第167話 戦術課 一般隊員との模擬戦(5)

 隊員組が大いに奮起し、訓練生組が困惑した中での30分が終わり、南雲さんと共に高圧縮学習を行う為に移動していった。


 訓練生組に負けた事で気合を入れるのは良いが、その気合のせいで魔力制御が雑になりがちなのは、いただけない。


 なので、訓練生組が移動した後に、その事を強く注意すると同時に、今行っている魔力の調律状態の維持が、一番効率良く魔力制御力を鍛えることが出来るを伝える。


 そして、2回目の訓練を開始した。

 今度は、全員が丁寧に魔力調律状態を維持しようと四苦八苦している。

 彼女達は、自分達が強くなる可能性を直接見たのだから懸命に取り組んでいる。


 しかし、この訓練を積極的に行う人はあまりいない。

 何故ならこの訓練は、非常に地味で辛く、成果を実感し難いからだ。


 だから、先日駐屯地でこの訓練の効果を簡単に説明したから、この訓練を積めば強くなれる事は伝わったはずだが、その先を描く事が出来ていなかった様だ。


 それとは別にこの訓練方法は、世界的な問題の解決案になる可能性があるのだ。

 その世界的な問題とは、能力者の成長の頭打ち問題だ。

 当然、この国でも起こっている。


 対魔庁の戦闘隊員全体のランクは

 ランクE以下が32%

 ランクDが55%

 ランクCが11%

 ランクBが2%

 ランクAが5人

 を占めている。

 他国でも割合的には似たような感じだそうだ。


 この事から分かる様に、ランクDまでは比較的上がりやすく、ランクC以上の能力者が極端に少ない。


従来の実体験を元にした、戦闘訓練を中心とした訓練の限界に達したと言える。


 スポーツ界と同様に、科学的なアプローチでの研究も行われているが、他国を含め有効な結果が出た事例は少ない。

 秘匿されている情報を考慮しても、まだまだ未解明な部分が多いのだろう。


 この分野でも世界屈指の研究成果を出している思金おもいかねは、魔力計を始めたとした計測機器と、ある程度の理論構築した文献と体系化した物を公表しているだけだ。

 それでも革新的研究結果として、各国が盛んに取り込んでいるらしい。


 しかし、研究途中や未発表を含めれば、公表された研究結果の数十倍にも及ぶ訳で、破壊砲ブラスターキャノン等の魔力動力兵装の開発にも活かされている。


 また、東海支局思金おもいかねと教導隊との共同研究成果より、能力者全体の成長の頭打ちの要因の一つとして、魔力制御能力不足を指摘している。


 これは、私の存在がその事を証明してしまった。

 これまでは、魔力制御力不足の可能性として考察や実験を行われていたが、観測結果は誤差の範囲を抜けなかったのだが、私の魔力制御力が向上すると全ての能力アビリティの性能が向上する事が初めて観測されたからだ。


 私の観測結果から、各ランク毎に想定される推定最適魔力制御力の数値化を行い、東海支局教導隊の教導官達の魔力制御力の数値化したものと比較した結果、圧倒的に不足していると言う事実に行き着いた。

 東海支局の教導官で一番数値の良かった霜月さんでも、推定最適魔力制御力値の半分しか無かった。


 まあ、その事を知った教導官達は、多種多様な訓練を始めた。

 その中で一番効果があったのが、最大出力の魔力纏身まりょくてんしん状態での魔力調律だった。


 当初、霜月さんでもこの調律状態の維持時間は、30分程度だった。

 その後、維持時間を60分まで伸ばし、簡単な運動しながら維持出来る様になると、魔力制御力が劇的に増え始め、推定最適魔力制御力値の70%を超えた当たりから、目に見えた能力アビリティの性能向上が見られた。

 推定最適魔力制御力値を超えると、魔力量が1.5倍、各能力アビリティも大幅に上がった。


 同様に、他の教導官達も魔力制御力を向上させているが、私が訓練所に居た時に推定最適魔力制御力値の70%を超えたのは、霜月さんだけだった。


 ちなみに、その時の進捗状況は

 太和さんが、62%

 戸神さんが、68%

 山奈さんが、66%

 黒崎さんが、67%

 と結構良い所まで行っていた。


 三上さんと私で、霜月さんの能力を測定した結果、下記の様に変化した。

 魔力:95MMP(B9)→142.5MMP(A1)

 身体強化:B9→A1

 具現化系

 氷:B4→B9

 特殊系

 魔力視:E7→B9

 魔力感知:B1→B6

 直感:-

 高速思考:C7→B2

 並列思考:D5→C1


 国内6人目のランクA能力者になっていた。

 この事で、教導官達の訓練が更に過酷になっていったのは仕方がない事だった。

 私も、霜月さんと一緒に訓練していたので、それなりに鍛えられた。


 一方、思金おもいかねの研究者は、この結果から

「現状、隊員は、各ランクの最低限の魔力制御能力値の可能性が高い。

 そのため、少々魔力制御能力が上がったとしても能力アビリティに反映し辛いと思われる。

 この事を実証する為に、サンプル数を増やす必要がある」

 と言う結論を導き出した。


 また、

「新兵が初実戦を経験したり、隊員が死線を超えると一気にランクアップする事例が多数報告されているが、これは「死線を越えた覚醒」ではなく、死の危険を目の当たりにした事により、生への執着と強い集中力が発揮された結果、魔力制御能力が上昇した事による能力アビリティの開放であると考える事が出来る」

 という仮説を立てた。

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