18 力を持つ者
女神マユリアが何を求めて「黒のシャンタル」に固執しているかは分かった。
「本当のところはどうか分からねえとして、そうなるはずだと信じたマユリアは八年前、もうちょっとでその望みが叶うと思った。一度は手にしたつもりだろうな」
「だけど、トーヤが持たせた守り刀でシャンタルが流した血、それを嫌がってマユリアは手を離した。もしかしたら、その時にトーヤを邪魔者と認定したってことか」
「そんで邪魔だから、マユリアの海のところでトーヤをなんとかしようとした?」
「そういうことみたいだな。こっちの人間には信じられねえってことだったが、実際にあったことだからしょうがない。これでなんとなくつながったな」
トーヤ、アラン、ベルと話が進みまとまっていく。マユリアの海の沖の出来事は、もうすでに全員に話してある。アーダとディレン、ハリオにはトーヤが直接説明し、リルとダルの家族にはダルから話してもらった。
ディレンとハリオはなるほどと納得したようだったが、アーダはもちろん信じられないという顔で真っ青になって震えていた。ミーヤもそうだったが、尊い
ダルに聞くところによると、リルも多少はそういう感じがあったらしいが、ミーヤとアーダとは違い、顔色は変えていたものの、それなりに受け止めたらしい。このあたり、リルは2人とはやや違う。アロの子だけあって、現実的に物を見る部分も大きいようだ。
ダルの家族はただ黙って聞くだけだった。これまでの彼らの生活からはシャンタルもマユリアも雲の上のお方、神そのものでしかない。なのでミーヤたち侍女よりは、逆にもう少し距離を持って見られるというのか、遠い話のように受け止めているからかも知れない。
「けどさ、まあ、そんなことはどれもどっちでもいいや」
ベルが頭の後ろに両手を組みながらそう言い出した。
「なんにしてもさ、シャンタルは誰にも渡さねえし、湖にも沈ませねえんだから。だろ?」
「そうだな」
「そういうこった」
ベルの言葉にアランとトーヤが笑いながらそう答えた。
「マユリアとシャンタルが人でも神様でもそのほかの何かでもいいじゃん、別に。これまでだってそんなこと関係なかったんだから、何か分かる必要もないってのかな」
「おまえらしいな」
ベルがあっけらかんと続けた言葉にトーヤが笑った。
「おまえな、さっきまでひいひい泣いてたくせに、なんだよそれ」
アランもそう言って吹き出した。
「本当にベルは楽しくていいね。やっぱり私はベルが大好きだよ」
シャンタルも楽しそうにそう言うと、声を上げて笑う。
「おまえなあ、そもそもおまえのことなんだから、黙ってニコニコしてねえで、おまえもなんか考えろっての」
「いたっ」
ベルが照れ隠しのようにそう言って、自分がいつもトーヤとアランにやられているようにシャンタルの頭をはたいた。
さすがにシャンタリオの面々がビクリと体を震わせたのは仕方がない。いくらシャンタルをよく知って身近に感じるようになっていたとはいえ、この方はもしかすると神そのものかも知れないのだ。
「ほんっとに何にも染まらねえよな、おまえは」
トーヤが笑いながらそう言い、
「その能天気が何よりの強みになるなんてなあ」
アランも呆れながらそう言った。
「とにかくシャンタルをマユリアにわたさなきゃいいんだよな? そうしたらマユリアの『やぼう』ってのも『うちくだける』ってやつだ。そうだろ?」
ベルが聞いたことはあっても使ったことはなかった言葉を使い、光にそう言った。
「まあ、そういうこったな」
トーヤがベルの言葉にそう言って一つ笑うと、光に顔を向けた。
「シャンタルはマユリアにはやらねえ。それが俺らの出した結論だ。そんで、どうすりゃそうできる? おそらくだが、今のままじゃシャンタルはマユリアに負ける、湖に沈められる、そうだろ?」
『その可能性が高いと言えるでしょう』
「やっぱりな。この間のあれ、こいつの力が吸われたのはマユリアの
『その通りです』
「あの時、シャンタルが吸われた力、それで中のマユリアが強くなって、当代と取って代わった可能性はあるか?」
『その通りです』
光が静かに答え、沈黙が重く場を支配する。
「ってことは、今、表に出てるのは中にいたあんたの侍女の女神マユリア、それで間違いないな」
『その通りです』
「裏と表が交代したようなもんか」
アランが光の答えに短くそうつぶやく。
「じゃあ、俺らが知ってるあのマユリアは今どうなってる。裏と表が交代したとしたら、中にいるってことになるが、それでいいのか? それとも――」
トーヤが何かを気にするように少し
「表に出てるマユリアに飲み込まれて消えちまった、そういう可能性もあるのか?」
重かった空気が凍ったように場の温度が冷えていく。
今一番強い力を持つ者、それが女神マユリアであるとするならば、考えられることであった。
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