第125話 治癒士と治癒師(1)

 医院長の一ツ山さんと伊坂さんと共に能力アビリティ治療科に移動する。

 高月さんは、山本さんと久喜さんに今後の予定を伝えに行った。


 能力アビリティ治療科は、能力アビリティを用いた医療活動を行う科で、主に他の科の治療の補佐を行う。

 あとは、魔力関係の病気等の治療も行う。

 その為、所属する人は、生物鑑定、治癒、再生等の医療関係の能力アビリティ技能スキルのいずれかを所有する人に限られている為、人数が非常に少ない。

 治癒の能力アビリティを持つ人は能力者の5%程度で、生物鑑定の所有者も能力者の5%位らしい。


 指1本位の小さな部位欠損は、ランクBの治癒の能力アビリティで治せるが、手足の様な大きな部位欠損は治せない。

 治癒の能力アビリティをランクA以上に成長させた人が居ないので、ランクA以上でどの位部位欠損が治せるか分からない。


 大きな部位欠損に対応した能力アビリティは、「再生」となり、世界でも5人しか所有していない。

 その5人の内の1人が、日本に居るのだが都合が合わず会えていない。


 能力アビリティ治療科の部屋には、6人の男女が居た。

 部屋入るなり、小声で愚痴を言って一ツ山さんに睨まれて沈黙する根岸さん。

 彼女は、昨夜絡んできた女性だ。


 一ツ山さんは、部屋に全員が居る事を確認してから

「全員居ますね。

 遅くなりましたが彼女が以前話した、研修生の神城 優 准戦尉じゅんせんいです」


「東海支局教導隊、思金おもいかね、衛生隊所属の神城 優准尉です。

 よろしくお願いします」


 困惑した一人の男性が

「医院長、聞いていいですか?」


「宮田君、どうかしましたか?」


「我々は、訓練校から研修生が来ると聞いていたのですが?」


「彼女がその訓練校から来た研修生です。

 彼女は既に入庁・配属済ですが、法律の定める訓練校の卒業を満たす為に、本年度訓練校に入校しました。

 なので、在校中は技能が鈍らない為、研修生としてここに来ます」


「分かりました」

 言葉と裏腹に、その顔は困惑と不承が見て取れた。


 上官が研修生を紹介する場合、共通階級呼称呼びか階級を言わないのが通例だ。

 それを敬意を込めて正式階級呼称で紹介したのだ。

 困惑するのも仕方がない。


 対魔庁での階級制度は自衛隊を参考にされているため、等級+所属課+階級が正式だが、普段は共通階級呼称として等級+階級が使われている。

 私の場合、戦術課の准尉なので准戦尉じゅんせんいが正式な階級呼称になる。


 彼は気を取り直して

「私は、能力アビリティ治療科の科長を勤める宮田みやた 幸三こうぞうです。

 よろしくお願いします」


 宮田さんに続き、残り4人も自己紹介をした。

 反応はそれぞれだけど、1名を除いて友好的な対応だった。

 非友好的なのは根岸さんで、上から目線の物言いで人を見下した様な発言をする。

 ハッキリ言って、ツンツンしていて喧嘩腰なんだよね。

 でも、何故か(20代後半のはずなんだけど)小さい子が、背伸びして大人ぶっている感じかするんだよな。


 能力アビリティ治療科の構成は、鑑定士2名、治癒士3名、鑑定・治癒士が1名の6名で、平均ランクがD4位だった。


 治癒士の高山たかやま 裕二ゆうじさんが

「医院長、神城さんの実力はどの程度あるのですか?」

 訊くと

「私がどうのこうの言うより、直接見てもらいましょう」

 と言う事で実演する為に移動する事になった。


 移動中に

「うちの馬鹿が失礼な態度取ってごめんね」

 と声を掛けてきたのが留守るす すみれさんという変わった名字の女性治癒士だ。


 私は彼女に

「なんだが小さい子供が、背伸びして大人ぶっている感じに見えるので、全く気にしてません」

 と答えると、キョトンとした顔になった後、周りもびっくりする程の大声で笑い出した。

 周りが何事かと尋ねるけど、思い出した様に笑いが強くなり、全然収まらない。

 なので、私に聞いて来たので

「私の回答がツボにハマったみたいです」

 と答えると怪訝な顔をされた。


 留守さんの笑いがある程度収まったので、再び移動を開始して高度治療室HCUの前に来た処で、私は足を止めた。

 周りは私が足を止めた事に怪訝が顔をして

「どうかしましたか?」

 と尋ねてくる。


「ここに入ります」

 と一言言うと、一ツ山さんの確認を待つこと無く入室する。

 根岸さんが、一人金切り声を上げて私の肩を掴もうとしたが、物理結界で弾いた。


 私は、探知に感知された反応を追って脇目も振らず歩みを進める。

 周辺に居た看護師や医師も私に気づいて注目している。


 それらを無視して高度治療室HCUの奥で、2名の医師と3名の看護師が集まっている一角に向かう。

 彼らの側には3人の男性がベットで寝かされている。


 彼らも私に気づいて居るが、後ろから医院長達が付いてくるのでどうしたら良いのか反応出来なくなっている。


 そんな彼らの横をすり抜け一人の男性患者の前に来る。

 私の背からすれば、ベットは高く、患者を見るのに苦労するので、土の能力アビリティを使い石で足場を作る。


 足場に登り患者の全体像を見てから、病院着の前面を開けて体を確認する。

 探知と鑑定の両方の能力アビリティで、状態を把握すると右手に薄い水の手袋を纏い、魔力による手刀形成後、患者に手刀を突き下ろす。

 息を呑む音が聞こえるが一切気にしない。


 患者の体の中から反応して居た物を取り出す。

 私の一連の行動に驚いているのか、現状が理解出来ていないのか、誰も一言も発すること無く沈黙して動かない。


「誰かトレイを持って来て下さい」

 私は自ら沈黙を破るが、誰も動かない。

 だから私は、呆然として動かない看護師に向かって

「そこの看護師、トレイか膿盆を持ってきなさい」

 と指示する。


 自分が指名された事に気づいた看護師が、ワタワタしながらステンレス製のトレイを差し出す。

 私が物理・魔力結界で封じた上、土の能力アビリティで作り出した無色透明の鉱物の球形カプセルを置いた。

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