第251話 1年次夏期集中訓練 1日目(14)

 寮に戻ると、寮監さんから

「お風呂が沸いているから、先に入りなさい」

 と言われたので、お礼を言ってから一旦部屋に戻り、着替えと洗濯物を持って部屋を出る。

 少し待つと、美智子さん達も着替えと洗濯物を持って出てきた。

 彼女達を連れて、寮の浴場に向かう。

 高エネルギー射撃室から寮までの間、ほとんど会話が無かった。

 最後のアレの衝撃が、余程強かった様だ。


 洗い場で身体と髪を洗い、髪を纏めてから浴槽に入る。

 肩までお湯に浸かり、程良い温かさとお湯の圧力と浮遊感に身を任せる。

 自然と声が漏れる。


 先に浴槽に浸かっていた都さんが、私の横に移動して

「優ちゃんでも、そんな声出すんだ」

 とちょっと驚いていた。


「お湯に浸かるのは、久し振りですからね」

 と答えると

「どうして?」

 と聞かれたので

「普段は、シャワーだけで済ませていますから。

 1人だと、お風呂の準備は手間なので」

 と言うと

「そうなんだ」

 と驚きの声が返ってきた。


「確かに、お風呂の準備は面倒だもんね」

 と千明さんが言い、美智子さんが同意している。


 郁代さんも湯船に浸かり、「あー」声を漏らしている。

 そして

「肩がらく~」

 と言って伸びをしている。


 確かに、肩が楽なのだ。

 アレが浮くから。


 ゆっくり浸かってから、お風呂を出る。

 夜着として、訓練校指定の訓練着に着替える。

 本来、夏期集中訓練中は、訓練校指定の訓練着で過ごす事になっているから、敢えて部屋着を用意しなかった。


 ちなみに、毎年夏期集中訓練中に汚れた訓練着で寝る馬鹿が出る。

 その様な愚かな行動をした者は、訓練期間中の食堂・購買の利用・入浴・着替えを禁止され、実働部隊が野外演習を行う施設での寝泊まりになる。

 施設と言っても、雨風が防げる程度のテント。

 食事は野戦食。

 寝具は無い。


 帰還日に、ようやく入浴を行い。

 教育官が問題ないと判断するまで、徹底的に洗わなければならない。


 洗濯物を洗濯機にかけてから、寮の食堂に向かう。

 皆静かに食べている。

 良く見ると、半分寝ている感じだ。

 寮に帰る時から静かだと思ったら、疲れから会話が減っていたのか。


 十分な時間を掛けて、晩ごはんを食べた。

 以前より食べれる様になったとは言え、美智子さん達の半分位だ。

 半年前なら、1/3以下だっただろう。


 食後、眠そうな美智子さん達を引っ張って洗濯物を干し、いつ寝ても大丈夫な様に準備してから談話室に移動する。

 時刻は、もうすぐ19時。

 美智子さん達は、談話室の椅子に座った側からうたた寝を始めた。


 19時になり、夜間訓練の為に照山さんと香山かやま教導管がやって来た。


 皆を起こして、技能スキルの訓練を行う。

 美智子さん達が教わっている技能スキルは、魔力の生成を促進する魔力回復力向上と魔力吸収だ。


 魔力回復力向上は、自己の魔力の生産量を増やす魔力生成力向上、魔力生産量増加の能力アビリティ技能スキル版だ。


 魔力吸収は、周囲の魔力を吸収して魔力を回復させる周辺魔力吸収の能力アビリティ技能スキル版だ。


 この2つの技能スキルは、私と戸神さんが持つ魔力回復の下位に当たるものだ。

 また、技能スキルであるため、使用者が意図して行わないと回復出来ないし、回復量も能力アビリティに比べれば1桁以上劣る。


 それでも、この技能スキルを習得出来れば、大きなアドバンテージとなる。

 実際、魔力回復向上は、習得難易度6。

 魔力吸収に至っては、習得難易度8となっている。

 その為、習得者は少ない。

 身近に居る習得者は、高月さんが魔力回復向上のみを習得している。

 頑張って、習得して欲しいものだ。


 私は、部屋の隅で使い道が分からない影の能力アビリティを鍛える。

 熟練度が上がれば何か使い道が有るかも知れない。


 22時まで訓練を行い、本日の訓練は終了した。

 訓練終了後、美智子さん達は、その場で寝落ち仕掛けた。

 彼女達に喝を入れて部屋に帰す。

 部屋に戻った彼女達は、そのままベットに倒れ込む様にして寝た。


 彼女達の状態は、早朝からの訓練による疲れと軽い魔力欠乏症によるものだ。

 今日の訓練で、普段彼女達が使用する魔力量を超える魔力を急激に消費した事で起こったものだ。

 この症状は、魔力が回復すると治る。

 だから、この時間に魔力回復力向上と魔力吸収の技能スキルを行っているのだ。

 それに、この状態から回復する事を繰り返す事で、回復量が増える事は実証済みなので頑張れ。


 私は、美智子さん達を部屋に帰した後、軽くストレッチをしてから寝た。




 翌朝、いつも通り起きると、美智子さん達を起こしに行く。

 まずは隣の部屋の美智子さんと都さんの部屋に入る。

 二人共、昨夜部屋に戻った時と同じく、うつ伏せで寝ていた。

 二人を強く揺すって起こす。

 二人共、寝ぼけ眼で起きてくれた。


 次に、郁代さんと千明さんの部屋に入る。

 千明さんは、ベットで気持ち良さそうに寝ている。

 郁代さんは、床に座り、ベットの縁に胸と頭を預ける様にして、両手をベットの上に投げたした、まるでバンサイをしているみたいな格好になっている。


 千明さんは、揺すると簡単に起きてくれたが、郁代さんはなかなか起きない。

 仕方がないので小さな氷の塊を作り、首元から背中に滑り込ませる。

「ピギャー」

 と絶叫を上げた後

「つめ、つめ、冷たい」

 と叫びながら飛び起き、服の中に入った氷を取り出し

「え?氷?」

 と呟く。


「おはようございます。目が覚めましたか?」

 と言うと、私を見て

「えっ」

 と言葉を漏らす。


 文句を言われる前に

「いくら起こしても起きないので、強硬手段を取りました。

 起床時間です。

 起きて身支度をして下さい」

 と言って、部屋を出る。

 千明さんと郁代さんは、ポカーンとして私を見送った。

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