第203話 訓練と言う名の地獄(5)

 清水1尉は、ホッとした感じだったが、直ぐに

「助け出さないと」

 と呟き、岩に向かって走り出そうとしたが、太和教導官に肩を掴まれた。


「なぜ、邪魔をするのです」

 と焦る清水1尉に対して、太和教導官は

「焦るな。

 神城は、まだ訓練中止を宣言していない。

 訓練は続行だ」

 と言って外に引きずり出す。

 清水1尉も色々と反論するが聞き入れて貰えない。


 清水1尉と太和教導官が、訓練エリアの外に出ると、石舞台を覆っていた岩が粉々に吹き飛んだ。


 石舞台の上は、死屍累々としており、うめき声が聞こえる。

 またしても駆け出そうとする清水1尉は、太和教導官に止められている。


 次の瞬間

『ぎゃあぁあぁあぁー』

『あ゛がががががが』

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』

 様々な絶叫の不協和音が響き渡り、隊員達の身体が不自然に踊り動く。

 折れて不自然な方向に向いていた腕や脚、明らかに腰や背骨を骨折して、身体をあらぬ方向に捻って倒れていた者、中には骨が身体を突き破り、露出している者も居たのに、映像の逆回転の様に身体が動き、強制的に修復されていく。

 まるで、出来の悪いB級ホラー映画を見ているみたいだ。


 隣の清水1尉は、青褪あおざめ絶句している。

 そういう自分も顔色が悪いに違いない。


 絶叫が治まると、隊員達は石舞台の上に倒れ込んだ。

 静まり返ったグランドに、神城准尉の

「全員の治療完了。訓練を続行します」

 と、感情の籠もっていない声で冷酷な宣言がなされた。


 清水1尉が

「まだ、続けるのか」

 と小声を絞り出した。


「当然です。

 まだ始まったばかりです。

 ここで終わったら、訓練の意味がありません」

 神城准尉から、当然と言わんばかりの返答が返ってきた。

 こちらを向いた神城准尉の顔から、表情が抜け落ちていた。

 ただただ、冷徹かつ合理的に物事を判断する指揮官の顔だ。


 自分は思わず

「この訓練の意味を教えて貰えますか?」

 と聞いてしまった。


「突発的状況に対する反応を見ましたが、大半の隊員が何も出来ませんでした。

 一部の隊員は状況に対応出来ていたので、彼らは今後の鍛え方次第では使い物になると思います」

 と冷たく高く澄んだ声で返答が返ってきた。


 てっきり無視されると思っていたから、回答が返ってきた事に驚いた。

 しかも、しっかりと分析までしていたなんて、思いもよらなかった。

 それは、清水1尉も同じだった様で、唖然あぜんとしている。


 そうしている間に石舞台の周囲には、多数の人影が?

 ロボット?

 いや、ゴーレムかな?

 手には多種多様な武器や盾が握られている。

「4対1で良いか」

 神城准尉のボソッとした声が聞こえた。


 かなりの数のロボット型ゴーレムが石舞台を囲むと、まだ動きの鈍い隊員達に一斉攻撃を仕掛ける。


 分断され数人ずつ固まってロボット型ゴーレムと対峙するが、まともに戦えていない。

 ロボット型ゴーレムに攻撃が通じず、ロボット型ゴーレムの攻撃を受け、ダメージを負っていく。

 そして、ロボット型ゴーレムの攻撃を喰らい、腕や脚を折られたり、殴られて顔が変形する者も居るが、直後に強制修復されてしまう。


 リタイアする事も出来ず、延々とロボット型ゴーレムと戦わされている。

 時間が経つにつれ、隊員達とロボット型ゴーレムの戦力が均衡していた。

 それは、戦っているロボット型ゴーレムの数が減っている為だ。

 ロボット型ゴーレムが減ったのは、撃破したからではなく、戦線から離れ、隊員達を囲む様に立っている。


 そして今は、ロボット型ゴーレム1に対して隊員10名だ。

 しばらく拮抗していると、隊員達にも余裕が生まれ始めた様だ。

 お互いに声を掛け、陣形を整えて戦う様になってきた。


 その様子に内心安堵していたのだが、神城准尉の「次」と言う小さな呟きを聞いてしまった。


 その直後、グランド一帯が強い魔力で満たされた。

 隊員達の動きが極端に悪くなり、ロボット型ゴーレムに一方的に蹂躙され始めた。

 ロボット型ゴーレムは、隊員達を1箇所に吹き飛ばし集めた。


 ロボット型ゴーレムが後ろに下がると、隊員とロボット型ゴーレムの間に、やや牙が大きい大型犬?のゴーレムが地面から迫り上がってきた。


 大型犬?ゴーレムは、隊員達を囲むと連携して攻撃を仕掛けている。

 数は30体程度で、20体位が周囲の囲みを維持しながら攻撃を仕掛けている。

 攻撃時や囲いに穴が開くと、囲いの外側に居る大型犬型ゴーレムがすかざすフォローに入る。

 そして、隊員達の死角を的確に突く攻撃を仕掛けてくる。


 その様子を見て気づいた。

 アレは大型犬ではなく、牙狼ファング・ウルフのゴーレムだ。

 嫌らしい程、本物そっくりの行動を取っている。


 牙狼ファング・ウルフは、単体ではランクF7~E4の魔物だが、群れで活動する魔物だ。

 その為、群れの規模が大きくなると非常に厄介となる。

 それを再現したゴーレムだから、それなりの強さだろう。


 通常空間なら、30匹程度の群れなら1班(4~6人)でも容易にほふれるだろが、高濃度の魔力に満たされた高負荷環境では、牙狼ファング・ウルフゴーレムの11倍の数が居る隊員達でも厳しい様で、防戦一辺倒になっている。


 隊員達は円陣を組み、死角を減らしながら牙狼ファング・ウルフの攻撃を弾くので精一杯だ。

 下手にかわして後逸こういつしてしまうと、背を向けている仲間をそのまま狙われるから仕方が無い。

 だから、焦らず1匹ずつ釣って、各個撃破をして欲しい所なのだが、堪え性の無い隊員が溜めのある技必殺技を使おうとして、無防備になった所を5匹に襲われ、囲いの外に引きずり出され、牙狼ファング・ウルフにボコボコにされた後、ロボット型ゴーレムによって囲いの中に放り込まれた。

 あちこちを噛まれ、骨を折られたにも関わらず、即座に回復させられている。

 終わりの見え無い戦いは、まだ続く様だ。

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