第120話 狂戦士

 伊坂さんが平田さんを左肩に担ぎ、少し離れた位置で山本さんが伊坂さんと平田さんの装備を持って私達の方に歩いてくる。


 久喜さんは、まだ警戒を解いていない。


 伊坂「神城さんの状態はどうだ?」


 高月「意識はあります。

 しかし、両腕と肋骨が折れています。

 あの衝撃だと、肋骨が肺に刺さっている可能性もあります。

 早急に病院に連れて行くべきです」


「ゴフ」

 咳と共に吐血したの見て高月さんが慌てだした。

 早急に病院に連れて行くために行動を開始しようとしたのを山本さんが止めた。


 山本「慌てるな、揺すると肺により食い込む。

 それに、治癒師に状態を聞いた後でも良いだろう」


 高月「治癒師を連れてくるって、この学園にいるのですか?」


 山本「目の前に居るだろう」


 高月さんは、周りを確認してから、私が治癒の能力アビリティを持っている事を思い出した。

「ふざけないでください。

 確かに彼女は治癒師かもしれませんが、この状態でどうにか出来るわけ無いでしょう。

 とにかく、医師か他の治癒師に見せないと危険です」


 山本「神城、実際の所どうだ?」


 2度ほど咳と吐血をしてから

「大丈夫です。

 肺に刺さった骨は除去しました。

 肋骨の位置調整と固定も終わって肺に空いた穴も塞ぎました。

 申し訳ありませんが、右腕の骨のズレを直してくれませんか?」


 高月さんが驚いて顔を覗き込んだが

「分かったわ、一旦床に寝かせるよ」

 そう言うと静かに床に下ろす。


「触るよ」

 と宣言してからズレた骨の位置を直してくれた。

 その作業の痛みで顔を歪め呻くと申し訳無さそうにしていた。


 骨の位置もほぼ揃った処で魔力を操作して骨の位置の微調整と欠片を集め、欠損位置に固定する。

 その状態で治癒と回復を発動させて固定をする。

 ある程度固定出来た処で、その右腕を使って左腕の骨を正しい位置に合わせて固定する。

 骨折の処置が終わると戦闘で負った傷を含めて治療を行った。

 治療は終わったが痛みは暫く残る。


「治療が終わりました。平田さんは大丈夫ですか?」


 伊坂「ん?こいつか?多分大丈夫だと思うぞ」


 山本「ああ、狂戦士化バーサークなら解けているから問題はないぞ」


「いや、頭を強打して意識奪っていたでしょ。

 あれだけの衝撃を受けて無傷とかありえないと思うのですか?」


 山本「その事か。なら大丈夫だ。

 こいつの狂戦士バーサーカー能力アビリティが回復させたはずだ」


「え?」


 久喜さんが、ため息をついてから

狂戦士バーサーカー能力アビリティは、驚異的な身体能力向上をもたらす能力アビリティで、非常に高レベルの回復能力もある。

 だから、意識を刈られても、あの程度のダメージなら能力アビリティが回復してくれているはずだ。


 ただ、スイッチが入ると時間経過で理性が無くなっていくのがな。

 しかも、こいつ平田の場合、理性が無くなると正確無比な殺戮兵器になってしまうから余計にたちが悪い。

 だから、少しでも理性が残っている内に強制的に意識を刈り取る必要ある。

 ちなみに理性がなくなるまで放置した場合、魔力を使い果たすか死ぬまで破壊衝動のままに暴れまわる」


「分かりました。念の為、鑑定を行います」

 そう言ってから、平田さんの頭のある伊坂さんの背中側に回り、鑑定する。

 大雑把な鑑定では、意識は戻ってないが問題は発見できなかった。


 平田さんの能力は

 平常時

 魔力:7.51MMP(ランクC7)

 身体強化:C7

 具現化系

  風:C2

 特殊系

  狂戦士

  直感


 狂戦士バーサク

 魔力:211MMP(ランクA2)

 身体強化:A2

 具現化系

  風:A2

 特殊系

  狂戦士

  直感


 さすがに制限された能力では防御しきれない訳だ。

 しかし、落差が激しい。

 これで代償が、理性を一時的に失うだけとは思えない。


「大雑把な鑑定では、平田さんの意識が回復していない事以外に問題は見つかりませんでした。

 ところで平田さんの能力の代償は、理性を一時的に失う以外に何があるのですか?」


 山本「そこに気づくか。

 まだ全てを解明出来ている訳では無い。

 現状わかっているのは、周期的に破壊衝動が襲う事とスイッチが入りやすくなる事と理性を失う時間が短くなっている事。

 意識を失ってから回復するまでの時間が長くなる事だけだ。


 言っておくが普段はこんなに簡単にスイッチが入る事は無い。

 今日の入り方は異常だった。

 そういう訳だから、こいつは数日起きないからな」


「分かりました。後で診察させてください」


 山本「それは良いが、まずは体を休めてからだ。

 怪我は治っても、痛みまで引いていなんだろう」


「はい、まだ痛みは引いていません」


 高月さんが心配そうに

「一応、病院で検査した方が良くない?」


 山本「どのみち、明日病院に行くんだが。

 神城、痛み以外の症状はあるか?」


「そうですね。今は日常生活に問題が無い程度に回復しただけですので、完全回復まであと1時間ちょっと掛かりそうです」


 驚いて何も喋れない高月さんを尻目に山本さんは

「18時に迎えに行くから、それまでに病院に行く準備をしろ。

 それと、明日の夜まで戻ってこないつもりだから、明日の準備も忘れずにな」


「分かりました。

 平田さんも病院で、検査しますか?」


 山本「もちろん、検査を受けさせる。

 そろそろ、訓練校最初の能力訓練が終わる頃だ。

 神城は、教室に戻さないとな。

 取り敢えず、地上に戻ろう」


 全員で、エレベーターで地上に戻る。

 エレベーター内で、最初の能力訓練で何をやっているのか聞くと

「一定以上の能力のある候補生と教育官が指導しながら、魔力を高めて維持する訓練をするんだ。

 目的は、魔力量の増量だな」

「4月中の能力訓練は、これだけをひたすら訓練する」

「馴れない内は、直ぐに魔力が霧散するから苦労するだよな」

 と返ってきた。


 クラスメイト達も苦労していそうだ。

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