第201話 訓練と言う名の地獄(3)
Side 大磯司令
グラウンドに出ると、愛知方面隊の隊員と戦術課の隊員が各々準備運動をしているのが見える。
我々に気づいた戦術課の隊員は、一斉に走り寄り、素早く我々の前に整列する。
愛知方面隊の隊員共は、戦術課の隊員に釣られるよう移動し、戦術課の隊員の横に整列するが、こちらは走って来る者は少数で、大半が早歩き程度だ。
既に、士気と練度の違いをまざまざと見せつけられた。
ああ、もうコイツラに期待は何も出来ないな。
いっそ、派手にヤラれてしまえと思ってしまう事も仕方がない。
篠本君が前に出て
「これより、合同訓練あらため、愛知方面隊への懲罰的訓練を行う」
と宣言を行うと、愛知方面隊から非難の声が上がった。
当然、その怒号の矛先には、自分にも向けられたがどうでも良かった。
既に決定事項なのだから、今更騒いだところでどうにもならない。
篠本君の
「静まれ。これ以上騒ぐなら、全員強制収容所行きにするぞ」
の一言で、渋々と言った感じだが静かになった。
「貴様らが何を考えているか知らんが、貴様らが行った行為は隊規を大きく逸脱した行為と断定した。
よって、愛知方面隊の全部隊に72時間の懲罰的訓練を行う事が決定した。
なお、ここに居ない部隊に関しては後日行う」
と宣言すると、荻原の馬鹿が
「我々は、何も隊規を犯していないのに、懲罰とはおかしい」
と大声を張り上げた。
それに言葉に呼応する様に、反発する愛知方面隊の隊員共の声を聞き
「我々は、不当な評価と待遇を受けた事に抗議しただけだ。
我々の実力を再評価し、重用すべきと進言しただけに過ぎない。
それに地元を守るのに、地元の部隊が優先されるのは当然の権利だ。
それを主張して何が悪い」
荻原の英雄気取りの自己満足的な主張に、愛知方面隊の隊員達は賛同し、反発を強めている。
それに対して戦術課の面々は冷静、むしろ軽蔑と哀れみを含んだ感じだ。
篠本君の
「貴様らの自己本位的な主張などどうでも良い」
と言う発言で、更に強く反発しはじめる愛知方面隊隊員達に対して、太和教導官の
「貴様ら、うるさいぞ。静かにしろ」
と言う特大の怒声が響き渡り、静かになった。
「もう一度言うが、貴様らの自己本位的な主張などどうでも良い。
事実、神城准尉が現場指揮をした内容に不備は無い。
そして、合理的かつ的確な指示がなされた事が証明されている以上、貴様らの主張はただの戯言だ。
この件に関しては、大磯司令から訓告を受けたにもかかわらず、騒動を収めなかった貴様らに責がある。
よって、この処罰は妥当なものである」
篠本君の言葉に一同が押し黙る中、顔を真っ赤にした荻原が
「ふざけるな。
貴様らに我々を処罰する権限等無い。
処罰が行われるなら、懲罰委員会なりが開催されたはずだ。
懲罰委員会が開催されたなら、我々の誰かが召喚されたはずだが、誰も召喚されたとは聞いていないぞ。
これは、戦術課による横暴だ」
と怒声を張り上げ、愛知方面隊の隊員達はハッとして息を飲み込んだ。
篠本君は、不敵な笑みを浮かべ
「懲罰委員会は、開かれていない。
そもそも、懲罰委員会に掛ける程の内容ではなく、隊規に違反し、不当に騒ぐ馬鹿共に懲罰を下すだけだからだ。
本部から辞令も下りた以上、いくら騒いだ所で無意味だ。
大人しく懲罰を受けるか強制収容所行きの好きな方を選べ。
強制収容所に行きたい奴は、名乗り出ろ」
と吐き捨てる。
少し待つが誰も出ない。
「ふん、手間を取らせおってからに。
まず、貴様らには神城教導官による訓練を受けてもらう」
篠本君の言葉に続いて、神城准尉が前に出た。
神城准尉の姿を見て、愛知方面隊の面々がざわつく中
「私が神城だ。
諸君には、名城公園戦での指揮官だと言ったほうがわかるだろう」
と臆する事無く淡々と語る。
相手が誰か理解出来たとたん、愛知方面隊の隊員共が罵詈雑言を浴びせかける。
神城准尉は、全く気に留めた様子もなく、鼻で笑っている。
その様子に更にヒートアップしていくが、神城准尉は全く動じない。
むしろ、周囲の戦術課の隊員達の方が殺気立っている。
そんな中、太和教導官がキレた。
「やかましい。静かにしろ」
と怒声を上げと怒気を振りまきながら、地面に1撃を入れる。
その衝撃と爆音で、一斉に静かになった。
「上官の話も聞けないゴミ共め。
俺が根性叩き直してやる」
と怒声を上げながら前に進む。
それに
その状況を変えたのが、神城准尉だった。
神城准尉は
「太和教導官。
怒るのは理解出来ますが、今は私の番です。
自分の番まで、その怒りを温存して貰えませんか?」
と軽い感じで声を掛けた。
太和教導官は、ニヤリと笑い
「神城、コイツラの事をどう思う?」
と問いかけた。
神城准尉は、つまらなさそうに
「ただの
と吐き捨てた。
当然、反発しようする愛知方面隊だが、太和教導官が威圧を効かせたままだったので、踏みとどまっている。
神城准尉は、蠱惑的な笑みを浮かべ
「人々を魔物の脅威から守る事よりも、見栄の為に戦闘に参加したがる愚かさ。
隊規よりも面子を優先する愚かさ。
そして、弱いくせに『俺は強い』と粋がり、英雄を気取っている姿は、滑稽で、ぶ・ざ・ま」
と言って嘲笑するのだった。
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