18 流布
前国王派に何か行動を起こさせて、いっそ
「つつくとは、一体何をどうしろと言うのだ」
「はい、あえて情報を流してみるのです」
神官長の案は、前国王が姿を消したらしいとの噂を街に流すというものだった。
「自分たちの知らないところで誰かが前国王を連れ出し匿っている。そのことを知ったら、前国王復権に自分も遅れてはならじ焦った者たちに、何か動きがあるのではないでしょうか」
前国王を匿っているのがかく言う神官長であると思いもしない新国王は、その案にのることにした。
前国王が姿を消し、宮に封鎖の
「宮が封鎖されてて俺も今日まで入れなかったんだよ」
「そうだったんですか」
アランが
ダルの話によると、あの不思議なことがあった翌日には月虹兵の役目があって宮に来られなかったのだが、2日目に来た時にはもう入れてもらえなかったということであった。
「
「そうだったんですか」
「それで、何があったの?」
ダルがアランに聞く。
「不審者が出たからってことでしたよ。それで一瞬トーヤかと思ったりもしました」
アランの言葉にダルが笑いながら、
「トーヤだったら見つかったり捕まったりしない気がするなあ、しぶといし」
と言うので、部屋のみんなも思わず笑う。
「それで、その不審者なんだけど、街でなんか妙な噂を聞いたのと関係がありそうかな」
「妙な噂?」
「うん、なんでも」
ダルが声を潜め、皆を集めるように手招きした。
「前の王様が逃げ出したって噂だったよ」
「え!」
「ええっ!」
皆が思わず声を上げた。
「もう少し詳しく教えてもらえますか、どこでどんな感じで話されていたかとか」
アラン一人が冷静にそう聞く。
「さすがアラン」
ダルが笑いながらトーヤの口ぐせを自分も口にした。
「
昨夜、ダルがもう一度街に出てみたら、酒場でこそこそと話していた男がそういうことを言っていたのを聞くことができたらしい。
「前の王様はご自分からご譲位なさったのではなく、新しい王様が無理やりに引きずり下ろした、そのせいで国のあちらこちらで天変地異やらなんやらが起きてる、これは天がお怒りになっているからだ、って、そういう話はちょっと前からあっちこっちで聞いてたんだよ」
以前、リュセルスの東でもそういう男たちに絡まれたことも説明する。
「それが昨夜聞いたのは、国王様が父王様をどこかに幽閉していたのが、いつの間にかいなくなった。これはきっと天がお助けになられたんだ、もうすぐ前王様が玉座にお戻りになるに違いない。今の国王様の上には天のお怒りがあるだろう、てな話だった」
なるほど、王宮が言っていた不審者とはあの方だったのか。「別口」が誰だったのかが分かってみなが納得する。
「つまり、王宮が不審者って言ってるのは前の王様ってことになりそうですね」
「そうかも」
アランの言葉にダルもそう相槌を打つ。
「そして、逃げ出したけどどこにいるか分からないってことなんですね、きっと」
「だろうね」
「それで、なんで王宮や宮の中なんて探してるんだ? 普通、逃げ出したら外に行きませんか?」
「それは多分だけど、絶対に逃げ出せない場所にいたんじゃないのかな」
「絶対に逃げ出せない場所?」
「うん」
「そんな場所があるんですか?」
「いやあ、俺も王宮のことはさっぱりだからなあ」
「そうなんですか」
「月虹兵は宮付きの兵だからね。その意味ではルギの率いてる衛士も同じだと思うよ。王宮には王宮衛士がいて、宮の衛士たちが王宮をどうってのはほぼないだろうから」
「なるほど」
アランがふうむと腕を組んで考え、他の者はその姿をじっと見ていた。
「じゃあ、宮まで探してるのはなんででしょう?」
「それは、宮に逃げてきてるかもって思ったからじゃないの?」
「でも宮に逃げてきても分かるんじゃないんですか?」
「う~ん、まあ、警備はしっかりしてるし、王宮とつながってる場所ってのも限られてるからなあ。そこを通ってなかったら、わざわざ宮まで調べてはこないかも知れないね」
「ということは、つまり、抜け道でもあるんじゃないですか?」
「ああ」
ダルもあり得る話だと思った。
「何しろエリス様とベルが神殿から隠し通路を通って王宮に連れて行かれてますからね。王族だけが知る抜け道とかがあるなら、そこを通って逃げてきている可能性もある、そういうことで宮まで閉鎖して調べてるんだな。納得できました」
アランが得心がいったという顔でそう言った。
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