」

 あっけらかんと返されてしまって驚愕した。


「こういう反応を見ていると、年相応なんだけど」

 微笑ましそうに萌さんが言った後、真顔に戻って

「この子、戦場に立つと判断に一切の私情を挟まないし、論理的かつ現実的な解しかださないから怖いわよ」


「怖いって、どういう事?」


「例えば、顔に剣と石が迫っていて、石のダメージが少ない場合、どうする?」


 飛騨さんは、少し考えてから

「取り敢えず、両方防御するかな」


「じゃあ、優ちゃんはどうする?」


「石の被ダメは、殆ど無いんですよね?」


「そうよ」


「それなら、石は無視して剣を回避、可能ならカウンター入れます」


 飛騨さんは心底驚いたように

「はぃ? なにそれ? どういう事?」


 私は何に驚いているのか良く分からないが

「石のダメージが殆ど無いなら当然無視。

 後は、防御するより回避を選びます。

 可能ならカウンターも入れます」


「いやいやいや、普通回避より防御を選びますよ。

 それにカウンターなんて、よっぽど狙える状況が無いと狙いませんし、回避行動の中の選択肢に入りませんよ。

 なんですかその死中に活を求める様な考え方は普通しませんよ」


「え、そうなの?

 状況によるけど、最小限の行動で最大限の効果を選択するものじゃあ無いの?」

 そう言って、伊坂さんを見た。


「一応、その前に安全第一の一言が付く」

 顔を明後日の方向に向け、バツの悪そうな表情が見て取れる。


「伊坂2尉もそちら側の人間なんですね。

 まあ、こんな感じで、一般人には思いもつかない選択をしてくる子を、天才としか表現しようがないでしょう」

 妙に悟った表情の萌さんでした。

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