第200話 訓練と言う名の地獄(2)
篠本さんは、周囲を見渡し
「神城准尉の判断に問題ないと判断するが、よろしいかな?」
と問うが、異論は出なかった。
「ではこの後の予定についてだ。
神城准尉には、10時から15時まで愛知方面隊の教導を行ってもらいたい」
と言って、篠本さんは私を見た。
「分かりました」
と答えると
「今回の教導内容は、事前に何も用意していないが、一つだけ
それは、彼らの能力を限界まで引き出して貰いたい。
なので、方法は任せる。
かなり手荒い方法と手段を取ってもらっても構わないよ。
むしろ、我々が思いつかない方法を、バンバン使って貰い程だ。
ああ、それと、新しい部隊の評価指標を設定する為のサンプルにしたいから、
と伊坂さんが補足を入れた。
普段の伊坂さんなら、事前に
「時間もあまり無いから、グランドに移動しよう」
と篠本さんが提案した時、太和さんが
「神城」
と呼んだので、一斉に視線が太和さんに注がれた。
「なんでしょうか?」
と答えると
「時間を気にするな。
ボロ雑巾になるまで、全てを搾り取るつもりでやれ」
と力強く言われた。
愛知方面隊の2人がギョッとした顔をしている。
私は
「分かりました」
と返答する。
愛知方面隊の隊員達の様子を見ながら、5時間掛けて徐々に負荷を上げて行くつもりだったが、白紙にする。
「では、移動しよう」
と言って、篠本さんが立ち上がったのに習って、皆立ち上がり移動を開始した。
Side 大磯司令
私は、防衛課愛知方面隊の司令の
私の前方を歩く少女の後ろ姿を見ながら移動している。
それにしても、どうしてこうなった。
自分が司令に就任して半年、本当に問題だらけで嫌になる。
自分が就任した経緯は、クーデター後、神崎派の隊員を大量に処分した結果、愛知方面隊の上層部が居なくなった為、私に白羽の矢があたったのだ。
自分は、元々戦術課東北方面隊に所属していた。
自分も愛知県出身とはいえ、特に地元に戻りたいと言う願望はなかった。
外に出て理解出来たが、あそこは排他的すぎる。
東北方面隊の居心地が良かった事もあって、地元の異常さを痛感したし、たまに地元に戻っても余所者扱いだ。
だから、戻りたくなかった。
居場所がなくなった地元だが、親は住んでいる。
その親の介護が必要となった時、こちらに呼び寄せようとしたが、頑なに反発され、仕方なく中部方面隊への転属願いを出した所の抜擢だ。
何度も悩んだが、定年まであと5年だからと受けたのが失敗だった。
やはり、断るべきだったかと何度後悔したことか。
隣を歩く副官の清水1尉も同じだ。
彼も戦術課九州方面隊に所属していたが、私と同じく親の介護が必要になり、転属願いを出したので抜擢された。
むしろ、彼の方が大変かもしれない。
なにせ、私が退庁した後は、司令になる事が決まっているのだからだ。
そして、前方の少女を見る。
この件の中心人物であり、刑を執行する執行官でもある。
自分としては、出来るだけ穏便に処理をしたく篠本君と相談したのだが、懲罰委員会をすっ飛ばして懲罰が決定した。
これは、上層部が計画している組織改革への反発対策の一環だと言う。
これまでの地元採用主義は、若者の県外に流出を止めたい地元からの支持を得やすい事から、神崎一派によって推進された結果だった。
この施策の結果、地元特化で応用力の無い弱い隊員が大量に形成される結果になった。
今回の組織改革は、地元採用主義の撤廃と戦力の均一化と向上を目的に行われる。
組織改革の内容は、各県の防衛課隊員の半数を地元以外に入れ替える。
そして新入庁者も、地元以外の地域で数年活動した後でないと地元に戻れない様にする。
この事から、組織改革への反発は大きいと予想されるが、今の上層部は断行するだろう。
今回の件が、その最初の矛先に繋がったと思うと胃が痛い。
全く持って、馬鹿な事をしてくれたものだ。
目の前の少女は、確かに外見だけを見れば、非力で可愛らしい少女だ。
しかし、実際に会ってみて分かった。
訓練された隙のない身のこなし。
小さい身体に不釣り合いな程の巨大な魔力。
魔力漏れを感知させない制御された魔力。
どれを取っても一流の隊員である事を証明している。
ただ、見て
そして、これから一流と三流未満の訓練という名の
アイツラが10倍居ても勝つ未来が見えない。
アイツラは、それ程の隔絶した実力差を感じ取れるだろうか?
感じ取る事も理解する事も出来ない未来しか見えない。
だが同時に、彼女がどの様に戦うのが楽しみでもある。
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