第133話 戦術課中部駐屯地(7)
「うちの班長と違って、
と、高月さんは手を頬に当て考え込むようにして呟いている。
飛騨さんが、諦めとも羨望とも取れる感じで
「教導隊所属で、准尉で、機動戦略隊隊員をバッタバッタ倒しまくるし、しかも15歳なんて天才以外の何者でも無いですよ。
本当に天才って、住む世界が違うと思い知らされました」
「それは違うぞ。
天才だから住む世界が違うのではなく、住む世界を変えざる得なかったから天才になっただけだ」
伊坂さんが、硬い声で反論した。
周囲からも「え?」と言う声が聞こえる。
意を決した飛騨さんが
「あの、どういう意味でしょうか?」
と尋ねた。
伊坂さんは、ちょっと遠い目をして
「俺も隔離保護だったから分かる事なんだが、俺や神城の様に隔離保護対象になる人間は、
そういった者達を、隔離保護した後に何をすると思う?」
飛騨さんは少し考えてから
「自衛手段を教えたり、暴走しない様に訓練するのですか?」
と答えた。
「まあ、その通りだが、その内容は分かるか?」
伊坂さんの新たな問に対して、飛騨さんは「分かりません」と返した。
「じゃあ、お前は、訓練校に通う前は何をやっていた?」
飛騨さんは困惑した様子で
「普通に生活していましたよ。
学校に行って、部活をしたり、友達と一緒に遊びに行ったりしてました」
「戦術課の魔力訓練と同じ物だ」
静かな食堂に伊坂さんの硬く静かな声が響いた。
誰も理解出来ていない様だった。
「
それを日常的に行う事で、高い制御力と精神力を鍛えるんだ。
そんな世界で生きてきた者に、お前らの常識が通用すると思うのか?
基礎から順番に教わって来たお前らと違って、俺や神城はいきなり高度な魔力制御や高等技術を叩き込まれて来たんだ。
お前達が普通に生活して、家族や友人と過ごしていた時間に、過酷な訓練を行っていたんだ。
お前らが辛いと言っている訓練が、俺達にとっては、ただの準備運動になる程に鍛えられただけだ。
その領域に辿り着いていないお前達から見れば、天才に見えてしまうだけだ。
本気で強くなりたかったら、俺達の領域まで登ってこいよ。
才能が無いとか言い訳は出来ないぞ。
ここに居る以上、俺達と同じ領域に来るだけの才能はある。
あとは本人の努力次第だ」
食堂に沈黙が覆った。
多くの人が何かを噛み締める様にして俯いている。
『そんなの出来るわけない』
誰かの呟きがやたらと大きく響く。
「なんだ、何もしないで、諦めるのか。
ランクB以上の能力者の殆どは、這い上がってきた者達だ。
この基地なら、吾郎、久喜、
ああ、努力も才能だったな。
食事も終わった事だし行こうか」
伊坂さんの言葉に従って、私と高月さんは食堂を出た。
食堂側から私達の姿が見えなくなった場所に、中之さん立っていた。
「伊坂、ずいぶんな発破を掛けたな。
全員、轟沈してるじゃないか」
中之さんから、心なしか楽しそうな感じがする。
「ええ、自分の都合の良い理由を付けて神城さんを特別扱いする事で、自分のプライドを守ろうとしているのが分かりましたからね。
単に自分達が、一段上に居るだけだと教えたんですが、思った以上に甘ったれてます。
この後、どれだけ奮起出来るかどうかが問題ですね」
対して伊坂さんは、大した興味もない感じだ。
「その通りだな。
しばらく様子見だな。
それと、平田が目を覚ましたと連絡が入った。
体の方は問題が無いそうで、明日退院できるそうだ」
「分かりました。帰りに病院に寄って確認します」
「頼んだぞ」
そう言った後、中之さんは、調理場の作業音と食器の触れ合う音しかしない食堂に入っていった。
私達は、駐屯地を出て病院に移動して、平田さんを診察している。
確かに体は正常だったが、
体を正常に動かす為に
今までは、大きな
なので、
その事と今後の治療方針を伝えると
「
と言うので
「元々の
それに、無理に流通量を増やした事で
その場合、平田さんの魔力量なら、700mから20kmの範囲が魔力爆発で吹き飛びます。
なので、その選択肢はありません」
と伝えると、大人しく療養する事に同意してくれた。
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