17 マユリアの行く先
エリス様とベルが忍び込んできたことで夜ふかしをした小さなシャンタルは、朝食の後、昼食までゆっくりと眠り、すっきりと目が覚め、午後、マユリアの宮殿に面会に行くことになった。
「ご足労いただかなくとも、わたくしが参りましたのに」
「ううん、わたくしがここに会いに来たかったの」
シャンタルはそう言うなり、いつものようにマユリアの足に抱きつく。
「ずっとお忙しかったのですもの、さびしかったです!」
「シャンタル……」
マユリアは優しくシャンタルの手を離すと、自分が座ってシャンタルをふわっと抱きしめた。
「申し訳ございません、シャンタルにおさびしい思いをさせてしまって」
「ううん、大丈夫。でも今日はどうしてもお会いしたかったの」
「シャンタル……」
マユリアは愛しげにシャンタルの素直な黒髪をゆっくりと撫でた。
「では一緒にお茶でもいたしましょう」
「ええ」
マユリアは立ち上がり、シャンタルの手を取って応接の椅子に案内する。すぐにお茶とお菓子が準備され、小さな主はニコニコしながら支度が整うのを待っていた。
「マユリアとお茶をするのも久しぶりね」
「本当にそうですね」
この半月ほどの間、マユリアは交代と婚儀、それに他のマユリアのやらねばならない役目をこなすため、朝の挨拶を済ませた後はシャンタルの部屋を訪ねることがなくなっていた。
久しぶりに穏やかに話をしながら楽しいひとときを過ごしていると、
「あのね、マユリアにお聞きしたいことがあるの」
と、小さな主がおずおずと切り出してきた。
「はい、なんでしょうか」
「明日はマユリアのご婚儀よね、そして明後日にはわたくしが次代様にシャンタルをお譲りするでしょう?」
「ええ、交代なさいますね」
「そしてその次の日にはマユリアがわたくしにマユリアをお譲りになって、その後、マユリアはどこにお住みになるの?」
常ならばマユリアを譲った先代マユリアは人に戻り、家族の元に戻ることになっている。だが先代マユリアであるラーラ様はシャンタル付き侍女としてそのまま宮に留まり、シャンタルの母に等しい方となった。そして当代マユリアは先代シャンタルのことがなければ人に戻った後、後宮にお入りになることになっていたが、それが叶わずそのままマユリアとして二期目の任期を務めている。
だから小さな主は考えたことがなかったのだ、交代の後、マユリアがどこに行くのかなど。話としては家族の元に戻ると聞いてはいたが、その後はまた戻ってきてここで一緒に暮らせるような気がしてしまっていた。元通りにマユリアとラーラ様と共にあり、そして新しく次代様という家族が増えるだけのように思っていた。
昨夜、ベルはシャンタルと色々な話をした。その時にベルがこう聞いてきたのだ。
「交代の後はシャンタルがマユリアにおなりになるのですよね。では、今のマユリアは人にお戻りになられれた後、どこに行かれるのでしょう」
「え? ご家族の元に戻られるとお聞きしているけど」
「そうなのですか。国王陛下とご婚儀を挙げられて、王家の一員となられるとお聞きしましもので、てっきり王宮にお住まいになられるのだとばかり思っていました」
「王宮に……」
おぼろにマユリアは人にお戻りになるとは聞いていたが、突然湧いて出たご婚儀の話で何が何やら分からなくなっていた。そして具体的な話が出てきたことから、シャンタルは一気に不安になってきた。
「でも、マユリアは国王様の奥様になられるのではないとお聞きしたわ」
「まあ、そうなのですか。私は少し話をお聞きしただけなので、勘違いをしていたのかも知れません。では人に戻られた後は、宮を出られてご家族のところにお戻りになるのですね」
「どう、なのでしょう……」
シャンタルは自分がマユリアになった時には次代様に今の部屋を譲り、マユリアの宮殿に住むのだということは理解していた。そのためにラーラ様と離れ、一人で寝る練習をしているのだ。だが、その宮殿の別の部屋にマユリアがいるような気がしていた。
「もしも、ご家族のところにお戻りになるのなら、マユリアは宮からいらっしゃらなくなるのかしら」
小さなシャンタルは不安そうに口にする。
「シャンタル、ご不安ならマユリアご本人にお聞きになってはいかがでしょうか」
「マユリアに?」
「はい。シャンタルのお気持ちをお伝えなさったら、教えてくださるのではないかと思います」
シャンタルはベルの言葉に少し考えていたようだったが、
「そうね、お聞きしてみます」
「そうですね、その方がシャンタルも安心なさいますよね」
そんな会話があったのだ。
「マユリアは国王陛下とご婚儀をなさって王家の一員になられるのだと聞きました。でも国王陛下の奥様になられるのではないのでしょう? だから王様のご家族として王宮に行かれるのではないと思ったの。でも、交代が終わったら人にお戻りになる。人に戻られたらご家族のところにお戻りになるとも聞いたけれど、マユリアは王家の方になられているし、それではどこに行かれるのかと心配になりました」
シャンタルはベルと話した後で考えたことを、自分の言葉にまとめてマユリアにぶつけた。
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