第259話 1年次夏期集中訓練 2日目(8)

「そろそろ、訓練に戻りましょうか」

 と言う伊島さんの言葉で、訓練に戻る事になった。


 私と照山さんは、伊島さん達と別れ、高エネルギー射撃室に移動して攻撃系の能力アビリティの訓練を行ってから第二プールに移動する。


 ちなみに、今回も30分で魔力貯蔵庫を満タンにした。

 研究者達も手加減されているのを知っているので、より耐久性と吸収能力の高い物を作ろうと躍起になっている。

 その証拠に、高エネルギー射撃室には見知らぬ計器がごそっと増えていた。

 夏期集中訓練中に強化出来るかどうかは不明だけど、近い将来には強化されていそうだな。


 第二プールに移動して再び水着に着替える。

 一応、更衣室で干していたが、まだ湿っぽい。

 着ける時にちょっと不快感を覚えながらも、プールに入ってしまえば一緒と思い直して着替える。


 準備運動をしてから水に入る。

 直ぐに水中呼吸をの復習を行いながら深度10m位まで潜る。

 そこで問題が無い事を確認してから、水中での行動の基本的な事を学ぶ。

 水中での体勢の維持の仕方。

 水中で会話する技能スキル

 水中機動の基本である水流ウォータージェット推進の技能スキル


 特に重要なのが減圧症対策の技能スキルだ。

 これを怠ると最悪死亡する可能性がある。


 そして、水中の基本中の基本、それは水面の方向の把握だ。


 言われれば、なんだ普通の事じゃあないかと思うかもしれないが、実際に激しい水中機動を行うと、上下左右の感覚がおかしくなり水面が分からなくなる。


 まず、基本的な事が出来る様になると、水中で照山さんを追いかけると言う訓練を行った。

 その際、常に海面の方角を意識する様に言われて10分間の追いかけっこをした後に、水面に浮上する様に言われ浮上しようと行動した。

 そうしたら浮上ではなく、プール底に向かって潜っていた。

 それに気づいた時は、流石に驚いた。


 パニックになる前に、見崎教導官と梅原教導官が左右から腕を掴んで水面に誘導したので、事無きを得た。


 プールという限定された場所でも水面が分からなくなったのだから、何も無い海では致命的な事になりかねない。

 だからこそ、冷静に感知する事が必須という事を身を持って学んだ。


 その後も何度も水中機動での追いかけっこを繰り返し、水面を認知する訓練を行うが、15時になるまでの間に正しく水面の方向を当てたのは3回だけだった。


 休憩と言う事で、プールサイドで休む事になった。

 そこには、椅子と飲み物が準備してあった。

「お、注文通りに届いているな」

 と見崎教導官が言ったので、彼が準備したんだろう。


「さあ、休憩しましょう」

 と梅原教導官が言い、飲み物を1つ取る。


「じゃあ、いただきます」

 と言って照山さんも1つ取る。


 剣先教導官が、残った2つをそれぞれの手で持つと、右手に持った飲み物を私に差し出し

「水中戦の訓練時は、休憩の時に必ず栄養補給をする必要ある。

 実感は無いだろうが、相当なエネルギーを消費している。

 この後の訓練の為にも飲みなさい」

 と言われたので、受け取り一口飲むと

「甘い」

 と言うと、剣先教導官は

「うちの購買特製のミックスジュースだからな」

 と言って笑った。


「エネルギーの吸収に良いしカロリーも結構あるから、ここでの水中訓練時には毎回頼んでいるのよね」

 と梅原教導官が言った。


「太らない?」

 と思わず聞いてしまった。


 美智子さん達の一緒に居ると、どうしても甘い物を食べ過ぎる場面が何度かあった。

 そして私は、食べ過ぎカロリーを過剰摂取するとお腹ではなく、胸に行くらしい。

 そして、5月に買ったブラジャーがキツくなり始めたので、また胸が大きくなってきている様だ。

 正直、今でも武器を振るうのに邪魔になっているのに更に大きくなるのは困る。


「神城さんも、女性なんだね。

 大丈夫だよ。

 今日の水中訓練での消費カロリーは、5,000キロカロリー以上消費するから、それを飲んだ位じゃあ影響しないよ。

 むしろ、飲まない方がエネルギー不足で危険だから飲んでくれ」

 と言われて、飲み始める。


「神城さんの場合、痩せちゃうかもね」

 と梅原教導官が言った。


「痩せる?」

 と問うと

「神城さんって、あんまり食べないでしょ。

 一般女性の半分位しか食べなから、摂取カロリーも600~900キロカロリー位じゃあないのかな。

 それを飲んでも、1,200~1,500キロカロリー位にしかならないわよ」

 と言われた。


 私は、体格に比べて細い(一部を除く)。

 これ以上痩せるのは困るが、胸だけ大きくなるのも困る。

 その事で思い悩んでいると


「水中訓練を終日行う日は、日に7,000キロカロリー以上摂取して欲しい所なんだけど、無理強いはしないわ。

 だから、痩せて事は覚悟しといてね」

 と言われて、思わず身を乗り出して梅原教導官に詰め寄った。


「え、なに?」

 と驚きを表す梅原教導官に

「この訓練を積むと、胸が痩せるって本当ですか?」

 と問うと

「ええ、多くの女性訓練生が通る道よ」

 と答えが返ってきた。


 思わず、両手を上げて

「やったー。頑張るぞ」

 と大きな声が出た。


 困惑している中、一番早く復帰した照山さんが

「普通、嘆く所なんだけど」

 と零した。

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