第50話 現状確認(3)

 全員から注目された三上さんは、軽くため息をついた後

 三上「分かった。説明する。

 神城が行った技法は、私が開発した魔力回路転写術という。

 方法は至って簡単で、魔力回路を自身の魔力塊マナ・コアに転写して魔力の流れを追尾再生トレースする事で、定着させるだけだ。

 実働させたのは、魔力回路と流れをよりハッキリと視認させるためだ。」


 伊坂「原理は、至って単純なのに、どうして普及していないんだ?」


 三上「それは、上級能力鑑定を持っていないと出来ないからだ。」

 さも当然と言わんばかりの返答だった。


 若桜「ちょっと待って下さい。優ちゃんは、鑑定系の能力持っていませんよ。」


 三上「今は、能力鑑定A1が発露済みだ。」


 戸神「なんですかそれ、こんなに簡単に能力アビリティが発露するなんて聞いたことありません。」


 三上「それは当然だな。これは神城だから出来る裏技だからな。」


 全員の視線が私に集中する

「え?私だけ?」


 若桜「優ちゃんだけって、どういう事?」


 三上「多くの研究者が研究しているが、能力アビリティの発現条件はよく分かっていない。一般的には、遺伝形質や環境形質によって決まるとされている。

 私としては、環境形質を推している。

 生まれてから、能力発露までの環境の影響で形質のされた魔力塊マナ・コアの状態によって能力アビリティが発露すると考えている。

 だから、能力者は母親の能力アビリティと同系統が多い事への説明も出来るし、後天的に発露する能力が先天的発露する能力よりも低くなりやすい事の説明も出来る。


 すなわち、能力者が能力アビリティを確保した時点で魔力塊マナ・コアの魔力形質は既に出来ている状態だ。


 一方、神城の場合、これまで魔力塊マナ・コアが封印されていた関係で、魔力塊マナ・コアの形質形成がまだ出来ていない。


 いわば魔力塊マナ・コアだ。


 なので、正しい手順で能力アビリティの発露を誘導しただけだ。」


 伊坂「発現条件は不明だが、発露手順は既に解明済みということですか?」


 三上「その通りだ。私を含め、国内の上級能力鑑定持ちで実験した結果判明している。だたし、この事は公表していない。」


 伊坂「なら、今の神城さんに有用な能力アビリティを覚えさせる事が重要ですね。」


 三上「理解が早くて助かる。

 この方法で自由に能力アビリティを習得可能期間は、あと2週間位だと予想している。

 後で、有用な能力アビリティを有した者の一覧を渡すので、早急に招集して欲しい。」


 伊坂「分かりました。善処しましょう。

 ところで、この方法で習得した能力アビリティのランクはどうなるのですか?」


 三上「基本的にF1だな。あとは、本人の適性と努力次第ってところだ。」


 太和「即戦力としては期待できないのか。」


 三上「何事もそんなに都合の良い事にはならんよ。

 私としては、神城が複数の能力アビリティを習得する事で、今後の困難な状況を回避する手段になれば幸いだ。」


 伊坂「基本的に発露直後はF1なのに、神城さんの能力鑑定はなぜA1が発露しているんだ?」


 三上「それは、私が誘導して上級能力鑑定の魔力回路を書き込んだからだよ。」


 伊坂「どういう事だ?」


 三上「能力アビリティの分類上同種となっているが、能力鑑定と上級能力鑑定は全く別物だからさ。

 それに、上級能力鑑定は成長方法が判明していない。

 その為、発露直後からA1判定のまま誰も成長させることが出来ていない。


 それに、神城が様々な能力アビリティを魔力回路転写術で習得する事で、上級能力鑑定が成長するかもしれない。

 他にも習得した能力アビリティを成長させれば、能力アビリティの適正訓練方法が分かるかも知れないし、適正訓練方法が見つかれば、能力アビリティの発現条件も見えてくるかも知れない。

 我々にも神城にもメリットの有る事だ。」


 若桜「本当は、優ちゃんに試したらどうなるか見たかっただけでしょ。」


 三上「当然それも有る。

 それに、失敗しても失うものは何もないから、成功すれば儲けものでおこなっただけだ。


 それはそうと、神城の状態はどうだ?」

 そう言うと、私の方を向き直り覗き込んだ。


 三上「よし、定着したな。この状態を覚えておいてくれ。

 魔力は、もう全快しているな。

 放出系の検証は後回しにして、破壊砲ブラスターキャノンを用いて大量魔力消費の状態確認を行いたいのだが良いか?」


 戸神「私は構いませんよ。」


 若桜「現状なら、20分もあれば全快出来るので問題は無いと思います。」


 三上「なら、次は破壊砲ブラスターキャノンを撃ってくれ。

 限界まで撃ちまくってくれ。」


 水嶋「なら、こちらのまとを使ってください。」


 2重結界の中に、板状のまとが設置されていた。

 そのまとを狙うように破壊砲ブラスターキャノンが設置されている。


 水嶋「このまとには、破壊砲ブラスターキャノンの破壊光線を分散反射する特殊コーティングが施してありますので、破損する心配なしに撃ちまくれます。反射した破壊光線は、周辺の結界で吸収されるので安全性になんの問題もありません。」


 若桜「優ちゃん、想定では22発は撃てるはずだから遠慮なく撃ちまくって。」


「分かりました。撃ってみますね」


 破壊砲ブラスターキャノンの最後尾のグリップを握り、魔力を手から破壊砲ブラスターキャノンへ送ると、瞬時に満タンになったので引金トリガーを引くと破壊光線がまとに当たり、周囲に反射された光線が飛び散る。

 引金トリガーを離し、充填、引金トリガーを引くをひたすら繰り返す。

 横では、スタッフの人が射撃数を数えて10発撃つ毎に教えてくれる。


 16発撃って、魔力残量が3割を切ったところで、

 若桜「魔力の減りが、急激に鈍化した。」


 三上「これは、顕著だな。魔力回復の能力アビリティが成長している様だ。」


 20発撃ったところで、

 若桜「魔力の減りと、生成量が均衡した。」


 30発撃ったところで、

 若桜「魔力が回復してきてる。」


 40発撃ったところで、指が疲れてきた。

 若桜「完全に生成量が、消費量を上回っているわね。」


 水嶋「なら、もう一丁準備しましょう。」

 周りに居たスタッフが慌てて走っていく。


 60発撃ったところで、二丁目の破壊砲ブラスターキャノンが運びこれた。

 今撃っている破壊砲ブラスターキャノンの直ぐ横に設置された。

 この破壊砲ブラスターキャノンは、合体分離機構が無い様なので旧型なのだろう。

 左右の腕を左右に広げる様にして旧型のグリップと引金トリガーに手を掛ける。

 80発目から、二丁撃ちを始める。

 再び魔力量が減り始める。


 100発+20発で、魔力量が底を着いたかと思ったが、まだ撃ててる。

 誰も何も言わない。


 120発+40発、撃ってもまだ魔力量が底に着かない。

 もう、手が痛いから辞めたい。


 160発+80発、魔力が回復している感じがする。


 200発+120発で、ようやく終了することになった。

 もう、両手・両腕が痛いよ。

 終わりを宣言されて、そのまま引金トリガーを引いたまま脱力してしまった。


 若桜「優ちゃん、お疲・・・ なにそれー」

 近寄ってきた若桜さんが破壊砲ブラスターキャノンの銃口を指差している。


 慌てて指さしている方を見ると、銃口に破壊光線が球体を作り鎮座している。

 しかもどんどん大きくなっていく。


 想定外のことにそのまま固まっていると、2つの球体は一つに融合して急速に大きくなっていく。


 呆然とその状況に見入っていると、霜月さんが私の身体を抱きかかえ破壊砲ブラスターキャノンから引き剥がした。

 すると、破壊光線の球体はまとに向かって撃ち出され、高速でまとに当たって大爆発を起こした。

 まとを粉砕し、2重結界を吹き飛ばし実験場に爆風を撒き散らした。


 霜月さんは、私を抱きかかえた状態で、床に伏せて爆風をやり過ごしていた。

 爆発直前に私の側に居た若桜さんを慌てて探すと、直ぐ側で伊坂さんに抱きかかえられて同じ様に爆風をやり過ごしていた。


 他の人達は、同じ様に床に伏せて爆風をやり過ごしたようだ。


 起き上がった霜月さんは、

 霜月「怪我は無いか?」


「えーと、大丈夫です。」

 取り敢えず、私は大丈夫だ。


 伊坂「全員、現状確認。要救護者の確認をせよ。」

 大声で指示を出している。

 それから、大慌てで状況確認すると命に別状は無いが、重症者が数名と軽中傷がそこそこ居る、それとかなりの数の測定器具が破損したらしい。


 水嶋さんが私の所にやって来て

 水嶋「いやー、最後のは凄かったね。

 破壊砲ブラスターキャノンがあんな事になるなんて思わなったよ。」


「ごめんなさい」

 私の不注意で事故を起こした事を、後悔していた。


 水嶋「何を謝ってるの?

 職員に怪我人が出た事かな?

 こういう事故に対する自衛手段を持った研究員しか参加させていない、怪我をした方が間抜けなんだよ。

 怪我した連中は、労災で強制休養を与えるし、もう一度自衛訓練を受けさせるから問題ない。


 それとも、周りの機材を壊してしまった事かな?

 ここは、こういう事故も起きる事が前提で実験を行う場所だよ。

 不測事態で壊れただけだから気にする必要はない。


 むしろ、神城さんのお陰で、破壊砲ブラスターキャノンの新しい可能性がわかったんだ。

 こんな喜ばしい事はないよ。


 それに見なよ、怪我した連中まで嬉々として今回の現象に夢中だ。」


 頭から血を流している者、腕が折れている者、足を引きずっている者達が、嬉々としながら、壊れた機材を集めて残っているデータを抽出している。

 若桜さんの言っていた人間性を捨てた研究者というのを目の当たりにした。

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