第155話 中部駐屯地 週末訓練(2)

「作戦時の魔力運用効率の低下?

 確かに、作戦行動時には普段と同じ事が出来ない事が多々あります。

 でも、それ程能力低下しているとは感じていません」

 都竹さんのお母さんの反論に、周囲の隊員達も同意している感じだ。


「各部隊の運用データを思金おもいかねの研究者が解析した結果と、東海支局教導隊で実測した結果を比較した結果、同じ結果になりました。

 なので、この事は事実です。

 恐らく、伊坂さん位になるとその辺を実感していると思います」


「ん!ああ、そうだな。

 この間の資源ダンジョンへの遠征でもそれは思った。

 普段の訓練の様子から想定したダンジョン踏破時間より、時間がかかっていたな」


「なので今、思金おもいかねと教導隊で魔力運用効率改善の教導方法を研究しています。


 今日行った訓練は、研究中の教導方法の一つです。

 効果の程は教導隊で実証済みですが、まだまだ課題が残っている方法です」


「研究中の教導を教えて大丈夫なのですか?」


「問題有りませんよ。

 効果は実証されましたが、課題が山積していますから実証テストの一貫と考えて貰っても構いません。

 なので、私の教導は基本的にこの訓練を中心となります。

 この教導は、あくまでも自己判断に拠る参加なので、教導内容に不満があるならば参加しなければ良いだけです」


 私の言葉に周囲で動揺が走る。

 恐らく、私との戦闘訓練で短期間で強くなれると思っていたのだろうが、物凄くハードな基礎訓練を課すと言った為だろう。

 訓練は物凄く地味で単純な魔力操作の繰り返しなのに、集中力と体力をごっそりと奪うからな。


「神城教導官は、私達には基礎能力が足りないと仰りたいのですか?」

 都竹さんのお母さんは、厳しい顔で尋ねてきた。


「有り体に言えばその通りです」

 私の言葉に反応して一気に騒がしくなる。


「出来れば、どの程度能力が足りていないのかお伺いしても宜しいですか?」


「まず、基本的な戦闘技術については問題有りません。

 それに対して魔力制御・運用効率に至っては、訓練生に毛が生えた程度と言ったところです。

 能力に見合った制御力に至っていません。

 これを改善しなければ、これ以上の部隊強化は無理であるというのが教導隊と思金おもいかねの判断です」


「話の感じだと、普段から能力低下している言う事でしょうか?」


「その通りです。

 思金おもいかねが算出した最大出力の60%も出ていません」


「すると、この訓練を積めば理論値に近い出力を得る事が出来るのですか?」


「その通りです。

 それに、制御力が上がれば魔力量も増える可能性もあります」


「なるほど、なるほど。

 地味で苦しい訓練だけど、リターンは多いと言う事ね」

 腕を組んでウンウンと頷いている。


「これを聞いて離脱する人いる?」

 都竹さんのお母さんは大きな声で周りを確認するが、離脱希望者は居ない様だ。


「あ、そうだ。

 都竹3尉、貴方は相当頑張らないといけませんよ」


「はい?どういう事でしょうか?」


「私が、貴方の娘さんとお友達に教導しているのは知っているでしょう」


「はい。知ってます」


「彼女達にも、似たような訓練を施しています。

 まだ、魔力量はランクF2程度で自力で魔力調律状態に成れませんが、強制的に魔力調律状態にした時の維持時間は、10分を超えています」


「え、ちょっと、魔力調律状態維持時間で娘に負けてる!!」


「能力訓練を初めて1週間足らずですが、4人共魔力量がランクF2を超え、調律状態の維持時間が10分超えました。

 また、全力の魔力纏身まりょくてんしんの維持時間は30分を超えました。

 このまま順調に行けば、7月に入る頃には魔力量E1まで伸び、自力で魔力調律状態に成れる様になりますよ。

 その頃には、魔力調律状態の維持時間も30分を超え、60分に到達する可能性もありますね」

 私がニコニコしながら言うと


「まずい、親の沽券に関わる。

 最低限、同じ位の維持時間を達成しなければ」

 そう言うと、残りのご飯を掻き込み始めた。

 それに倣った様に、大急ぎで食べ始める人が続出した。


「都竹3尉が慌てる理由は分かるけど、何故他の人も慌ててるの?」

 飛騨さんは、そんな様子に疑問を口にした。


「魔力量の最短ランクアップの記録って知っていますか?」


「いいえ。知りません」


「F1からE1になるまでの最短時間は、3ヶ月です」


「3ヶ月。

 今が4月で7月にはE1まで増えると、4、5、6…3ヶ月でランクアップ!」

 指折りながら、月を数えた。


「他の最短ランクアップ記録は

 E1からD1までが6ヶ月。

 D1からC1までが18ヶ月だ。

 その4人が訓練校を卒業頃には、ランクC1以上に達している可能性がある。

 そんな人物を対魔庁が放置出来るわけ無いだろうから、卒業と同時に入庁する事になるだろう。

 しかも、入庁時でお前達より少し低い能力の者達だぞ。

 実戦を積めば、あっという間に同等レベルになるだろうから、直ぐに戦術課に配属になるだろう。

 だから、これから来るだろう後輩に遅れを取らない様に、気概がある連中が動き出しただけだぞ」

 山本さんの説明に、飛騨さんも周りも更に慌てだす。


 澪さんが飛騨さんの肩を叩き

「今、焦っても意味がない。

 今は、ご飯を美味しく食べる方が重要。

 それに、ただいたずらに体を虐めても意味がない。

 訓練時間を増やす事も大事だけど、休憩時間も重要。

 無理をしても良いこと無い」


「そうだね。

 訓練時間の確保も重要だけど、質の向上も重要だよ。

 訓練方法は分かったんだから、あとは試行錯誤しないとね」

 萌さんも慌てた様子がない。

 まあ、私の訓練に付き合った経験があるからなんだろうな。

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