第271話 1年次夏期集中訓練 3日目(5)

「以前は違う姿だったのですか?」

 と都さんが驚き大きな声で聞くと、三上さんは

「ああ、以前は、…普通だったよ。

 能力アビリティの影響で、アルビノ化と身体の若返りが起こった。

 それが今の姿だ」

 と答えた。


 美智子さん達が、驚きで声を失っていると三上さんに

「神城の心身の状態確認と能力アビリティの影響を調べている内に、こいつの並外れた才能が分かってな。

 暴走しない様に訓練を受けさせていたのだが、こいつの物覚えが良すぎるのと教導官と研究者共が面倒を見すぎた結果、こいつから子供らしさが消えて堅物隊員になってしまった。


 だが、君達と一緒に居ると年齢相応の感情と行動が垣間見える。

 だから、もっと引き出してくれ。


 期待しているぞ」

 と笑いながら言われた。


「あ!えーと、がんばります」

 と都さんが答えると郁代さんが

「優ちゃんの以前の姿って、どんな姿だったんですか?」

 と聞くと、三上さんに美智子さん達一斉に注目が集まる。


 三上さんは

「神城の以前の姿か?

 そうだな。

 身長が170cm位の中肉中背で、黒目黒髪、肌も普通の肌色だったらしい」

 と言うと、美智子さんが

「らしい?」

 と聞くと

「家族からの話と写真を見ただけだからな。

 私自身が直接見た訳ではない」

 と三上さんが返した。


 美智子さん達が微妙な顔をしていると

「神城がココに来たのも、身体に影響が出たからだと言っただろ。

 だから、直接見ているのは身体が変化した後だけだ」

 と言うと、納得した様だ。


「じゃあ、発露前と同じ位まで背が伸びるのですか?」

 と都さんが聞くと

「いや、ならんだろう。

 今の状態で、何処まで成長するかは分からん。

 うち思金の医療班も、ギリギリ成長期範囲内だからある程度成長するだろうと言っているが、発露前と同等まで身長が伸びる事は無いと予想している」

 と三上さんが答える。


「じゃあ、じゃあ。

 発露前の優ちゃんもボインボインだったの?」

 と千明さんが質問すると

「いや、まな板だったそうだぞ」

 と三上さんが返した。

 そりゃあ男でしたから、胸なんてありませんよ。


 美智子さん達が私に注目している。

「なんですか?」

 と聞くと

「全く違った進化をしているんだ」

 と郁代さんが真顔で言ってくる。


「進化ってなんですか?」

 と言うと、郁代さんは

「高身長のスレンダーボディから、低身長のグラマスボディに進化したんでしょ」

 と言ってくる。


 男から女に身体が変わったなんて言えないので、苦笑いしか出来ないでいると三上さんがお腹を抱えて笑い出した。


 三上さんは、笑いながら声を絞り出す様に

「なるほど進化か。そうとも言えるのか」

 と言う。


 一頻り笑った後、三上さんは

「神城の様に、身体に大きな変化を学術的に変態と言うんだがな」

 と言うと、美智子さん達は

『ヘンタイ!』

 と声を上げると三上さんは、声色を落とし

「変質者や倒錯性癖の事では無いぞ。

 身体の作りが変わった現象を差す言葉だ。

 元々は、昆虫の様に幼虫と成虫で形態が変わる事をさしたものだからな。


 変な解釈はするな」

 と軽く一喝する。


 シュンとした美智子さん達が

「はい」

 と答えた。


「あのー。優ちゃん以外にも外見が変わった人って居るのですか?」

 と千明さんが聞くと、三上さんは

「そうだな。

 筋力が異常発達した者や獣耳や尻尾が生えた者が居たな。

 国外の報告事例なら、獣頭化した者も居たはずだ。

 あと有名なのは、Susanスーザン Marieマリエ Millerミラーだろ」

 と言った。


「スーザン マリエ ミラー?」

 と美智子さんが口にする。


「アメリカ陸軍の中佐で、高い身体能力と風と水の能力アビリティ使いで有名な能力者だよ。

 生まれは黒人なんだが、能力アビリティ発露後、耳が長く伸び、肌の色が透き通った白色になり、髪もカールした黒髪だったのがストレートのイエローブロンドになった。

 所謂エルフ外観というやつだ」

 と言うと、武井さんがスマホで彼女の映像を出して見せてきた。


 美智子さん達が一斉にスマホを覗き込む。

 スマホを見た郁代さんが

「エルフだ」

 と声を上げた。


「確か、50を超えていたと思うぞ」

 と三上さんが言うと

「え?じゃあ、この写真って若い頃の物?」

 と千明さんが声を上げる


「いや、この映像は今年の物だよ」

 と武井さんが言うと、美智子さん達は

『えー。うそ』

 と大声を上げた。


「どう見たって、10代にしか見えないよ」

 と千明さんが続けた。


 三上さんも覗き込んで

「20年前から変わっていないな。

 魔力保有量が多い者程、老化が遅い傾向があるから遅老と考えられている。


 もっとも、あちら米軍の公式発表しか情報が無いから、なんとも言えんな」

 と返すと、武井さんは

「彼女は、アメリカ陸軍の顔だから、ある程度情報が公開されているけど、詳細はほとんど不明なのさ」

 と続けた。


「へぇー。そうなんだ」

 と千明さんが答えると、郁代さんが私を見ながら

「そうすると、優ちゃんも遅老なの?」

 と質問する。


「それは分からん。

 そもそも遅老の原因も分かっていないから、判断のしようがない」

 と三上さんが答えると、郁代さんが

「そうなんだ」

 と返した。

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