第202話 訓練と言う名の地獄(4)

 荻原は、抜剣して感情に任せるまま

「小娘、ふざけおって。成敗してくれる」

 と怒声を張り上げならが、剣を振りかぶり躍り出るが、2本の土槍アースランスの柄が交差した所で、首元に打ち付けられて動きが止まった。

 いや、それ以外にも、地面から紐状の物が手足に巻き付いて動きを止めている。


「この程度の拘束すらも破れないなんて、ザーコ、ザーコ」

 と神城准尉の嘲る言葉が響く。


 顔を真赤にし、必死に拘束を外そうと暴れる荻原を尻目に

「話にならない」

 と冷淡な声が響いた直後、派手な爆裂音と共に荻原は、周囲の隊員達を巻き込みながら後方に吹き飛んだ。


 不敵な笑みを浮かべた神城准尉は、愛知方面隊の方に左手を差し伸べる様にして

「慌てなくてもこれから相手をして、あ・げ・る」

 と愛知方面隊を見渡しながら、そう言った後

「そうそう、私、貴方達の事、全く期待していませんし、一人一人相手するのも面倒なので、全員でかかってきなさい。


 それに、折角、10時から15時まので5時間も時間を貰ったのに、1時間後、いったい何人が自分の足で立っていられるのかしら?

 まさか、1人も残らないなんて事無いわよね」

 とにこやかに言う。


 愛知方面隊の隊員は、全員頭に血が上って顔を真赤にしている。

 今にも襲いかからんとしている。


「さて、始める前にもう一つ情報をあげましょう。

 私の能力アビリティは、具現化系の土と水ですよ。

 そこを考慮して、足掻いてくださいね」

 と言うと、愛知方面隊に背を向け対戦位置に歩いて移動し始めた。


 愛知方面隊の隊員は、襲いたい衝動を辛うじて抑えている様に見える。

 愛知方面隊の隊員全員が、神城准尉を睨みつけながら対戦位置に移動を始めた。


 我々も対戦エリア外に出ると、篠本君が忍び笑いをしながら

「いやー、神城さんも役者だね。

 あれだけ煽られたら、嫌でも本気になるよな」

 と言う。


 こうやって外から客観的に見ているから、神城准尉のシナリオが予想出来る。

 彼女は、愛知方面隊を怒らせ、限界まで力を出させた後で、手も足も出ない完全勝利を収めるつもりなんだろう。

 そして、彼女の思惑通りに、愛知方面隊の面々は殺気がダダ漏れで暴発寸前だ。

 後は、神城准尉がどの様に戦うのかを見守るだけだ。


 両者が対戦位置に着くと、伊坂3佐が「始め」の号令をかける。


 号令と同時に一団になって走り出す愛知方面隊の隊員は、瞬時に姿を消した。

 目を見開き、消えた場所辺りを注視した直後に、人が地面から上空に噴き上がる。

 20m以上噴き上げられた隊員達は、物凄い勢いで地面に叩きつけられる。


 違った。

 上空に噴き上げられた隊員は、上空で高速に撃ち出される大量の石のつぶてに打ち据えられて、地面ではなく、表面が肉叩きミート・クラッシャーの様な凹凸がある石舞台に叩きつけられていた。


 石舞台の上でうめき声を上げる隊員達にショックを受けていると

「4秒しか保たなかったか」

 と篠本君の冷静な声が聞こえた。


 そのおかげで、思考が鮮明になった。

 そうか、初手で愛知方面隊の隊員の足元に穴を掘ったのか。

 落ちた所を間髪入れずに上空に打上げて、叩き落したのだ。


 神城准尉は、最初からこれを狙っていたのか。

 あれは、煽って正常な判断能力を奪っていたんだ。


 と納得した所で

「いつまで寝てるんだ。

 さっさと立ち上がれ。

 まだ、始まったばっかりだぞ」

 と神城准尉の怒声が響いた。

 自分は、もう終わったものだと思っていたから驚いて神城准尉を見た。


「次の攻撃を仕掛けるぞ。

 10

 9

 8

 7」

 神城准尉の冷酷な宣言と進むカウントダウン。

 そして、愛知方面隊の隊員達の上で大きくなる影。

 上空を見上げると、愛知方面隊の隊員の上に岩が生成され、どんどん大きくなって行く。


 既に石舞台を覆える程、巨大になっている。

 愛知方面隊の隊員の数人は、カウント5になる頃には上空を見上げ、絶句し固まっている。


 重量は、数十トン?

 いや、100トンを超えているのでは?

 これの下敷きになったら、流石に死ぬのでは?


 清水1尉も同じ考えに至ったのだのだろう。

「おい。やめろ。流石にそれは死ぬぞ」

 と絶叫した。


 清水1尉の声で正気に戻った隊員が大慌て逃げ出そうとしたが、仲間がそこら中に転がっているの見て何人かは逃げるのを止め、岩を迎撃を始めた。


 カウントダウンは無情に「0」を告げられ、高速で撃ち出された。


 遠距離攻撃を持つ者が攻撃を行い、岩の破壊を試みる。

 それ以外の者が岩を受け止める為、防御体勢を取った。


 岩はほとんど破壊される事無く、愛知方面隊の隊員達を1人残らず石舞台ごと押しつぶし、ズシンと言う鈍く大きな音と地面を揺らした。


 あまりの出来事に放心していると、隣で崩れ落ちる音が聞こえた。

 そちらの方に顔を向けると、清水1尉が膝と両手を地面付いて、落ちた岩を睨みつけていた。


 そして、立ち上がると

「どうして。どうして殺した。

 殺す必要までは無いではないか」

 怒声を撒き散らしながら神城准尉に駆け寄るが、太和教導官に止められた。


 神城准尉は、清水1尉の方に向き直り

「彼らは全員生きていますよ。

 多少なりとも怪我をしましたが、命に別状はありません」


 言葉の意味を飲み込むのに少し時間が掛かったが、大慌てで探知の能力アビリティを使って岩の周辺を調べた。


 自分は思わず

「本当だ。岩と石舞台の間に挟まれているが、全員生きている」

 と大声を上げてしまった。

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