第107話 意外な側面

 翌日、家族と護衛官と共に買物に行く。

 今日の護衛は、山下さん、望月さん、太和さんの代わりに山奈さんと黒崎さんが担当している。

 父さんは、ショッピングモールに着くと直ぐに別行動をしている。


 買物の内容は、昨日の内に書き出された一覧に沿った物を母さんと護衛官の意見を聞きながら選んでいく。


 正直、あまり居心地は良くない。

 ショッピングモールに入ってから、常に注目を浴びているからだ。

 近づいて来ないで、遠くから眺めているだけだからまだマシだけど。


 なかには、山奈さんや黒崎さんにナンパしようとする猛者も居たが、そこは丁寧に退場させられていた。


 買物で、お店を周るついでに、色々なお店の体験コーナも覗いていた。


 黒崎「なにか気になる物でもあった?」


「いえ、なんとなく見ているだけです。」


 山奈「こういう物が気になるの?」

 レースの編み物を指さして聞いてきた。


「なんというか、趣味を持った方が良いと言われて、どうしたら良いのか分からなくて、なにか興味を引くものが無いか見ていたんです。」


 山下「趣味ですか。興味があるものをやってみるしか無いですね。」


 望月「そうそう、やってみて長続きしたものが趣味ですね。」


「そうなんだ。」


 店員「だったら、体験してみませんか?」


「え?」


 店員「やってみないと、本当の楽しさは分かりません。

 是非体験して下さい。」


 舞「お姉ちゃん、やろうよ。」

 そう言って、抱きついてきた。


 店員「え? お姉ちゃん?

 てっきり、妹さんかと。

 すみません。」


 ため息を一つ吐いて

「よく間違われるので、気にしていません。」


 体験費用を払い、私と舞で体験してみた。

 教わりながら、レース針を操る。

 最初は、何処にレース針を掛けるのかが分からず苦戦したが、レース針の掛け方が分かるとすぐに出来た。

 時間的には、15分位でお花のブローチが完成した。

 舞は、悪戦苦闘しながら30分位掛かって完成した。


 自分の作品を見ると、花びらの大きさが均等になっていなかった。

 舞は、うん、頑張った。


 店員さんからは、才能があると言われたが、どうなんだろう?

 黒崎「大丈夫。才能はある。

 回数をこなせば、それなりの作品が作れるようになる。

 だから、頑張ろう。」


「え?」


 山奈「神城さん。六華りっかの趣味は、ファッションなの。

 着飾る方ではなくて、服やアクセサリーを作るのが好きなの。」


 黒崎「この服も、自分でデザインして作った。」


「え?」


 店員「これは、凄いです。市販品かと思いました。」


 今日は、ショッピングモールでの護衛だから、護衛官は皆私服なんだけど、まさか自作とは思いもしなかった。


 黒崎さんと店員さんが色々と話し込んでいる。

 その様子を呆然とみていると

 山奈「六華は、八重花さんの所の服のデザインなんかも提供しているんだよ。

 でも、あくまでも趣味で本職にしたくないから、教導官を続けているんだ。」


「そうなんですか。」


 黒崎「教導官を止めたら、能力アビリティを使う場所がなくなる。

 全力で能力アビリティを使えなくなると、ストレスが溜まるから辞められない。」


「そうなんだ。」


 黒崎「興味があるなら教える。」


「その時は、お願いします。」


 黒崎「分かった。」


 お昼を和食レストランで済ませ、ショッピングモールをまわっている。

 目的もなく、皆でまわっていると、羽佐田さんが作ったロボットに似た物が展示されていた。

 思わず見入っていると

 山下「それが、気になりますか?」


「この間、羽佐田さんが目の前で作ってくれたロボットにそっくりだったので。」


 山下「そうなんだ。」


「この模型も手足が動くのかな?」


 山下「動きますよ。」


「動くんだ。」


 山下「構造が気になるの?」


「うん」


 山下「だったら、自分で作ってみたら。」


「作れるの?」


 山下「その模型、プラモデルだから、このお店で売ってるよ。

 ちょっと覗いてみようか。」


 そう言うと、私の手を引いてお店の中に入る。

 店内の壁の棚一面に大小様々なプラモデルの箱が並んでいた。


 その光景に圧倒されている私を気にすることなく、奥に入っていく。

 中程にある棚の前で止まると


 山下「これが、表に飾ってあった物と同じものよ。」

 そう言って、手に持った大きな箱を渡された。


 山下「初めてやるなら、あとニッパーとヤスリと墨入れペンは必要かな。

 痛っ!!」

 そう言って、私の手を引いて別の場所に移動しようと山下さんは、目の前で後頭部を手で押さえてうずくまっている。


 山奈「優ちゃんは、まだやるって言ってないだろう。」


 山下「もう、痛いな。

 女性モデラーは、少ないから同士を増やすチャンスなのに。」


 山奈「だからと言って、強引な勧誘は見逃せないよ。

 それによく見ろ、状況について来れずに放心しているじゃないか。」


 山下さんは、普段、非常に理知的で、口数の少ない落ち着いた女性で、いつも一歩後ろから見守ってくれる感じの人だ。

 それが、こんなにもグイグイ来るとは思っても見なかったので、驚いて呆けていた。


 山奈「優ちゃん、ごめんな。

 こいつは、兄貴の影響で幼い頃から模型にはまっていて、趣味の事になると暴走するんだ。」


「そう な ん で す か。

 お兄さんの影響?」


 山奈「ああ、うちの兄貴の影響だ。」


 山下「私としのぶは、幼馴染なんだ。」


「へぇー」


 山奈「こいつな、今度うちの兄貴と結婚するんだよ。」


「え?」


 顔を真赤にして

 山下「ちょっと、こんな所で言わなくても。」


 山奈「そういう訳で、身内(予定)が暴走して済まない。」

 そう言って、頭を深々と下げた。


「あ、大丈夫です。気にしてませんから。

 ただ、ちょっと驚いただけですから。」


 山下「それで、どうする?」


「どうとは?」


 山下「プラモデルよ。

 折角だから、一度体験してみない?」


「でも、時間かかるんでしょ。

 そんな時間あるかな?」


 山下「それは、大丈夫。

 訓練校に入っても、優ちゃんは個室だから周囲を気にしなくても良いし、毎週日曜日は基本的にお休みになるから、時間は捻出できるわ。

 私としては、是非とも一度体験してほしいんだ。」


 山奈「嫌なら断っていいよ。」


 期待に満ちた顔の山下さんを見ると断りづらい。

 まあ、1回位は良いかな。


 大きなため息をついた後に

「まあ、1回位なら。」


 山下「じゃあ、あと最低限必要な物を揃えよう。」

 嬉々とした山下さんに手を引かれ、店内をまわる。

 山奈さんがカゴにプラモデルを入れて、着いてくる。


 プラモデルと道具と塗料ペンを購入してお店をでる。

 支払いは、自分でしました。

 だって、人のお金だと、色々と気を使ってしまいそうだったから。


 その後は、特に何事もなく帰宅しました。

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