19 友達と特別
「じゃあ握手はシャンタルが任期を終えて人に戻られた時に、ということで」
「ええ」
そうしてアランはシャンタルと友達になる約束をした。
「でも、お茶会やお食事会ではなくて、どうやってお話しすればいいのかしら」
「呼んでくれればいいです」
「え?」
「シャンタルが用事があるとか、話したいとか、そう思った時に呼んでくれたら。俺もそうします。でも用があったり時間が合わない時、たとえばもうすぐシャンタルはお昼寝の時間ですよね、そういう時はまた今度で」
「それでいいの!?」
「呼んでいただけて、俺が行ける時には行きますよ」
「ええ、ええ、分かりました」
シャンタルは自分が話したい時に声をかけるだけでアランに会えると思うと、それがうれしくてたまらなかった。
「ただ、これは言っておかないといけないけど、俺はエリス様の護衛で、そして今はルギ隊長やダル隊長のお手伝いもしています」
「え?」
「その仕事がある時は無理ですから、また今度ということもあります。それは分かっておいてください」
「え、そうなの?」
いつでも自分が呼べば来てくれると思っていたので、小さなシャンタルはちょっとがっかりとする。
「友達ですからね。お互いに無理はいけない」
「そうね、分かりました」
そうは言うものの、目に見て分かるほどにがっかりしている。
「手紙はどうでしょう」
ディレンが横から提案する。
「お手紙?」
「ええ。私は船であっちこっちに行きますから、よく頼まれるんです。遠くにいる家族や友達に手紙を届けてほしいって。だから、会えない時は手紙を書いて届けてはどうでしょうか」
「お手紙を……」
シャンタルの頬がゆるんでうれしそうな表情になる。
「楽しそうです! それに、お手紙だったら、後で聞いておけばよかったと思ったことも書けますよね」
「そうですね。何か聞きたいのに忘れてたことがあったんですか?」
「あったと思うんですが、後になったら忘れてしまって」
「ああ、あるある」
ディレンが聞いて笑う。
「それなら余計に手紙はいいかも知れないですね。お互いに時間ができた時に読めて負担も少ないし、何回も読める」
「そうですね、何回も読めますね!」
「じゃあ決まりだ」
そうしてシャンタルとアランは手紙のやり取りをすることを約束した。
「でも、俺、字が下手なので笑わないでくださいよ」
「笑いません」
「約束ですよ」
「ええ、約束します」
シャンタルが楽しそうにクスクスと笑い、アランもハハハハと笑って答える。
そうして次の約束はせずにアランとディレンは謁見の間から出た。
「何を企んでる」
「え?」
「昨日、気をつけてもらいたいと言ったはずだが」
「ああ」
確かに昨日、ルギに釘を刺された。
「毎日お茶会と食事会の方がよかったですかね?」
アランがからかうような口調で言うと、ルギがギロリと睨みつける。
「別に何も企んでなんかいませんよ。言った通りにお茶会やお食事会にご招待されるお客様じゃなく、友達になりましょうってだけです」
「特別とはなんだ」
「だから友達ですってば」
「友達が特別なのか」
「違いますか? ってか、ルギ隊長は友達っているんですか?」
アランがいかにもこいつは友達いなさそうだ、みたいに聞く。
「いる」
「え?」
聞いたものの思わぬ返事が返ってきて驚いた。
「いるんですか?」
「いては悪いか」
「いや、悪くはないけど、いや、びっくりした」
まさかいるとは思わなかった。
そして、いたとしてもこんなにすんなり認めるとは思わなかった。
「えっと、その友達とちょっと飲みに行ったりとか、そんなことするんすか?」
「するな」
なんと、本当の友達のようだともう一度アランはびっくりする。
「なんだ」
「いや」
思わずじっと見つめると、ルギが少し視線を動かしてアランを見る。
この人の友達になる。そんなことできる人間がいるのか?
よっぽど人のいい……
と、そこまで考えて、ふと、ルギと同郷のある男の顔が浮かんだ。
「あー」
続きは口に出さない。
確かにあの人ならこの人の友達もやれそうだな。そう納得する。
「なるほど」
「なんだ」
「いや、隊長に友達がいるって聞いたら嫌がりそうな人間が浮かんだもんで」
にやりと笑ってそう言うと、ルギも少し嫌そうな顔で視線を外した。
そうして今日も、アランとディレンは別々の部屋に戻って別々に尋問を受ける。
アランはボーナムに、ディレンはゼトに。
ルギはその
「侍女ミーヤ、聞きたいことがある」
そう言ってミーヤ一人を部屋から連れ出した。
懲罰房にいる時には、何度か警護隊隊長室へ呼ばれて話を聞かれていた。
ルギと副隊長のボーナム、第一警護隊長のゼト、それから数名の衛士がいる場で当たり障りのないことを聞かれ、答えられる範囲で答えていた。
だがセルマと二人部屋に移ってからは初めてのことだ。移動の原因となった水音のことが落ち着くまで様子を見られていたのかも知れない。ミーヤはそう思った。
今回もそのつもりでいたが、連れて行かれた先は思わぬ部屋だった。
あの時、毎日のように通い詰めていたマユリアの客室。
先代の心を開かせるために不思議なお茶会が開かれ続けたあの部屋であった。
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