第248話 1年次夏期集中訓練 1日目(11)
地上に戻り、購買でジュースを飲んで一息をつく。
その横で、山本さんは缶コーヒーを飲みながら
「俺の武器が」
と落ち込んでいる。
更にその横で、同じく缶コーヒーを飲んでいる伊坂さんが微苦笑を浮かべている。
「山本さんなら、ああいうロマン武器を使わなくても十分強いとおもいますが?」
と聞くと
「そりゃあ、普通の武器もそれなりに使えるけどよ。
なんか、しっくりこないんだよ。
あの複合防盾は、初めて持った時に、『俺の求めていた物だ』って感じを受けた。
だから、すっごく期待してたのに」
と言うと、特大のため息を着いた。
「そう言えば、普段からトンファーを使っていましたよね。
あれだって、対魔物戦を考えれば、良い選択とは思えませんが?」
と聞くと
「技術習得に難はあるが、攻防一体の打撃武器で良い武器だぞ。
俺のトンファーには、長い方の柄に刃が仕込んである。
鞘を取り外せば殺傷力も十分あるし、反対側の柄を握れば、刀剣としても使える。
状況によって合わせた使い方が出来る」
と言った後、俯いて
「それでも足りないんだ。全然、届かない」
とポツリ、ポツリと言う。
「今の俺の力だけでは、更に上に登れない。
このままでは、俺は置いていかれる。
それを打破するきっかけが必要なんだ」
と言った。
「そんな事無いだろう。
魔力も更に上がって、ランクAだって視野に入っているじゃないか」
と伊坂さんが言うと
「晋だから言えるんだよ。
俺の能力の成長は、今頭打ちをしている。
現状だと、成長の余地が無い。
全ての
三上主任に見てもらったから間違いない」
と山本さんが悔しそうに言った。
何らかの理由により、成長が止まった状態を指す。
多くの場合、
成長のための切掛を与える事で、進化や更なる成長が起きるが、切掛がなければ、その
今の山本さんは、その切掛が無い状態になっているのだろう。
「更に上を目指すには、新しい何かが必要なんだ。
飽和状態を打ち破らないと、次のステージには進めない。
だから、新しい戦闘スタイルを確立する事で、進化の切掛にしたいんだ。
それに、あの武器は、俺達の班の戦闘では非常に有効なはずなんだ」
と力強く言った。
「そうかぁ?」
と伊坂さんが疑問を呈する。
「晋と南のお陰で、中距離制圧が課題だろうが」
と怒鳴る。
「今までも問題なかったから、それ程問題だと思わないんだが」
と言う。
山本さんは、頭を抱え
「
と愚痴る。
「私は、実際の戦闘を見ていないので判断出来ないのですが」
と言うと
「俺達の班は、晋と南が遊撃として戦い。
久喜と俺で、高月を守りながら敵と戦う事が多い。
その為、敵の数が多くなると、遊撃と俺達の間の敵の数が多くなる事がある。
俺と久喜の遠距離攻撃手段は、あまり無い。
だから、この状況を制圧する力が以前より課題だったんだ」
と言う。
伊坂さんは、首を捻りながら
「うーん。そうだっけ?」
と言う。
山本さんの眉間には、深い皺が刻まれ、こめかみに青筋が立っている。
「普通、盾役が最前線で壁になるものでは無いのですか?」
と問うと
「コイツラが大人しく、陣形を保って戦うと思うか?
敵を見つけたら、即敵陣突入を敢行する連中だぞ。
しかも、2人で殲滅する事も少ないんだ」
と返ってきた。
「今までよくやっていけましたね」
と言うと
「そこは、吾郎が上手くやってくれてるからな」
と伊坂さんが言う。
「お陰で俺達は苦労させられている」
と苦虫を潰した様な顔で呻く。
「まあいい。
兎に角、俺と久喜は中距離制圧能力が足りない。
だから、高月頼りになってしまうのが最大の弱点だ。
しかも高月は、晋と南の援護までやっているから負荷が多すぎる。
だからこそ、中距離制圧能力もあるあの武器に期待していたんだ」
と言って、ため息をついた。
山本さんは、私を見て
「そうだ。
神城さんから見て、あの武器をどう改良すれば良いと思う」
と尋ねる。
「そもそも、取り回しの悪さをどうにかするしか無いのでは無いでしょうか」
と言うと
「どういう所だ?」
と返されたので
「腕に……と言うより、肘から先が固定されている事で、可動範囲が狭ばり過ぎていると思いました。
なので、籠手と複合防盾を分離した方が良いのかな?」
と答えると、山本さんは
「流石にあの重量を、手で支えるのは無理だぞ」
と答えたが、伊坂さんは
「一体化ではなく、籠手に固定すれば、手首の返しで刃の向きを変えられるのでは」
と言うと、山本さんが
「ん! どういうことだ?」
と反応した。
伊坂さんは
「籠手に固定具が有って、その上を滑る様に動けば、腕ごと捻じるより大きな稼働範囲を得られると思うぞ。
後、盾を肘の前までにすれば、内側にも捻れるぞ」
と答えた。
山本さんは、しばらく考え込んだあと
「籠手に、腕と垂直方向の円形のスライダーを着けて、その上に複合防盾を設置するのか。
複合防盾の取ってを握れば、手首の返しで左右に動くと。
うん。悪くない考えだ。
これは使えそうだ」
と言うと、ポケットからメモ用紙を取り出し、今のアイデアを書き留めた。
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