第12話 検査(4)

「魔力過多は、どうして死亡例が多いのですか?

 学校では、症状と死亡例があるとしか教えてくれませんから」


「ん、学校では教えていないのか。

「魔力過多」は、魔力の許容値を超えて魔力を生成してしまう事に問題がある。

 許容値を超えた魔力は、漏洩魔力として体外に放出されるわけだが、本来は「把握量」分しか体外に放出されない。

 では、どこから放出されていると思う」


「え、わかりません」


「人間の体には、魔力貯める器官は存在しないし生成する器官もない。

 しかし、魔力は体内に魔力を持ち、生成することが出来る。

 この事実を科学的に説明できないが、現象はわかっている。

 魔力は、体内の細胞に宿り、血流に乗って全身を巡っている。

 そして、人の意思で動かすことが可能だと言うことも分かっている。

 能力を使うときに、必要な部位に集めることで能力の行使している。

 自然に放出する魔力「基礎魔力代謝」の場合は、全身から放出される。


 この時、自然に放出できる量より体内で生成される魔力量が多いとどうなる。

 当然、体内の魔力圧が高まる。

 これに対応するように、「許容量」や「把握量」が増えていく。

 しかし、「許容量」や「把握量」の増加より「生成量」が大きい場合、

 体内を流れる魔力奔流が人体を傷つけ、その傷から魔力が漏れ出す。

 これが「漏洩魔力量」の正体だ。


 そして、この現象は全ての人で起こっている。

 しかし、「魔力過多」にならないのは、魔力に対する防衛能力である「耐久力」「抗魔力」で魔力奔流を抑え、「修復力」で回復させているからだ。


「許容量」「把握量」「生成量」と「耐久力」「抗魔力」「修復力」とのバランスが崩れることで、「魔力過多」「魔力欠乏」が起こる。


 代表的な「魔力過多」の事例は、「基礎魔力代謝」より「生成量」が多く、「耐久力」「抗魔力」「修復力」のいづれかに欠陥もしくは能力が低い場合に起こる。

 症状は、軽度の場合「魔力酔い」程度で済むが、悪化すれば意識障害、細胞や血管の破損と進み体内から体を破壊されて死に至る。


「魔力欠乏」の代表的な例は、「生成量」に対して「把握量」が大きすぎるため

 十分な魔力量を確保出来ないことで起こる。


 そして、「魔力欠乏」で死亡例の多い「隠れ魔力過多」は、「許容量」「把握量」「生成量」は正常で、「抗魔力」が高すぎる時に起こる。

「抗魔力」が高すぎると「基礎魔力代謝」を阻害して外部への魔力放出を極端に制限してしまう。

 そうなると体内に、高圧の魔力タンクを抱えているような状態になる。

 しかも、常に内部圧力を加圧しつづける状態になっている。

 この高圧の魔力タンクが限界を迎えると、内部に溜まった魔力が一斉に体外に放出され、内部から大爆発して木端微塵になってしまう。


 こう聞くと、恐ろしいだろう。

 だが、今では治療薬が開発されている。

 早期に発見できれば悲惨な結末を回避できる。

 だからこそ、正しい検査が必要なのだ」

 三上さんは、そう締めくくった。

 思っていたよりも恐ろしい内容に驚愕していると。


「時に、君も「隠れ魔力過多」だった可能性が高い。

 我々の仮説では、体内の魔力が限界を迎えた瞬間に君の能力が膨大な魔力を用いて体質改善を行うことで、魔力暴発を抑え込んだのではないかと考えている」

 さらっと恐ろしいことを言われ、軽く意識が飛んでいた。

 意識が戻ってくるのに数分を要した。


「お、やっと戻ってきたか」

 苦笑いしながら三上さんが言った。


「もう少しで、魔力検査が終わるからな。

 あと、測定データから男に戻れる可能性が多少ある。

 ただ、完全な男に戻れるかは不明だ。

 当然、男に戻ったときの能力についても未知数だ。

 現状のデータから見ると命に係る様な事はなさそうだ。

 チャレンジしてみるか?」


「お願いします。」

 今まで男として生きてきたから、男に戻りたい気持ちは強かったから迷わず即答した。


「わかった。

 逸る気持ちはわかるが、男性化の挑戦は明日行おう。

 今日は、現状の能力検証だ」

 笑いながら言われた。

 そして、スタッフに検査が1日伸びることを家族に伝えるよう指示していた。


 魔力測定が終わると、環境試験室から近くの診察室に移動した。

 部屋の中には男女4名が居た。

「そこの椅子に座ってくれ」

 三上さんに言われて、置いてあった丸椅子に座った。


「これから、我々5人で鑑定を行う。

 何故5人で行うかというと、君の場合、鑑定が通りづらい。

 そのため、一人では正確な鑑定が出来ない。

 そこで、上級能力鑑定士であり、各分野のエキスパートである我々5人で鑑定を行い、魔力検査結果を加味して鑑定結果を出す。

 では、始めるぞ」

 そう言うと、5人が入れ代わり立ち代わり私の周りに集まり、背中やお腹に手を当てたり、顔を覗き込まれたり、手を握られたりしては、手元のタブレットに入力していった。

 10分程そういう状態が続いたら、少し離れた所にある机に集まって話し合いを始めた。

 10分程で意見が纏まったのか、三上さんが私の前にやって来た。

「鑑定結果を言うぞ。

 身体強化:運動能力全般

 放出系:風

 具現化:なし

 特殊系:不明


 特殊系については、検証・確認が必要なため現状不明としている。

 ここでは、あえてランクを言わない。

 ここで分かるランクは、現時点での潜在能力だからだ。

 この後の実技で確認された能力値がランクとしてライセンス証に登録される。

 あと、君には発露寸前の能力が幾つか確認されているが、発露していないため不明だ。実技中に発露する可能性もあると思ってくれ」

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