第50話 現状確認(3)
全員から注目された三上さんは、軽くため息をついた後
「分かった。
説明する。
神城が行った技法は、私が開発した魔力回路転写術という。
方法は至って簡単で、魔力回路を自身の
実働させたのは、魔力回路と流れをよりハッキリと視認させるためだ」
と言った。
「原理は、至って単純なのに、どうして普及していないんだ?」
と伊坂さんが疑問を呈すると
「それは、上級能力鑑定を持っていないと出来ないからだ」
さも当然と言わんばかりの返答だった。
「ちょっと待って下さい。
優ちゃんは、鑑定系の能力持っていませんよ」
と若桜さんが声を上げると、三上さんは
「今は、能力鑑定A1が発露済みだ」
となんでもない事の様に言った。
驚いている戸神さんが
「なんですかそれ。
こんなに簡単に
と言うと三上さんは
「それは当然だな。
これは神城だから出来る裏技だからな」
と返す。
全員の視線が私に集中する
「え?私だけ?」
と驚きの声を上げると、若桜さんが
「優ちゃんだけって、どういう事ですか?」
と言う。
「多くの研究者が研究しているが、
一般的には、遺伝形質や環境形質によって決まるとされている。
私としては、環境形質を推している。
生まれてから、能力発露までの環境の影響で形質のされた
だから、能力者は母親の
すなわち、能力者が
一方、神城の場合、これまで
いわば無垢な
なので、正しい手順で
と三上さんが説明した。
伊坂さんが、少し考えてから
「発現条件は不明だが、発露手順は既に解明済みということですか?」
と言うと、三上さんは
「その通りだ。
私を含め、国内の上級能力鑑定持ちで実験した結果判明している。
だたし、この事は公表していない」
と言うと、伊坂さんは
「なら、今の神城さんに有用な
と答えた。
三上さんが、ニヤリと笑い
「理解が早くて助かる。
この方法で自由に
後程、有用な
と依頼する。
「分かりました。
善処しましょう。
ところで、この方法で習得した
と伊坂さんが言うと
「基本的にF1だな。
あとは、本人の適性と努力次第ってところだ」
と返す。
太和さんは、ちょっとがっかりした感じで
「即戦力としては期待できないのか」
と言うと、三上さんは
「何事もそんなに都合の良い事にはならんよ。
私としては、神城が複数の
と言う。
「基本的に発露直後はF1なのに、神城さんの能力鑑定はなぜA1が発露しているんだ?」
と伊坂さんが疑問を呈すると
「それは、私が誘導して上級能力鑑定の魔力回路を書き込んだからだよ」
と三上さんが答えた。
「どういう事だ?」
と伊坂さんが言うと
「
それに、上級能力鑑定は成長方法が判明していない。
その為、発露直後からA1判定のまま誰も成長させることが出来ていない。
それに、神城が様々な
他にも習得した
我々にも神城にもメリットの有る事だ」
と三上さんが説明した。
ジト目をした若桜さんが
「本当は、優ちゃんに試したらどうなるか見たかっただけでしょ」
と言うと、悪びれた様子も無く
「当然それも有る。
それに、失敗しても失うものは何もないから、成功すれば儲けもので
それはそうと、神城の状態はどうだ?」
そう言うと、私の方を向き直り覗き込む
「よし、定着したな。
この状態を覚えておいてくれ。
魔力は、もう全快しているな。
放出系の検証は後回しにして、
と言うと
「私は構いませんよ」
と戸神さんが答え、若桜さんが
「現状なら、20分もあれば全快出来るので問題は無いと思います」
と答える。
「なら、次は
限界まで撃ちまくってくれ」
と言うと、水嶋さんが
「なら、こちらの
と的を指差しながら言われた。
水嶋さんが指さした的は、2重結界の中に板状の
その
「この
反射した破壊光線は、周辺の結界で吸収されるので安全性になんの問題もありません」
と水嶋さんが説明する。
「優ちゃん。
想定では22発は撃てるはずだから遠慮なく撃ちまくって」
と若桜さんから指示がきた。
「分かりました。
撃ってみますね」
と答え、
横では、スタッフの人が射撃数を数えて10発撃つ毎に教えてくれる。
16発撃って、魔力残量が3割を切ったところで、
「魔力の減りが、急激に鈍化した」
と若桜さんが報告を上げる。
「これは、顕著だな。
魔力回復の
と三上さんが嬉しそうな声を上げる。
20発撃ったところで、
「魔力の減りと、生成量が均衡した」
と若桜さんが報告を上げる。
30発撃ったところで
「魔力が回復してきてる」
と若桜さんが報告を上げる。
40発撃ったところで、指が疲れてきた。
「完全に生成量が、消費量を上回っているわね」
と若桜さんが報告を上げると水嶋さんが
「なら、もう一丁準備しましょう」
周りに居たスタッフが慌てて走っていく。
60発撃ったところで、二丁目の
今撃っている
この
左右の腕を左右に広げる様にして旧型のグリップと
80発目から、二丁撃ちを始める。
再び魔力量が減り始める。
100発+20発で、魔力量が底を着いたかと思ったが、まだ撃ててる。
誰も何も言わない。
120発+40発、撃ってもまだ魔力量が底に着かない。
もう、手が痛いから辞めたい。
160発+80発、魔力が回復している感じがする。
200発+120発で、ようやく終了することになった。
もう、両手・両腕が痛いよ。
終わりを宣言されて、そのまま
「優ちゃん、お疲・・・ なにそれー」
近寄ってきた若桜さんが
慌てて指さしている方を見ると、銃口に破壊光線が球体を作り鎮座している。
しかもどんどん大きくなっていく。
想定外のことにそのまま固まっていると、2つの球体は一つに融合して急速に大きくなっていく。
呆然とその状況に見入っていると、霜月さんが私の身体を抱きかかえ
すると、破壊光線の球体は
霜月さんは、私を抱きかかえた状態で、床に伏せて爆風をやり過ごしていた。
爆発直前に私の側に居た若桜さんを慌てて探すと、直ぐ側で伊坂さんに抱きかかえられて同じ様に爆風をやり過ごしていた。
他の人達は、同じ様に床に伏せて爆風をやり過ごしたようだ。
起き上がった霜月さんは
「怪我は無いか?」
と言うので
「えーと、大丈夫です」
と答えた。
「全員、現状確認。要救護者の確認をせよ」
伊坂さんが大声で指示を出している。
それから、大慌てで状況確認すると命に別状は無いが、重症者が数名と軽中傷がそこそこ居る。
それとかなりの数の測定器具が破損したらしい。
水嶋さんが私の所にやって来て
「いやー、最後のは凄かったね。
と笑いながら言う。
「ごめんなさい」
と謝る。
私の不注意で事故を起こした事を、後悔していた。
「何を謝ってるの?
職員に怪我人が出た事かな?
こういう事故に対する自衛手段を持った研究員しか参加させていない、怪我をした方が間抜けなんだよ。
怪我した連中は、労災で強制休養を与えるし、もう一度自衛訓練を受けさせるから問題ない。
それとも、周りの機材を壊してしまった事かな?
ここは、こういう事故も起きる事が前提で実験を行う場所だよ。
不測事態で壊れただけだから気にする必要はない。
むしろ、神城さんのお陰で、
こんな喜ばしい事はないよ。
それに見なよ、怪我した連中まで嬉々として今回の現象に夢中だ」
と言って、周りを見渡す。
頭から血を流している者、腕が折れている者、足を引きずっている者達が、嬉々としながら、壊れた機材を集めて残っているデータを抽出している。
若桜さんの言っていた人間性を捨てた研究者というのを目の当たりにした。
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