第275話 1年次夏期集中訓練 3日目(9)

 照山さんは、私の顔を見ながら

「そんなに膨れっ面しないの」

 と言われた。


「ぅっ」

 と声を漏らすと同時に顔が熱くなるのを感じたので伏せた。

 たぶん、真っ赤になっているんだろう。


「まあ、神城さんの命中率が悪い原因は、ダイビングの経験が無いから何だけどね」

 と照山さんに言われた。


 私は顔を上げ、首を捻っていると

「この訓練は、本来ダイビング装備を着けて行うものだ。

 装備無しの訓練は、ある程度習得後に行う非常時訓練の一環だ。

 時間と装備の関係で、ダイビング技能訓練をすっ飛ばしたからな」

 と見崎さんが言うと、照山さんと梅原さんは微苦笑している。


 さらに

「ダイビング装備は、20kg以上だ。

 場合によっては40kgになる事もある。


 そんな重量物を背中に背負って潜る訳だから、立ち姿勢で射撃すると反動でひっくり返る。

 だから、ダイビング経験者なら立ち姿勢で射撃を行わない。


 水中射撃の時は、反動を抑える射撃姿勢で撃つのが基本なんだ。

 射撃姿勢は、体幹とフィンの動きで維持する。


 だが神城さんの場合、重力の能力アビリティを用いる事で反動を無視出来ていると思っていたのだが、実際には影響が出ていたみたいだな。


 重力の能力アビリティを使わない事により、より顕著に現れる様になったって事だ」

 と見崎さんが言った。


「だったら、先に教えてくれても良かったんじゃないですか?」

 と言うと、照山さんが

「最初から教えるよりも、体験して試行錯誤した後から修正した方が覚えが良くなるし、神城さんが何処まで出来るかも見てみたかったからね」

 と言われた。


 梅原さんに

「そんな変な顔しないの」

 と言われてしまったので、なんとも言えない表情になっていたのだろ。


 照山さんが私の方を向き

「射撃姿勢については後で教えるとして、本題の軌道が逸れる件ね」

 と言ったので、照山さんの方を見る。

 見崎さんと梅原さんも照山さんに注目している。


「神城さんは、水中射撃の時に何を使っている?」

 と聞かれたので

「水槍です」

 と答えると

「それは、放出系?具現化系?」

 と言われた。


「いえ、特に意識していませんでした」

 と答えると

「やっぱりね」

 と返ってきた。


 照山さんは、笑顔で

「高エネルギー射撃室で撃ってもらった時の測定結果から、神城さんの水槍は放出系と具現化系が混合した物でした」

 と言った。


「どちらか一方にした方が良いのですか?」

 と問うと

「一概にそうとは言えない」

 と返ってきた。


 私が首を捻っていると

「短期的に命中率や精度を上げるだけなら、放出系か具現化系の片方の系統にした方が良いのだけど、命中精度なんて訓練次第でどうにでもなるものだからね。


 それに神城さんの水槍は、高エネルギー射撃室での計測の結果、単純に放出系と具現化系の威力を足したものより強いわ。


 それにほんの僅かだけど、水の性質を持った魔性物質が混ざっていた。

 ここでは、魔水(仮)としましょう。


 実際に検出された魔力量から計算された威力より、計測された威力の方が誤差と言えない程大きかったから、放出系や具現化系より強いと思われるわ。


 では、魔性物質を生成出来た二人に共通する点は何か?

 それは、放出系と具現化系の両方で同じ属性を持って、その属性を同時に撃ち出している事よ」

 と言うと、照山さんは私の手を取ると

「だから神城さんには、このまま使い続けて魔水(仮)を習得して欲しい」

 と懇願してきた。


 私は、気の抜けた返事を返した。


 確かに千明さんは、光の属性や他の属性も習得している。

 しかも、全て放出系と具現化系両系統に発露している。

 だが、千明さんが魔性物質を生成出来るのは光だけだ。

 将来的には、他の属性でも生成出来るのではと注目されている。


 私も多くの属性を両方の系統で発露している。

 僅かながらも魔性物質が生成出来た事から、私にも使えると思われる。

 そして水の魔性物質が出来たと言う事は、他の属性も可能だと証明してしまった。

 こうなると、研究者達は躍起になって調べようとするだろうな。


 これから起こるであろう厄介事に頭が痛くなっていると、照山さんが

「そうそう肝心の水槍が逸れる原因は、放出系と具現化系の不均質が原因よ。


 軌道途中で不均質の大きい部分が崩壊する事で軌道が変わっていたわ。

 だから、均一にする事で問題は解決出来るはずよ」

 と言った。


「それはそれで、難しそうです」

 と言うと、照山さんに

「そこは練習あるのみ」

 と正論で返された。


 再び水に潜り、射撃姿勢を習う。

 射撃起点となる右手は、体の中心に寄せて的を狙う。

 体は、的と右手を結ぶ線に対して並行になる様な姿勢を取る。


 射撃の伏せ撃ち似た姿勢だ。

 違いは、左手と両足でバランスと反動制御を行う点だ。

 その為、両足は膝を90度近く曲げ、足の裏が天を仰ぎ、大きく膝を開いた状態だ。

 足をこまめに動かして姿勢を制御する。


 そして射撃姿勢の指導の為に、私の両側に照山さんと梅原さんが居る。

 照山さんと梅原さんは、時折背後にも回って姿勢をチェックしている。

 流石に、真後ろから見られてると……ちょっと恥ずかしい。

 ウェットスーツを着ていれば、気にならないのかもしれないが、今の私は水着だけだからだと思う。


 見崎さんは、的と私の中間で射撃の軌道等を見ている。

 時折、視線を感じるが、気の所為だと思いたい。

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