第211話 訓練という名の地獄2(1)

 田中さん達と隊員達から可愛いものを見る目に晒されながら

「ところで、駐屯地の方は大丈夫なのですか?」

 と霜月さんに尋ねると

「ああ、問題ない。

 優ちゃんが置いていったゴーレムが良い仕事してくれるおかげで、手持ち無沙汰になっている。

 だから、様子を見にきたのだ」

 と言いながら、頭を撫でている。


「そうですか」


「それに、優ちゃんが指導している訓練生も見ておきたかったしな」


『え?』

 と田中さん達4人の驚きの声が上がった。


「駐屯地では、将来有望な訓練生を優ちゃんが指導しているって有名だぞ」


『え、え、えーーーー』

 霜月さんの言葉を聞いて、4人は声を揃えて驚きの声を上げた。


「そのついでに、軽く訓練をつけてやろうと言うだけだ。

 だから心配しなくて良いぞ。

 安心して訓練に行ってこい」

 と言うので

「分かりました。そこまで言うなら任せます」

 と答えた。

「そういう訳で、今日はよろしく頼むぞ」

 と田中さん達に向かって声を掛ける。


 4人は、声を揃え

『はい。よろしくお願いします』

 と言うと頭を下げた。


「そろそろ、移動しようか」

 と南雲さんが声を掛けたので

「はい」

 と答えるが、霜月さんの手は止まらない。


 霜月さんを見上げながら

「もう良いですか」

 と言うと

「あ、ああ」

 と名残惜しそうに手を止めて下ろした。


 霜月さんや若桜さんを含め、訓練所に居た女性陣は私の頭を良く撫でていた。

 なんでも、私の髪毛の手触りは癖になるそうだ。

 以前は抗議していたが効果は無く、今はもう諦めた。


 南雲さんと共に対魔庁病院に行き、医療訓練を普段通り行った。

 病院では何も問題が起こる事無く、無事訓練を終えた。

「…」

 問題が起こる前提でいた事に気づいて、ちょっとゲンナリした。


 駐屯地に移動後、食堂の窓の外では、愛知方面隊の面々が全力疾走している後ろから、警棒型スタンガンを振り回しながらゴーレムが追いかけている姿が見えた。


「何の訓練をしているのだろう?」

 と言う疑問が浮かんだが、説明出来る人は周囲には居ない。

 なので気にするのを止め、昼食を食べる事に集中する。


 食後、普段通りに規定訓練を熟した後、普段通りに隊員達の教導を行っている。

 その横で、愛知方面隊の面々と黒崎さんと山奈さんが戦闘訓練をしており、愛知方面隊の隊員達が四方八方に吹き飛ばされている。


 愛知方面隊は、二人の教導官に波状攻撃を仕掛け続けていて、怪我等で戦闘不能になれば、外側に待機している衛生部隊によって回復され、戦闘訓練に再参加している。


 戦闘に参加していない隊員や手を抜いている隊員が居ると、周囲に待機しているゴーレムが容赦なく攻撃している。

 だから、否応なしに教導官に向かわざる得ない状況にされている。


 そういう訳で駐屯地のグランドでは、派手で過酷な訓練と静かで過酷な訓練と言う対象的な訓練が並行して行われていた。


 戦術課の隊員達への教導が一段落した所で

「おーい、神城」

 と太和さんが声を掛けてきた。


「なんですか?」

 と問い返すと、左手の親指で愛知方面隊を指しながら

「ちょっと、コイツラと遊んでやってくれないか?」

 と言うではないか。


 時間を確認すると、16時15分を回っている。

「余り時間がありませんよ」

 と難色を示すと

「大丈夫だ。

 お前相手に30分も続けられる訳無い。

 30秒保てば僥倖ぎょうこう

 10秒保つかも怪しい。

 だから、軽く捻ってくれ」

 意地悪そうな笑みを浮かべて、そんな事を言った。


 軽くため息をついてから

「17時には、終えますよ」

 と言うと

「50回以上、余裕で殲滅出来るな」

 と返された。


「お望みと有れば」

 と答えると、私の肩を軽く叩き

「頼んだぞ」

 と言い残して、愛知方面隊の方に向かって歩き出した。


 そのやり取りを聞いていた戦術課の隊員達は、一斉にグランドを囲む様に移動した。

 うん、実に協力的な事です。


 駐屯地の隊員達が訓練していた側のグランドの中央付近に移動して、愛知方面隊の方に向き直る。


 愛知方面隊の訓練も中止され、あちらのグランドの中央付近に移動して、陣形を整え始めた。


 私と愛知方面隊の中央部隊の距離は50m弱。

 前回の対戦時の相対距離は30m程度で、しかも頭に血が上った状態で対峙したから、私の攻撃に何も対応する事が出来ず惨敗した。

 その反省として、初期距離を取り陣形を整えている。


 中央に足が遅く硬い、タンクを全面に並べ、遠距離攻撃手がその後ろに並べて方形の陣形を作った。

 前回、囲まれた事からか、方形の他の3面の全面には盾持ちを並べている。


 中央の部隊に対して左右に足の早い者を2列に横隊で並べた。

 全体的に見るとV字の様な並びで、V字の開いた側が私の方を向いている。

 中央部隊は約150名、右左翼それぞれ90名位を割いている。


 愛知方面隊から怒声が聞こえる。

 怒声を上げているのは荻原だ。


 言っている内容は、人を馬鹿にしているとか言いようがない。

 まず、私の能力をゴーレムマスターだと断定した状態で戦術を決定している。

 接近すれば勝ち目があるとでも思っている様だが、私に聞こえていたら無意味だと分かっていないの?

 それとも、聞こえても問題なく勝てると考えているのだろうか?

 どちらにしろ、人を舐めすぎだ。

 目つきが悪くなるのは仕方ない事だ。

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