第69話 変化(1)

 公開演習から2週間たった。

 世間では、守護者の登場で大事になっていた。

 周辺諸国は、クーデター政府と友好関係を築く為、特使を派遣してきた。


 国内では、守護者に対して賛否両論が巻き起こった。

 賛成派は、戦争の抑止力向上、防衛力強化に肯定派が占めた。

 反対派は、周辺諸国との軋轢あつれきになるとか戦争になるとか平和には不要とか理想論しか語らない者達が占めた。

 反対派の中には、守護者の排斥運動を行う者まで居た。

 多くの人が中立?、日和見ひよりみだったが、賛成派がやや優勢状態でメディアの討論会が多数開かれていた。

 しかし、周辺国の何カ国が戦争の準備を完了していて侵攻直前だったが、それらの国々が戦争準備を解除して、特使を送ってきた事が大々的に報道された事で状況が変わった。

 特に、反対派の中でも旧政権に近い人物や経済界の大物の人達、排斥派の人達の醜聞スキャンダルも次々発覚した。

 その一つに、戦争を準備していた国と繋がっており、支配後に重用される密約を交わしていた。

 当然、彼らは国賊として追われる立場になっていった。

 そのため、国内の世論としては概ね守護者は歓迎されていった。


 そうなると今度は、守護者に近づこうとする人が出てくる訳で、国会議員なんかは「守護者契約が有るのだから国会議員には会う資格がある。」とか言い出すし、有名人なんかはテレビやSNS等で対談希望を全面に打ち出して拡散したりしているが、岩倉長官は『守護者の地位に着いているが、対魔庁の一職員いちしょくいんにすぎない。また、本人との間に秘密保持契約ひみつほじけいやくを交わしている以上、個人情報の公開は一切行わない。』と明言して一切合切いっさいがっさい取り合わなかった。


 すると、『強者には、弱者を守護する義務がある。それなのに、姿を表さないのは、義務の放棄だ。』と騒ぎ出す者達が出てきた。

 岩倉長官は、「『強者の義務を言うのなら、弱者の責務を果たしたして貰おう。

 弱者は弱者らしく、大人しく強者の意向に従うべきだ。

 何も見ず、何も聞かず、何も言わず、大人しく従うべきだ。』

 と返すべきか?


 そもそも、能力者だろうが、非能力者だろうが関係ない。

 同じ人間なのだから、対等であるべきなのだ。

 なのに、非能力者だから守られるのが当然とか、非能力者は能力者が管理する義務があるという発想になる事事態じたいがおかしいのだ。


 そういう思想こそ、我々は唾棄だきすべきものだ。

 なぜなら、その思想を実行した者達こそ、前政権関係者達だ。


 彼らが何をした。

 能力者を兵器に仕立て

 欺瞞ぎまんに満ちた言動で、国民をあざむ

 自らの欲望の為に、国民を犠牲にした。

 一体どれ程の無辜むこの民が犠牲になった。


 我々は、この『弱者の傲慢ごうまん』が招いた結果を既に知っている。

 同じてつを踏もうとする者を放置する事は出来ない。

 我々は、厳正に対応する。


 それに、守護者も一人の人間なのだ。

 守護者だから、能力者だから、強者だからと言って、個人の尊厳と自由を奪って良い理由にならない。

 能力者にも、平穏に生きる権利があるのだ。

 それを『弱者の傲慢』で奪うことは許されることではない。

 そして、『弱者の傲慢』を声高らかにうたう者も許さない。

 我々は、徹底的に取り締まる事も視野に入れている。


 だからと言って、強者のおごりも傲慢も容認するつもりはない。

 此方も厳正に取り締まる。」

 と公表後、「弱者の傲慢」の扇動せんどう者達を逮捕していった。


 それで、クーデター政府に反感が高まるかと言うと、そういう事はなかった。

 クーデター政府は、若干の減税措置を行い、市民生活に係る行政・企業活動には一切制約を課さなかった。

 代わりに、旧政権の汚職に関係した省庁・企業を徹底的に叩いた。

 利権を貪る外郭団体がいかくだんたいも同様に多数潰され、天下りで甘い汁を吸っている者にも鉄槌を下していった。

 こうやって、無駄に使っていたお金を回収して、人身売買の被害者、福祉、医療、防衛費に回される事になった。


 そんな中、私の周りは平穏だった。

 相変わらず、訓練所の女子寮から学校に通い、通学中に魔力制御の訓練、夜に女子寮の皆さんから勉強を教わり、週末に研修と戦闘訓練を行っていた。


 その日、朝いつも通りに起きれなかった。

 強烈なお腹の痛みで目を覚ましたが、お腹の中が痛くて起き上がる事が出来ない。

 布団の中で丸まっている事しか出来ない。

 私の状態が可怪おかしい事に気づいて近づいてきたあおいさんに、お腹が痛くて動けない事をしどろもどろに伝えると、布団をめくられた。

 私の様子を見た葵さんは、ものすごい勢いで部屋を出ていった。

 成美なるみさんと陽葵ひなたさんを連れて戻ってくると、成美さんは私のクローゼットを開けて何かを探し始めた。

 葵さんは、自分のクローゼットからタオルとビニール袋を取出していた。

 陽葵さんは、私の寝巻きを脱がしている。

 脱がされたショーツが真っ赤に染まっていた。

 股間にタオルを当てられて、体をバスタオルで巻かれた状態で、葵さんと陽葵さんに浴室に運ばれて体を洗われた。

 脱衣所には、替えの服とサニタリー用品が準備されていた。

 着替えた後は、寮監室に連れて行かれて、部屋のソファーで背もたれに体を預けている。

 温かいココアを貰ったので、ゆっくり飲んでいると少し落ち着いてきた。


 部屋の方は、他の寮生の方々が片付けてくれたそうだ。

 護衛役の人にも連絡を入れてくれたので、もうじきここに来るそうだ。

 もうすぐ6時30分になるので、寮生の皆は私の事を心配をしながらも始業時間が迫っているので大急ぎで準備をしている。


 少し落ち着いても、お腹は痛いし、頭は痛いしクラクラする、気持ち悪い。

 ソファーでウトウトしていると、お腹の中から何かが降りてくる感触で目が覚めた。

 若桜「あら、起きたのね。体調はどう?」


「あ、若桜さん。おはようございます。

 体調は悪いです。今も、お腹の中で何かが降りてくる感覚がして目が覚めました。」


 若桜「そう、ならナプキンの替え時ね。

 トイレにって交換しましょう。」


 若桜さんに連れられてトイレに行き、ナプキンを交換する。

 小袋に使用済みの物を入れて口を縛ってから、専用のゴミ箱に捨てる。

 若桜さんと共に寮監室に戻る。

 正直、違和感が凄すぎて気になって歩きづらい。

 ソファーに座ると、温かいお茶を貰った。

 お茶を飲むとホッとする。


 寮母「食欲はどんな感じ?」


「気持ち悪くて、何も食べたくないです。」


 寮母「なら、お昼ぐらいまでそこでゆっくりとしたら良い。」


「・・・女性ってすごいんですね。」


 若桜「急にどうしたの?」


「だって、毎月、こんな大変な思いしているんですよね。」


 若桜「人によって差は有るけどね。」


 寮母「要は慣れだよ。嬢ちゃんもこれには慣れるしかないからね。」


「うへー、慣れるかな。」

 ソファーの上で脱力した。


 若桜「優ちゃん知ってる?

 生理って、2日目が一番辛いのよ。

 それに、初潮でしょ。

 初めてだから余計に辛く感じるのよ。

 もう直ぐお昼だから、お昼を食べたら部屋で横になりましょう。

 体を冷やすと余計に辛くなるから、しっかりと体を温めておかないとね。

 あと、ナプキンは量が多い時はこまめに交換してね。

 だいたい1~2時間毎に交換ね。」


 私は、更に脱力するのだった。


 お昼には、消化に良いうどんを少量食べて、若桜さんから貰った生理痛に効く薬を飲んでから横になっていた。

 夕方には、大分マシになった。

 夕食の時間に、若桜さんが呼びに来たので一緒に食堂に行くと寮の皆いて、食事には赤飯が出た。

 物凄く恥ずかしく、そして女性になったんだという実感が襲ってきた。

 もう、男の頃とは根本的に違うんだと思い知らされた。

 どこかしら心の中で男の感覚が残っていたんだと思う。

 それが、不要な物になった気がした。

 あまり多くは食べられなかったけど、ゆっくり食べました。


 食後は、体を綺麗にしてから休みました。

 流石に今日の勉強家は中止になりました。


 翌日の2日目は、若桜さんの言葉通り昨日より辛くて、ほとんどを布団の上で過ごす羽目になり、2日連続で学校を休む事になりました。

 生理の時、学校を休んだり、体育を見学している女生徒の気持ちが良く分かった。

 今日は、植松さんが寮で身の回りの世話をしてくれました。

 母さんへの報告は、昨日の朝の時点で氷室さんが連絡して、護衛役の女性陣と三上さんも様子見で訪れていたそうだが、私がうたた寝している時だったのでそのまま帰っていったそうです。

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