10 神の魂、神の身
「間違えてたら言ってくれ」
トーヤがベルと同じような言葉を口にする。
「童子として生まれることを選んだ神様の命の種、それはあんたの子供みたいなもんだってことはなんとなく分かった。親から生まれても子は子、親と同じ人間じゃねえように、その種ってのはあんたとは別の存在、そういうこったな?」
『そう言っていいと思います』
「けどマユリア、当代マユリアな、その中に入ってる魂だか命の種だかってのは、もう一人のあんたってか、分身ってか、そういうのだ、そういうことでいいのか?」
光がほんの一瞬だけ
『おそらく、そう言っていいと思います』
「なんかちょっとだけ言い方が違うな。そうだけどちょっと違う、そういう言い方だ」
『当代の命の種』
『それはわたくしから直接分かたれた魂、命の種』
『ですが、それは本当に一部、小さな一粒なのです』
「う~ん」
今度はベルだ。
「つまり、マユリア、えっと当代な? その中に入ってる命の種ってのは、ちびっと、こんだけってこと?」
右手の人差し指を親指の先に当て、本当に小さいということを指し示す。
『大きさで言うのならばもっと小さく、目に見えるほどではないのかも知れません』
「ふえー」
ベルが丸く目をむき、その続きをアランが口にする。
「つまり、人間一人の魂は、あなたのような次代の神からすると、本当にちっぽけで砂粒ほどもないってことでいいんですか? そういやトーヤの命の種がって言ってた時にも砂粒ぐらいって言ってましたよね」
冷静なアランの言葉の中に、なんとなく不愉快そうな感情が混ざっているのをみなは感じた。
『そう言っていいと思います』
アランの顔が目に見えて不愉快そうになる。だが一瞬だけでいつもの冷静な表情に戻った。
「さすがアラン」
トーヤが愉快そうに言って、アランの肩に手を置く。
「まあ、それはいいや。人間なんて神様やこの世から見たらそんなもんだってことだろ。それは本当のことだしな」
光がただ黙って弱々しく
「じゃあそれが分かった上でもう一つ質問だ。当代マユリアの命の種、魂はあんたのほんのちっぽけな一部、砂粒ぐらいの一部と人の魂がいっしょくたになったやつ、そういうことだと理解したと思う。そんじゃこいつのはどうなる」
トーヤがシャンタルに向かってあごをしゃくった。
「こいつの体もあんたの半分だ。ってことは、こいつの命の種ってのはどうなんだ」
『ええ、そうです』
空気がざわりと動いた。
ベルが隣に座っているシャンタルを振り向くと、右手でその左手をしっかり握る。
「そんなに強く握ったら痛いじゃない」
シャンタルはいつもの様子、何も考えていないかのように少し笑いながらそう言った。
「それは一体どういうことになるんだ?」
『どういうこととは』
「体は神様のであろうが人間のであろうが生まれちまえば一緒、それは分かった。魂が神様出身でも体が人間ならやっぱり一緒。人は人。そんなら体が神様で魂も神様の場合、こいつとマユリアはどうなる」
トーヤはアランと同じぐらい冷静にそう言ってはいるが、その中には爆発寸前の何かが潜んでいる。ミーヤもベルもアランもそれがよく分かった。
『分かりません』
光の言葉の後に少しだけ沈黙の時間ができた。
「そいつはちょーっとばかり無責任じゃねえのか? って言いたいとこだが、そういうことなんだな。あんたらにもこの先は見えない。だろ?」
『そう言っていいと思います』
その声の後で光が少し光度を落としたように感じた。
『運命とは、どこにあるのか分からない場所のようなもの』
トーヤがラーラ様から聞いたあの言葉だ。
『己より下にある道を見ることはできる、ですが自分の歩く道は見えぬもの』
「ああ、なるほどな」
光の言わんとすることが分かった。
「つまり、あんたの運命に関わるような出来事が起きてるから、あんたにもどうなるか分からねえ、そういうことか」
『そう言っていいと思います』
「それまた難儀なこったな。いつもは人の運命を上から見てああだこうだ言ってるあんたも、自分の運命については知ることができねえ。どうだ、ちょっとは砂粒ぐらいの人の気持ちというもんが分かったか?」
『本当にそれを知ることができるのならば』
トーヤが皮肉そうにそう言うと、光がさびしそうに揺れた。
「神様と人は違い過ぎて分かろうとしても分からねえってことか」
トーヤの言葉にまたさびしげに揺れる。
「まあいいや、そういうもんかも知れねえな。あんたにも自分でどうにもできねえこともある。それが分かっただけでいいや。それともう一つ知りたいことができた。こいつとマユリアにあんたが分けたもの、命の種ってのについてはあんたのほんの
『魂とは、肉体とは一体何であるのか』
『それを思えばおかしなことではありません』
『魂は世界の欠片』
『そして肉体は魂を宿す容器のような存在』
『そう思ってもらえばいいのかも知れません』
『魂が全て入らずとも姿となることはできる』
『象徴のようなもの』
『その姿を目で見てその存在が誰かを知るという』
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