第210話 保護者?襲来

「それでね。

 Aクラスの発表の時、4人しか呼ばれなかったのよ。

 だからね。

 呼ばれなかった6人は貴方達の事だと直ぐに分かったのよ。

 それで、あの2人のグループの面々が、落ち込んでいるって訳。


 で、向こうで落ち込んでいるのは、Dランク行きになったからね」

 飯田君、宮園さん、毒島君を順に指差しながら朗らかに言われても反応に困る。


「随分と楽しそうね」

 と鳥栖さんが聞くと

「だって、散々人を見下して来た癖に蓋を開けたら、実力は私達ほとんど変わりませんって状況よ。

 それにアイツラ、同じクラスなのに貴方達を一方的に敵視しているし、感じ悪いし、だっっい嫌いだし。

 それが蓋を開けたら、大きな実力差があって完全敗北でしたって事態で落ち込んでいるのよ。

 もう、笑うしか無いよね。


 だから、アイツラが大きな顔を出来ない様に、徹底的に差をつけてね。

 私、応援しているから」

 と皐月さんは、晴れやかに言う。


「え、あ、うん。頑張る」

 と鳥栖さんが引きつった声で答えた。


 その後直ぐに霧崎教育官が来たので、会話を切り上げ皆自分の席に着いた。

 授業が終わり、いつも通り全員で夕食を取ったが、昨日の様に陰口を叩く者は居なかった。

 代わりに、能力訓練での新しいクラス分けについての話題で持ち切りだった。


 例年3クラス分けだったのを、4クラス分けに変えたのだ。

 しかも、今回のクラス分けは、1年生だけではなく全ての学年で導入した様だ。

 あの場に各学年の学年主任が居たから、ひょっとしたら全学年で導入もあるかもと思っていた事が現実になった。


 どれだけ、田中さん達を過大評価しているのかと思うと同時に、負けられないという思いと校長の鼻を明かしたいと思ってしまった。


 この後は、問題は起こらず普段通り過ごす事が出来た。

 まあ、田中さん達は、夜の技能スキルが終わった時点でかなりお疲れの様だった。

 特に都竹さんは、酷く疲れた様子だった。

 頑張って慣れて欲しい。


 翌日の土曜日、朝の訓練を普段通り行ったが、田中さん達の精度が悪い。

 特に都竹さんの乱れ具合が酷かった。

 疲労により、集中力と魔力が乱れている様だ。


 病院に移動する為に宿泊棟に移動する途中で、田中さん達に今日は休む様に言うが、頑なに「大丈夫、訓練をやる」と言い張る。


 平行線のまま宿泊棟の前まで来ると、南雲さんが

「なら、今日は訓練をやらせて、明日休みにすれば良いのではないか」

 と提案するが、私が難色を示していると

「その方が良いな。今日は、私が面倒を見るから安心して良いぞ」

 と言う声が、宿泊棟の玄関の方から聞こえた。

 そこには、霜月さんが立っていた。


 私は、既に気がついていたので驚きはしなかった。

 平田さんも特に驚いていない。

 他の面々は、非常に驚いている。


 そして、隊員達と都竹さんは慌てて姿勢を正す。

 それを見た田中さん達3人も、それに習って姿勢を正した。


 何事もなかった様に、私に近づき

「今日は、私がこの子達の面倒を見よう。

 だから、明日休みにしたら良い」

 と言う。


「それで構いません」

 と私が返答すると、私の頭に手を置き

「当然、明日は優ちゃんも休むんだ」

 と言われ、思わず息を呑んだ。


 しばらく沈黙が流れた後、観念した様に

「分かりました」

 と答えると、笑みを深くして

「相変わらず、周りから注意されるまで休まないのは変わっていないな。

 回復力が高いから身体的疲労を溜めないとはいえ、精神的な疲労は溜まっているはずだ。

 それに、年相応の事をするのも重要だぞ」

 と言って笑っている。


 周囲は、その様子を唖然として見ていた。

 霜月さんは、田中さん達を見て

「君達は、優ちゃんの友達だろ?」

 と聞くと、初めはキョトンとしていたが、意味を理解出来たのか4人共首を何度も大きく上下させていた。


 霜月さんは、私の頭に乗せていた手で何度も頭をポンポンと叩きながら

「そうか、優ちゃんの事をよろしく頼む。

 このは、放っておくと訓練しかしないから、出来るだけ引っ張り回してくれ」

 と言われ、田中さん達は目を白黒させている。


「このは、同年代の同性の友達と一緒に遊んだ経験が無い。

 訓練所に来るまでは、幼馴染の男の子としか遊んでいなかったようだ。

 そして、訓練所に居るのは大人ばかりだ。

 大人と研究者達に囲まれて育ったから大人びているが、実は人見知りの内気な娘だし、世間に疎いから色々と教えてくれるとありがたい」

 と霜月さんが言った。

 私はそっぽを向き、4人は声を揃えて『えー』と驚きの声を上げた。


 鳥栖さんが

「ウソ、誰に対しても丁寧に対応していたら、全然ぜんぜん人見知りだと思わなかった」

 と零す。


「この娘は、周りを良く観察しているし、細かい事にも気づくから、事前に予防線を張っているだけだ」

 と霜月さんは説明する。


「そうなんだ」

 と半分納得している。


「優ちゃんに対して微妙な壁を感じていないか?」

 と問いに、4人は『あっ』と答える。


「その様子だと、心当たりがあるようだな。

 優ちゃんが、貴方達4人を嫌っている訳でも避けている訳でも無い。

 ただ、どう接して良いか分からず、無意識に壁を作っているだけだ。

 だから、君達にはその壁を破壊する事を期待しているんだ」

 と慈愛に満ちた笑顔で4人を諭していた。


 私は、4人の顔を見る事が出来ない。

 多分、私の顔は真っ赤になっている事だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る