第35話 転校生?

 朝6時30分に起きた。

 一週間ぶりの学校、女になってからの初登校ということで緊張していた。

 そのせいか、寝汗で気持ち悪い。

 トイレを済ませてから、シャワーを浴びて手早く身支度を行う。

 うちの学校の制服は、男子は学ラン、女子はセーラー服

 着るのにちょっと抵抗があったが、諦めて着た。

 着方きかたは、昨日の内に教わった。


 舞のお下がりの制服を身に着けて、ダイニングに向かう。

 ダイニングに着くと、既に朝食の準備が終わっていて、父さんが既に食べていた。両親に挨拶して席に着くと、舞も起きて来た。

 父さんの様子は、相変わらずぎごちない。


 7時30分に迎えが来るので、すぐに食事を頂いた。

 ご飯を食べ終え、登校できる準備を完了してリビングで待つ。

 氷室さんが、玄関まで迎えに来たので、一緒にマンション出て車に乗り込む


 車には、若桜さんと霜月さんが居たので、挨拶して大人しく座席についた。


 若桜「優ちゃん。ガチガチに緊張しているね」


 霜月「仕方ないだろう。

 全てが変わった最初の一歩だ。

 緊張するなと言う方が酷だ」

 車に乗って5分かからず学校についた。

 元々、歩いて15分程度の距離だから仕方ない。


 事前に臨時の職員朝礼を行うから、7時45分までに指定された空き教室で待機して欲しいと言われていたので、待機している。

 若桜さん達に身嗜みだしなみを確認してもらって、今は若桜さんに髪をかれている。

 しばらくすると、副担任の竹内先生が呼びに来た。


 若桜さん達と職員室に入ると、一斉に注目された。

 正直、怖くて頭が真っ白になって固まってしまったが、後ろから若桜さんが体を支えて、ゆっくりと校長先生のところまで誘導してくれた。


「先程話した通り、こちらが現在の神城 優さんです」

 校長先生が、教職員の前で私を紹介した。


「彼女の扱いに関しては、先程説明した通り、山並先生のクラスのみ女性化した事実を公表します。

 他のクラス及び他学年には、情報は非公開として転校生扱いをしてください。

 特に、彼女と接触が多い3年生担当の先生方は、同一人物であることを留意りゅういしてください。

 こちらに居る方々が、対魔庁のサポート要員です」

 校長先生が若桜さん達を紹介すると、霜月さんが一歩前にでた。


対魔物対策庁対魔物戦術課教導隊東海支局たいまものたいさくちょうたいまものせんじゅつきょうどうたいとうかいしきょく所属の霜月です。

 今回、こちらの神城さんのサポート隊の第一陣として来校しました。

 サポート隊は、人材課、研究課、対魔物戦術課の3課からなる合同部隊になっています。

 我々は、彼女が学校に滞在する時間帯は、当校に各課より1名待機します。

 また、学校と彼女の住居近辺には、地域防衛隊と警察による警戒網を構築しました。完璧とは言えませんが、それ相応の安全は確保出来ていると思います。

 学校内の安全は、教職員である貴方方あなたがたの協力が必要不可欠です。

 皆様の協力をよろしくお願いします」


「対魔庁の方々には、今朝使ってもらった空き教室をそのまま待機室として使ってください。当校の窓口として、竹内先生と内藤先生が担当します」


 校長先生の紹介が終わった後、私達は一旦待機所に戻った。

 途中トイレに寄ったけど、まだ女子トイレに入るのに躊躇ちゅうちょしてしまう。間違っても男子トイレに入らないように気をつけないと。


 ようやく落ち着いてきたのか、若桜さんと霜月さんの服装が普段と違うことに気がついた。

「霜月さんの服って、教導隊の制服ですか?」


「これは、常装冬服つねそうふゆふくだ。

 今日は初日だから、きちんとした服で来ただけだ。

 普段は作業服でいる事が多いから、明日からは乙武装おつぶそうで来るよ」


「乙武装?」


「作業服に、武装を装備した状態だよ。

 一昨日の事があったから、最低限の武装許可が降りたからな」

 そう言って、腰から下げている鞘を軽く叩いた。


「そうなんだ。

 若桜さんは、看護師姿では無いのですね」

 そう、今日の若桜さんは私服の上に白衣を纏っていた。


「私は、医者で研究者よ。あの服は趣味よ」


「趣味だったんだ」


「優ちゃん、大分緊張が解れてきたようね」


「あ、そういえばそうかも」


 若桜さんが、私を包み込むように抱きながら

 若桜「本当に大変な事は、これからよ。

 クラスメイト達が受け入れてくれるかは、優ちゃん次第よ。

 頑張りなさい。

 私達はあなたの味方よ」


「ありがとうございます」

 なんだか、心が少し軽くなった。


 しばらくして、竹内先生が迎えに来た。

 山並先生は、先に教室に行って説明を行っていくれてるらしい。

 竹内先生と霜月さん一緒に教室に向かう。

 教室の扉の前に立つと、心臓が早鐘を打つ。

 知らず知らずに右手を胸の前で握りしめていた。


 霜月さんが、私の肩を優しく叩いた。

 私が振り向くと、優しく微笑まれた。

 私は、扉の方に向き直って、深呼吸をして落ち着こうとする。

 扉の向こうから、私を呼ぶ声が聞こえた。


 竹内先生が、扉を開けた。

 一斉にクラスメイトの視線が私に刺さる。

 職員室で一度経験したからか、頭が真っ白になる事はなかったが、突き刺さる視線から回れ右をして逃げ出したい衝動に駆られたが、なんとか押さえたが一歩目が出ない。

 霜月さんが、私の背中を優しく押した。

 そのおかげで、一歩目を踏み出せた。

 後は堂々と胸を張って歩けば良いのだが、一挙手一投足いっきょしゅいっとうそく見られていると思うと恥ずかしくて、顔を上げて歩けず、顔も熱く、歩幅も小さくなり、スカートの裾が気になり右手で持っていたカバンを両手で持ち、カバンでスカートを押さえるようにして歩くので精一杯になってしまった。

 扉から教卓までの距離が、物凄く長く感じる。


 教卓に居る山並先生の横まで行き、生徒側に向き直る。

 恐る恐る教室を見ると、全員が絶句して凝視していた。

(この状況、物凄く怖い・・・)

 内心、涙目になっていると、山並先生が私の背に手を置いて


 山並「これが、今の神城だ。

 これまでと変わらずクラスの一員として迎い入れて欲しい。

 神城からも、一言」


「えーと、神城 優です。

 姿形すがたかたちは、変わってしまいましたが、これまで通りよろしくお願いします」

 急に話を振られたので、アップアップして答えた。


 山並「それじゃあ、自分の席に着いて」


「はい」

 私は、自分の席に着席したが教室は非常に静かだった。


 私が教室に入ってからのクラスメイトは、誰一人して言葉をなくし、ただただ私を見つめるだけだった。親友2人は、目を皿のように開いて見つめるだけだし、大嫌いなアイツは顎が外れそうなほど口を大きく開けていた。


 朝のホームルームが終わると、クラスメイトは遠巻きに私を見ながら仲の良い者同士がひそひそ話をするだけだった。

 1時限目の予鈴がなり、各人が自分の席に戻った所で、先生が来た。

 問題用紙が配られ、問題用紙を裏返した状態で開始の時を待つ。

 待っている間に、ホームルームからの親友とクラスメイトの態度から、避けられている様に思えて悲しくなった。

 チャイムが鳴り、試験開始になったので意識を強引に変える。


「テストに集中する」

 小声で呟いて、魔力を軽く脳に集まるように意識してから問題を解き始めた。

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 チャイムが鳴った。

 教師「そこまで、問題用紙を回収」

 後ろから順に問題用紙が前に送られて来る。

 私も受け取り、自分の問題用紙を乗せて前の生徒に渡す。

 私の席の前後は、たまたま男子なのだが、問題用紙の配布・回収のどちらの時も二人共目を合わせてくれない。

 人の顔を見ると、慌てて顔を背けられる。

 何か嫌われることしたかな?


 クラスメイトは、問題用紙の回収が終わった所で私から離れた所で何組かの集団に分かれて、時々私をチラ見しながらひそひそ話をしている。


 親友の二人、あきら零士れいじに話をかけようと二人を探すと、男女の混合集団の中に居て、とてもじゃないが話しかけられる雰囲気ではない。この状況にいたたまれなくなって、席を立ちトイレに向かう。

 トイレに向かう途中ですれ違う生徒に、2度見されたり、「あの子誰?」「あんな生徒いたっけ?」なんて言葉が聞こえる。


 個室に入り鍵を掛けて、ようやく落ち着いた。

 人の目が無いだけでもかなり助かった。


 正直、この様な状況になるとは思っていなかった。

 ラノベみたいにもっと、ぎゃあぎゃあ言ってくるものだと思っていた。

 でも、現実は無言の視線の針を浴びた。

 一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくに注視され、行動を封じられた。

 クラスメイトの顔をまともに見ることも出来ない。

 みんな遠巻きに見るだけだから、近づくことも出来ない。

 彼らが、私をどう思っているのか想像もつかない。

 最初の一歩が遠い。


 若桜さんの言葉を思い出す。

 私自身が頑張らないと状況が変わらない。

 少しでも距離を縮めるように頑張ろう。

 自分に発破はっぱを掛けて個室を出た。


 教室まで戻ってくると、教室内は普段の喧騒けんそうを取り戻していた。

 今なら、あきら零士れいじに話しかけれるかもしれないと思いながら教室に入ると、一斉に視線が集中し、誰一人喋らなくなった。

 なにか、巨大な壁を感じる。

 拒絶されているのかもしれない。

 言葉を無くし、うつむいて自分の席に戻った。

 次の休憩時間は、距離を取られる前に近づいてみよう。


 予鈴が鳴り、先生が来て2時限目のテストが始まった。

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 ・

 テスト終了後は、1限目後の休憩時間と変わらない状況が再現されてしまった。

 出遅れてしまった。

 周りを見て、話しかけられそうな人を探すが見つからない。

 しかも、1限目後の休憩時間より多くの人が私を見ている。

 視線が怖い。

 私は、再びトイレに逃げてしまった。


 自分が情けなかった。

 どう話しかければ良いか全く分からなくなった。

 学校に復学したのは、間違いだったのか?

 ネガティブな思考に支配される。


「はあ、まだ2回失敗しただけ。

 次こそは話しかけよう。

 ダメなら、明日もある」


 教室に戻ると、喧騒けんそう静寂せいじゃくへと変わる。

 視線が私に刺さる。

 私は、大人しく自分の席に着いてうつむいていた。


 女生徒「神城くん?」

 後ろから声をかけられたので振り返った。

 そこに居たのは、クラスの女子のまとめ役的存在で、クラス委員の三島みしまさんだった。

「三島さん。何でしょうか?」


 三島さんが、何か言おうとした時に予鈴がなってしまった。

「ううん、なんでも無い。また、後で」

 そう言って自分の席に戻っていった。


 三限目のテストも終わり、そのままホームルームになった。

 中間考査は、5教科しかテストを行わないが、期間が2日間で試験の前後に1日ずつ自宅学習日になっている。

 中間考査初日は3教科なので、今日の授業も終わりで弛緩した空気が流れるはずなのに、妙に緊張した雰囲気がする。


 終礼が終わり放課後になった途端に、三島さんが私に詰め寄ってきた。

「あなた、神城 優君で間違いなのよね?」


「はいーーぃ。そうです」

 あまりの勢いに押されて、上ずってしまった。


「じゃあ、社会の山本先生の渾名あだなは?」


「ゴールドラ○タン」

 社会の山本先生は、元ラガーマンの筋トレが趣味という人で、アーノルド・シュワルツェネッガー氏が主演したターミーネーター風を気取っているのだが、とにかく四角いお人なのだ。

 クラスメイトの一人が、祖父の家に行った時に倉庫の奥から古い玩具おもちゃが出てきたのだが、それが山本先生にそっくりという事で、学校に持ち込んだ事から、我がクラスではその玩具おもちゃのキャラクター名が渾名あだなになってしまった。

(他のクラスにも広まりつつある。)


「ごめんなさい。

 どうやら、本人に間違いないようね。

 神城君が、あまりにも外見も雰囲気ふんいきも変わってしまって、本人とイメージが結びつかなったのよ」

 周囲にはクラスメイト達も寄ってきて、うなづいている。


 男子生徒1「正直、どう話しかけて良いかわからなかったしな」

 男子生徒2「そうそう、下手なこと聞くとセクハラだーとか言われそうだったし」

 女子生徒1「そこの男子共は、鼻の下伸ばしてたくせに」

 女子生徒2「そうよ。こっそり見詰めてたの知ってるんだから。

 バレバレだっていうの」

 男子生徒3「だって、仕方ないだろ。

 こいつの容姿ようし、ゲームやアニメでしか見たこと無い容姿ようしなんだから、ついついガン見してしまうって」

 ああ、結構な数のクラスメイトが頷いている。


 男子生徒1「でもよ。神城の事。正直、同一人と思えないだが」

 女子生徒3「そうよね。同一人物と分かっていても混乱してしまう」


 そのまま、クラスメイト達の討論会とうろんかいになってしまった。

 同一人物という扱いが無理という意見がほとんどだった。

(本人が目の前にいるのに・・・・)


 三島さんが手を叩いて、注目を集めた。

「じゃあ、こういうのはどう?

 男の神城 優君は、先週ご家族の都合で転校しました。

 今日、同姓同名の神城 優さんが転校してきました。

 この設定なら、問題なく受け入れられる?」


 男子生徒2「ああ、それなら違和感いわかんないな」

 女子生徒4「それなら、良いかも。でも、男女で差別着けたいかな」

 男子生徒3「差別ってなんだよ」

 女子生徒4「ほら、神城と神城だとちょっと引っかかるだよね」

 女子生徒1「なんとなく分かる。君呼びの感覚を引きずる感じ?」

 女子生徒4「そうそう、そんな感じ」

 女子生徒3「だったら、下の名前で呼ぶ?」

 「下の名前だから、優さん?なんか違うな」

 三島さんは私を見ながら、そんな事を言われた。


 女子生徒2「優ちゃん」

 女子生徒3「ああ、しっくり来るね」

 女子生徒4「うん、いい感じ」

「じゃあ、優ちゃんで。!」

 と三島さんが確認を取る。

「はいー」

 そんな力強く、言い寄らなくても・・・

 「呼び名は、優ちゃんで決定」

 三島さんの宣言に何故か巻き起こる拍手・・・ナニコレ


 男子生徒4「じゃあ、みんなで優ちゃんの歓迎会でやる?」

 男子生徒2「いいね。今から行こう」

 男子生徒3「よし、決定~」

 女子生徒1「おーい。男子共ー。本人無視して決めるなよ」

 男子生徒3「だってよー。今日のテストも終わったんだし問題ないじゃん」


「流石に無断で連れ出されると困る。

 この後、医師の診察を受けないといけないからな」

 クラスメイト達が一斉に声がした方に振り返る。


「霜月さん」


「放課後になっても、戻ってこないので様子を見に来た。」

 微笑みながら、近づいてきた。


 男子生徒5「あれ、対魔物戦術課たいまものせんじゅつかの制服だぞ」

 女子生徒2「え、なんでそんな人が此処にいるのよ」


「私は、彼女の護衛官として帯同たいどうしているだけだ」

 霜月さんの登場で、クラスメイトがざわついている。


 男子生徒2「おい、お前、軍事関係詳しかったよな」

 男子生徒5「あの人、教導隊部隊証に3尉だ」

 男子生徒2「教導隊って、なんだよ」

 男子生徒5「対魔庁の戦闘部隊を訓練する教官の部隊だよ。

 元々、機動戦略隊きどうせんりゃくたいとかでエース級だった人達の集まり。

 3尉ということは、対魔物戦術課たいまものせんじゅつかの幹部の人だよ」


 クラスメイトのひそひそ話が聞こえてくる。


「優ちゃんって、どこか悪いんですか?」

 と三島さんが、恐る恐る尋ねた。


「この子の事は、聞いてますね」

 と霜月さんが問うと


「はい」

 と三島さんが答えた。


「この子は、性転換の影響で体が弱っているんだ。

 入院させてリハビリを行う程ではないけど、健康観察が必要な状態なんだ。

 彼女の着けているチョーカーや腕輪は、24時間身体の状態の記録する装置で、異変があれば直ぐに我々が駆けつける事が出来るようになっている。

 それに、彼女の症状は、世界的に珍しい症状で、我々にも今後どうなるか分かっていないんだ。だから、注意深く観察しながら少しずつ一般生活に慣らしていく必要あるんだ。


 当面の間友人同士での遊びに行くのも制限せざる得ない状況ということを理解してくれるかな」


「そういう理由なら仕方ないですね」

 と三島さんが答えると


 男子生徒3「ちぇ、歓迎会やりたかったな~」

 女子生徒1「あんたは、ただ大勢で騒ぎたかっただけでしょ」

 男子生徒3「あはは、バレた?」

 女子生徒1「バレバレ」

 クラスメイト達に笑いが生じた。


 三島さんが手を小さく上げ

「あのー、優ちゃんは今週末にある文化祭には参加可能なのでしょうか?」


「当日は、我々も居るから我々が無理だと判断したら、大人しく指示に従ってくれるならば問題ない」


「はい、分かりました」


「では、そろそろ行こうか」


「はい」

 と答えて、手早く手荷物を纏め、クラスメイトに挨拶をして霜月さんと待機所に向かう。

 放課後の一連の騒動には、3名を除いたクラスメイトが参加していた。

 その3名とは、能力者達だ。

 あきら零士れいじは、どうしたのだろう?

 気がついた時には、居なくなっていた。

 あと1人は、どうでもいいけど。

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