第233話 1年次 6月総合試験結果(6)

「ではその回転方向で、回転速度を上げて魔力値がゼロになる様にします」

 と指示を出す。


 毒島君は一生懸命魔力値を下げる為に努力を始めるが、1割程低下した所で止まった。

 諦めて止めそうになっているので

「そのまま続けて。

 例えゼロにならなくても構いません。


 回数を熟せばゼロに近づいていきます。

 1回5分を目安に維持」

 と指示を出す。


 しかし、1分と保たなかった。

 慌てて再び行おうとしたので止めた。


「焦ってはダメ。

 この治療方法は、根気と時間が必要です。

 そして、無理をしやすい。

 その分、心身だけでなく魔力塊マナ・コアにも疲労を溜めやすい。


 だからこそ、如何に疲労を溜めずに訓練を継続する事が出来るかが成否を決めます。

 無理をしない事が、何よりも重要です。


 なので教育官には、魔力の状態と継続時間と訓練回数は、彼の状態を見ながら判断をお願いします」

 と言うと、加藤教育官は

「分かった。そこは俺が管理しよう」

 と言って、毒島君の顔を覗き込むと

「ふむ、たった1回しかしていないのに、結構な疲労がたまっているな」

 と言うと

「俺は大丈夫だ。まだまだやれる」

 と毒島君は、語気を強めて言うが

「これは自覚しにくいのか。

 確かにこの訓練を行う時は、監督者が必要と言った理由が分かった。

 今日は、あと1回やって終わりにした方が良さそうだ」

 と加藤教育官が言うと、悔しそうに下唇を噛み締め下を向いた。


「この手の訓練は、慣れるまで維持時間も回数も少なくなる傾向がある。

 だからまずは、この訓練に慣れる事から始めよう。

 いいな」

 と加藤教育官が毒島君を励ましている。

 毒島君も「はい」と素直に返している。


「この治療は無駄になる事はありません」

 と私が言うと、毒島君は顔を跳ね上げた。


魔力塊マナ・コアの回転は、魔力制御の基本操作です。

 その制御訓練も同時に行っているのですから、悲観的になる理由は無いはずです」

 と言うと、毒島君は加藤教育官を顔を見た。

 加藤教育官も黙って頷いた。


「この治療は、魔力塊マナ・コアに多大な負荷を掛けます。

 なので放課後・週末は、魔力塊マナ・コアを休める為に治療は禁止です。


 治療完了後は、加藤教育官と相談しながら訓練時間を決めて下さい」

 と言うと

「分かった。俺が責任を持って監督しよう」

 と加藤教育官が言ってくれた。


 前田君と沼田君を見てから

「さて、次は沼田君の治療・訓練方法を説明しましょう。


 沼田君の魔力塊マナ・コアは、握り潰した形をしています。

 治療には、等速で魔力塊マナ・コアを回転する方法が最適でしょう。


 前田君の魔力塊マナ・コアは、爆発したモヤッとボールの様な形をしています。

 彼の場合は、魔力を落ち着かせ、魔力調律訓練を行わせると良いでしょう。


 二人共、1回5分程度を目安に日に3回を続ければ、かなり改善されるはずです」

 と言うと、教育官達から

「ナルホド」

 と感嘆の声が漏れた。


「一通りの治療方法と改善方法の教示が終わったので帰りますね」

 と言うと

「ありがとう。助かりました」

 と加藤教育官が言うと、他の教育官達と毒島君達も

「ありがとうございます」

 と言って、頭を下げた。


「では、失礼します」

 と言って、会議室の扉を開けた所で振り返り、呆然と私を見ている毒島君達に向かって

「そうそう、治療費は必要ありません。ではまた」

 と言って会議室の外に出る。

 美智子さん達も慌てて着いてくる。


 一番最後に出た千明さんが扉を閉める時

「神城さんって、何者なんだ?」

 と言う毒島君の声が聞こえた。


 食堂に向かう途中で

「治療が終われば、元通りになるの?」

 と聞かれたので

「元には戻りません。

 あくまでも、成長限界の解除だけです。

 後は、本人の頑張り次第で球形に近づいて行く位です」

 と答えると

「それって、どの位の時間が掛かるの?」

 と聞かれたので

「さあ、分かりません。10年以上掛かると思いますよ」

 と答えると、言葉をなくしていた。


 食堂に行きお昼を食べたが、ピーク時間を過ぎていた為人も少な目だった。

 食後、美智子さん達と別れ宿泊棟に訓練に向かう。

 美智子さん達は、寮に戻り個室への引っ越しを行う。


 そうそう、彼女達の今月の測定結果は以下の通りだ。


 田中たなか 美智子みちこ

 魔力:15,501MP(ランクE1)

 具現化系

  水:F1

 特殊系

  魔力耐性:F2

  記憶力:F2


 都竹つづき みやこ

 魔力:20,180MP(ランクE2)

 身体強化:F4(筋力)

 放出系

  火:F1

  風:F1

 特殊系

  記憶力:F2


 土田つちだ 郁代いくよ

 魔力:12,222MP(ランクE1)

 特殊系

  鑑定:F1

  記憶力:F3

  高速思考:F1


 鳥栖とす 千明ちあき

 魔力:11,094MP(ランクE1)

 特殊系

  探知:F1

  記憶力:F2


 順調に強くなってきている。

 まだ、各人に突出した物は少ない。

 これから、属性判定・習得・放出系・具現化系・特殊系の訓練を始めると、個性が強く出てくると思うから楽しみだ。


 そろそろ、長距離走もやらせたかったのだが、馬鹿やった者達がランニングコースを専有するから、当面は使えないな。

 夏期集中訓練の時まで延期にする。


 午後の訓練終了後、南雲さんや平田さん達全員と一緒に食堂に行く。

 食堂で美智子さん達と合流して夕食を取る。

 その時、寮の部屋割りが変更になった事を教えてくれた。


 何でも寮に帰ると

『訓練生の部屋割りを変更する。

 再発表は14:00に行う』

 と張り出されていたそうだ。


 再発表後に確認したら、今回馬鹿をやった宮園達7人の部屋が、寮の東端に移動になった。

 寮監室からも最も遠い部屋になったのだが、彼女達の部屋や廊下には隠し監視カメラが設置されていて、もっとも厳重に監視されている部屋でもある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る