第266話 1年次夏期集中訓練 2日目(15)

 不思議に思い。

 スマホを置いて手を影に入れると入る。


 機械がダメなのかな?

 近くの机の上に置いた。

 机の上の筆記用具入れから、シャープペンシルを持ち出して影に手を入れ様とすると弾かれた。

 鉛筆は?

 紙は?

 ダメだった。


 何故だろう?

 と思いながら影の能力アビリティを発動した状態で、色々と試すが入れる事が出来ない。


 うーんと考えていると、膝の上に置いていた鉛筆が影の上に落ちて、そのまま影に沈んだ。

 思わず拾い上げた。

 その鉛筆は、入れようとして弾かれたものだ。

 その鉛筆を持って、影に手を入れると入った。


 机の上に置いた物を掴み、影に入れようとすると弾かれた。


 ひょっとして、しばらく身に着けていないとダメなのかな?

 今、影に入れようとすると弾かれる物を持って、時間を測りながら影に入るかどうかを試す。


 1分はダメ。

 2分はダメ。

 3分はダメ。

 ・

 ・

 ・

 9分はダメ。

 10分は入った。

 手に持った消しゴムからシャープペンシルに変える。

 これも入った。

 では、スマホは?

 入った。


 では、メモ用紙に今の日付と時間を書き込んで影に突っ込む。

 少し離れたソファーの影に行き、影の世界に飛び込む。


 琥珀色の世界を見渡すと机の影の少し下にメモ用紙が見えた。

 取りに行く前にスマホのカメラを起動し何枚かの写真を撮った後、動画に切り替えて撮影しながらメモ用紙を取る為に移動する。


 メモ用紙は、所々虫食い状態になっていた。

 取り敢えず回収してから、再びソファーの影に移動して影の世界を出る。

 メモ用紙を確認するとボロボロになっていた。

 机の上にメモ用紙を置き、スマホの写真と動画を確認する。

 どちらも一面琥珀色の映像が写っているだけだ。

 私が見た風景は写っていなかった。


 今度は、鉛筆とメモ用紙を机の影から入れ、ソファーの影に移動して手を突っ込み、鉛筆とメモ用紙を呼び寄せ様としたがダメだった。

 机の影の元に行き、手を突っ込んで鉛筆を呼び寄せ様とすると手に何か当たったので掴んで取り出すと鉛筆だった。

 次は、影に手を突っ込みメモ用紙を呼び寄せる。

 鉛筆とメモ用紙を机の上に置いて観察すると、どちらもボロボロになっていた。


 別のメモ用紙を影に突っ込み。

 自分は、ソファーの影から影の世界に潜る。

 メモ用紙の側で変化を観察する。


 時間と共に朽ちていく。

 ふと自分の持っているメモ用紙をズボンのポケットから取り出すが、こちらは問題が無い。

 ひょっとしたら、魔力が防護しているのかもしれない。

 魔力の防護が切れたから朽ち始めたのかもしれない。

 その事を、影の世界でメモ用紙に書き込んでみる。

 うん。普通に書けた。

 では、元の世界に戻るとどうなるんだろう。

 メモ用紙に文字を書いた物を机の影の下に置いてからソファーの影から出る。

 机の影の元に行き、影の世界に置き去りにしたメモ用紙を取り出す。

 メモ用紙は、ボロボロになっていたが文字は残っていた。


 ソファーに座り、分かった事をメモ用紙に書き出す。

 書き出しながら思いついた事も実験する。


 1.影の世界への出入りは影の能力アビリティを用いて影から水に飛び込む感じで入る。

 この時、自分の影からは入れない。

 2.出入り口の影を通過中に影が消えると、通過中の物体は切断させる。

 3.影を通過させるには、影の能力アビリティの使用者の魔力が浸透する必要がある。

 最低10分は、身に着けている必要がある。

 4.影の世界では、影の能力アビリティしか使えない。

 呼吸は出来るが、影の能力アビリティの影響による可能性が高い。

 5.影の能力アビリティの使用者の魔力が無くなると、物質は影の世界に分解される。

 6.影の能力アビリティの使用者からは、半透明の壁越しに元の世界が見えるが、スマホのカメラには映らなかった。


 他には何かあったかなと考えていると、美智子さん達の訓練が終了した様だ。

 書いているメモ用紙を机の上に置くと、ビニール袋を貰いに寮監の元に行く。


 ビニール袋を貰って談話室に戻ると、照山さんが必死にメモ用紙を自分の手帳に書き写していた。


 少しして

「よし、終わった」

 の声の後、伸びをしている。


 私は、机の上の劣化したメモ用紙や鉛筆を別々のビニール袋に入れ、袋に実験の条件を書いて照山さんに渡した。


 照山さんは、始めは驚いていたが直ぐに意図を理解した様で

「直ぐに検査に掛ける」

 と言ってすごい勢いで出て行った。


 香山さんが苦笑いをしている横で美智子さん達は呆然としている。


「どうしました?

 訓練が終わったなら、もう寝ましょう。

 でないと明日起きれないですよ」

 と言うと、郁代さんが

「どうしてそんなに落ち着いているのよ」

 と詰め寄りながら言ってくる。


 私の前に来ると、私の両肩に手を置き

影潜りシャドウダイブなんて、ゲームや漫画の世界の力を手に入れたのよ。

 普通、もっと興奮するものでしょう」

 と凄みながら言ってくる。


 そう言われて

「あー。

 そういう事か」

 と納得した。


「もうね。

 そういうの疲れたからいいです」

 と答えると

「ん! どういう事?」

 と首を傾げている。


「どういう訳か。

 やる事成す事前例が無いって言う事が多くて。

 そういう事を何度も経験していると、必要最低限の検証結果を渡して後は思金おもいかねの研究者に丸投げする事にしたの。

 どうせ後で追加検証だと言って大量の検証依頼が来るのは分かっているからね」

 と言うと

「そうなんだ。

 って言うか。

 こういう新発見とか以前にもしてるの?」

 と驚いている。


 香山さんが

「あー。

 優ちゃんは、新発見とか実証不可とか言われる事を多数実現しているからね。

 思金おもいかねの研究者からもかなり重宝されているんだ。

 だから新発見を見つけても、仕事意識が強く出ているだけと思うよ」

 と補足説明してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る