第256話 1年次夏期集中訓練 2日目(5)

「理論はよくわからない。

 それでも、撃ちたい」

 と真剣な顔をした千明さんが言った。


「教えるのは構いませんが、条件があります」

 と言うと

「条件? 条件て何?」

 と言って、やる気を漲らせている。


「まず、基本形であるアロー系の難易度5まで習得する事。

 次に、レーザーの基本を学んでください。

 そちらは、高圧縮学習装置用の教材を準備して貰います」

 と言うと

「分かった。頑張る」

 と言った後、なにかに気づいた様だ。


「私、光以外だと、辛うじて風玉が出来た位なんだけど」

 と千明さんが言うと、伊島さんが

「不完全でも、基底玉が出来たのだから問題ない。

 他の属性の基底玉も出来る様に頑張ろう」

 と励ましていた。


 食堂でお昼ご飯を食べていると、隣に座った千明さんが

「なんか優ちゃんから、プールの匂いがする」

 と言ったので、美智子さん達の視線を集めた。

 千明さんと反対側の横に座った郁代さんが

「確かに。髪も湿っている」

 と言うと

「いいなー。暑いからプールとかに入って涼みたーい」

 と千明さんが返した。


 都さんが

「何の訓練をしていたの?」

 と言ったので

「水中戦闘訓練の一環で、水中呼吸法を習っていました。

 やっと、水面付近で20分維持出来る様に成りましたよ」

 と言うと

「水の中で息をするのって、とんでもなく難しいのでは?」

 と美智子さんが疑問を口にすると

「対応能力アビリティを有していて、適正の高い人が1日8時間の訓練をしても、習得まで3ヶ月掛かる訓練よ。

 それを半日で習得しました」

 と照山さんが呆れ気味に報告する。


 伊島さんが

「やっぱり、君の適応力は抜群だね」

 と言うが、他の人達は絶句している。


 再起動した都さんが

「優ちゃんだから、深く考えても仕方ないかな」

 と言うと、皆静かに頷いた。


「まあぁ、規格外の神城さんの事は、横に置いといて。

 皆は、どの様な能力アビリティを使える様に成りたいのかな?」

 と武井さんが仕切り直す。


「取り敢えず、今の能力アビリティを使いこなせる様に成りたいです」

 と都さんが言うと

「私も同じです」

 と美智子さんが同意した。


「私は、やっぱりレーザーを撃てる様になりたい」

 と千明さんが言うと

「私は、やっぱりゴーレムかな」

 と郁代さんが言った。


「ゴーレム? 作りたいの?」

 と武井さんが聞くと

「はい。人が乗れる位の大きい奴を作ってみたいですし動かしたい」

 と元気よく答えた。

 武井さんは、乾いた笑いを零している。


「確か、人と同じ位の大きさの人形ひとがたゴーレムが、ゴーレム研究室に置いてありましたね」

 と戸神さんが呟くと、郁代さんが

「見る事出来ないかな?」

 と返した。


 伊島さんが

「ご飯を食べた後に行ってみようか?」

 と提案すると

「はい。行きたいです」

 と即答した。


 食堂に着いたので、各々好きな物を選んで食べる。

 食事中も郁代さんの機嫌は非常に良く、どんなゴーレムかなとウキウキしていた。

 でも、思金おもいかねにある人形ひとがたゴーレムって……。


 食後の休憩もそこそこに思金おもいかねのゴーレム研究室を訪れる。

 研究室に入ると、3人の研究者が休憩をしていた。


 伊島さんが

「お昼休みに失礼するよ」

 と言うと、研究者の1人が

「どうしました?」

 と聞く。


「ちょっと、この子にゴーレムを見せて上げたくてね」

 と伊島さんが、郁代さんの背中に軽く押して前に出す。


 それを見た研究者3人の1人、女性研究者が立ち上がり

「貴方、ゴーレムに興味があるの?」

 と女性研究者が声を掛けた。


「はい。あります。いつか自分でも作ってみたいです」

 と郁代さんが熱意を伝える。


 その女性研究者は、郁代さんの前に音も無く移動すると

「そうなのね。研究室を案内するわ」

 と申し出てくれた。


 残りの2人の研究者も立ち上がり、奥の部屋に走り去った。

 急いで展示する気だな。

 となると、結構な数の研究者が沸いてきそうだな。

 ちょっと遠い目で明後日の方向を見ていた。


 女性研究者が先導し、最新のゴーレム技術を説明する。

 郁代さんは、その横で目を輝かせて聞いている。

 美智子さんと都さんも真剣に聞いている。

 その後ろで、武井さんも興味深そうに聞いている。

 伊島さんと戸神さんは、ほどほどって感じかな。

 千明さんと照山さんは、あんまり興味がなさそうだ。


 奥の部屋から男性研究者が1人顔を出しサムアップをする。

「では、隣の部屋にいきましょう」

 と女性研究者が言うと、隣の部屋に移動する。

 私達も彼女に付いて行く。


 隣の部屋には様々なゴーレムが並べられていた。

 どうやら研究資料用のゴーレムの様だ。

 たぶん倉庫の方には、この10倍は放り込まれていそうだな。


 並べられたゴーレムを1つ1つを見ながら、近くにいる研究者達の説明を聞く。

 この部屋には10名の研究者が居て、早く自分の番にならないかと待ち構えている。


 ほとんどのゴーレムの紹介が終わり、部屋の一番奥に着いた。

 そこには、布を被られた170cm位のゴーレムが立っている。


 案内をしてくれている女性研究者が

「このゴーレムが、今私達を一番熱くしてくれる物です」

 と紹介すると、布を端を郁代さんに渡し布を取る様に促す。

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