第204話 訓練と言う名の地獄(6)

 牙狼ファング・ウルフゴーレムとの戦闘は、隊員達の劣勢が続く。

 そんな中、牙狼ファング・ウルフゴーレムを3体撃破出来たが、集中力を欠いて襲われる者や周囲のフォローが間に合わず襲われる者が続出している。


 更に牙狼ファング・ウルフゴーレムの攻撃が激化するが、隊員達はほとんど反撃も出来ず、防御主体になっている。

 このままだと全滅も時間の問題だと思っていると、ロボット型ゴーレムがグランド端まで下がり、空白地帯が生まれた。


 そして、その空白地帯に身の丈1m位の人形ひとがたゴーレムが無数に湧き出る。

 そう、地面から生える様に湧き出てくるのだ。

 その人形ひとがたゴーレムの姿は、ゴブリンだった。

 ゴブリン単体のランクはF1~F3と低く、単体なら一般人でも倒す事が可能な魔物だが、数が集まればそれだけで脅威になる。

 それに職業持ちや上位種が加わると、脅威度は一気に跳ね上がる。


 そして、自分の目の前で大量のゴブリンゴーレムが生成され続けているのに、隊員達は目の前の牙狼ファング・ウルフゴーレムに集中していて気づいていない。


 今度は、ゴブリン・スタンピードを再現するつもりなのか?と思っていると準備が終わった様だ。


 牙狼ファング・ウルフゴーレムが、ゴブリンゴーレムの居ない方に一斉に走り去った。

 隊員達は、呆気に取られて牙狼ファング・ウルフゴーレムが走り去った方を見ている。

 牙狼ファング・ウルフゴーレムが十分な距離を取った所で、ゴブリンゴーレムが奇声を上げ、不格好な動作で隊員達に向かって走り出した。


 ゴブリンゴーレムは、ロボット型や牙狼ファング・ウルフ型と比べると、可動部が極端に少ない。

 手足は、付け根からしか動かない。

 首は、左右にある程度動くみたいだ。

 口は、開閉出来ている。

 その口が動く度に、奇声の様な音が出ている。


 ゴブリンゴーレムは、愚直に隊員達に群がり攻撃を仕掛ける。

 隊員達の攻撃で、一度に何体ものゴブリンゴーレムを破壊するが、多勢に無勢、直ぐにゴブリンゴーレムに取り憑かれ、至近距離から手に持った棍棒や短剣による攻撃か、噛みつき攻撃を受けて力尽きていく。

 こうして、全ての隊員達がゴブリンゴーレムの渦に飲み込まれ、姿を消すまでに大した時間がかからなかった。


 そして

「愛知方面隊隊員の全員の戦闘不能を確認。訓練を中止をします」

 神城准尉の宣言がグランドに響くと、ゴブリンゴーレムは瞬時に姿を消した。


 グランドには、隊員達が倒れておりピクリとも動かない。

 戦術課の衛生部隊が、倒れている隊員達の元に駆け寄り状態を確認している。

 その様子を眺めていると、肩を叩かれた。

 振り返ると太和教導官が

「行くぞ」

 と言って、神城准尉の方を顎で指し示す。


 神城准尉を見ると、篠本君達3人と教導官達も集まっていた。

 そして、霜月教導官からタブレットを渡され、何かを入力している。

 自分達が、神城准尉の元にたどり着くと

「よし、皆揃ったな。神城、評価を頼む」

 と篠本君が、神城准尉に指示する。


 神城准尉は、タブレットから目線を上げ、自分達の方を見てから口を開いた。

「愛知方面隊の評価ですが、今回は全体を通したものだけにします。

 個別の個人評価は、データ入力後に確認して下さい」

 と言って、タブレットを持ち上げた。


 入力していたのは個人評価か。

 あの一方的な戦闘で何をどう評価したのか気になるので、後で確認しないとな。

 取り敢えず、了解した事を伝えると


「まず、忍耐力と状況判断能力についてですが、評価出来る点がありません。

 1から訓練をやり直す必要があります。


 次に想定外の事態が発生時の対応の評価は訓練中にもしましたが、早期に対応出来た隊員には現場指揮官の素養があると思われます。

 今後は、その素養を伸ばす方向で訓練を積む事を勧めます。


 次は戦闘評価です。

 これは全体評価ですので、個別評価では有りません。


 通常空間での戦闘能力はランクE9、継続時間は30分から40分程度です。

 魔力や瘴気に満たされた高負荷環境での戦闘能力はランクE1、継続時間は5分から10分程度です。


 今回、強制回復を行いながらの戦闘訓練をしたので、本来の訓練時間より伸びた事を考慮しなくても、戦闘継続時間が41分20秒は短すぎます。

 通常空間の戦闘では、最低2時間は戦えないと戦力しては使えません。


 あと、予備動作を必要とする攻撃手段を選択する隊員が多かった事から、普段から実践に不向きな予備動作を多分に含んだ能力アビリティを使った訓練をしているのでは無いでしょうか?


 あと、基礎能力不足。

 魔力量以外は、訓練校卒業生とほとんど変わりません。

 普段どの様な訓練をしているのか、はなはだ疑問です」


 神城准尉の評価には耳が痛い。

 実際、自分が赴任して、訓練の様子を見て呆れ果てた内容をことごとく言い当てられた。

 訓練内容の変更を再三打診するも、頑なに変えようとしないので対立していたのだ。

 だが、これを切っ掛けに大きく変更出来る目処が出来た事を喜ぼう。


 清水1尉も同じ思いだったらしく。

「ご指摘の通りです。

 再三に渡って訓練内容の変更を行う様に指導しているのですが、部下達と対立し、訓練の変更が上手くいっていません。

 この事実を持ち帰り、訓練内容を実践に即したもの変更したいと思います」

 と返答していた。

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