7 時、至れり
ディレンとハリオが部屋で待機をしていると、間もなくダル一家が到着し、2人と合流することになった。
「初めまして、ダルさんにはお世話になっております。アルロス号船長のディレンと申します。こっちは私の片腕のハリオです」
「どうもハリオです」
「ダルの父のサディと申します。ダルからお噂はかねがね」
あの不思議な空間では顔を合わせているものの、実際に会うのはこれが初めてだ。妙な感じはあるがどちらも初対面の顔で挨拶をする。そばにはリルの実家の者たちがいるのだからそれが当然だろう。
予定通り連れ立ってリルの部屋へと見舞いに向かう。
「あらまあ、皆さんお誘い合わせでいらしてくださってうれしいわ」
この中では一番の演技自慢のリルがそう言って、家の者を下がらせる。
「なんだか不思議ね、こうして同じ場所にいるというのは」
「本当だよなあ」
リルとダルがそう言い合うのに他の者達も頷いた。
「いつもは1人かダルと2人だったのに、今日はこちらが大所帯。あちらはトーヤたちとミーヤとアーダ様?」
「そうなるね」
ダルの家族5人とディレンとハリオ、それにこの部屋の主のリルとダルの9名がこちらに、宮には6人の割り振りは初めてだ。
「あちらの準備ができるまで、こちらもちょっとのんびりお茶でも飲んでおきましょう」
リルがそう言って、持ってきてもらっていたお茶とお菓子を勧める。
「どうしていたらいいのかよく分からないわね」
なんとなく張り詰めた空気の中でお茶を飲んでいたら、リルがそう言ってプッと笑った。
「確かにこれまではいつもいきなりだったもんなあ」
ダルもお茶を飲みながらそう答える。
おそらくは最後の召喚。その緊張感の中、リルもダルも必死に普通でいようと努力しているようだった。
「あ、来たかも……」
リルが手元に置いた「アベル」と呼ばれる木彫りの青い鳥が光るのを目にしてそう言った途端、空間が歪み、9名はあの不思議な空間に浮いていた。
「よう、来たな」
トーヤが気楽な感じで右手を上げてそう言う。
その場にはアラン、ベル、シャンタル、ミーヤ、アーダが共にいた。
「全員揃ったようだ。そんじゃ始めてもらおうか」
トーヤの声に答えるように、光が空間に降りてきた。
これまでと変わらぬ静かで高貴な光が。
「ひさしぶりだな」
『ええ』
『ようやく話ができるところまで道を進んでもらえました』
「つまり俺たちは今のところまでは間違えてないってことだな?」
『ええ』
『おそらくは』
光が
「おそらく、か」
以前のトーヤならその言葉に噛みついていたかも知れない。だが今はもう分かっている。
「あんたにもこの先のことはどうなるか分からん、そういうことでいいか?」
『ええ』
『おそらくは』
その一言でトーヤが言う通り、この先のことは神ですら分からぬことなのだと理解できた。
「そんじゃあ、あんたの話したいことを話してもらおうかな」
トーヤはあえてそう言うことで、光の気持ちを汲む姿勢を見せる。
『ありがとう』
光も素直に礼を言った。
『まずはあなた方の知りたいこと、マユリアのことから』
あの日、前回の召喚から戻る前に光が口にしたこの言葉。
『マユリアを助けてください』
この言葉をどういうことなのかと何回も何回も考えた。その結果、トーヤたちはマユリアの中にいる女神マユリアこそが今の事態の要なのだと考えるようになった。
『マユリア』
光がその名をつぶやく。
どのマユリアのことなのかは分からない。
だがどのマユリアのことを語るにしても、その芯の部分に存在するのは慈悲の女神の侍女マユリアが存在するのには違いない。
『わたくしの侍女マユリア』
ようやく光が口にした名の持ち主がはっきりと分かった。
『マユリアはわたくしの元にあるために、慈悲から生まれた神の一人です』
光の声には愛しさと悲しみが同居しているように思えた。
「そのマユリアなんだがな、あんたのところにいるために生まれた神様、前に聞いた『次代の神』ってのとは格が違う神ってことだよな」
『その通りです』
「そのマユリアはあんたと一緒にこの国、というかこの神域か? そこに残ったからこんなことになってるわけだが、他にもそういう神様ってのがいるってことでいいのかな?」
『その通りです』
「その他の神様ってのはどこにいる?」
『神の国に』
「神様の国で何してんだ」
『神の国のことは人の世で話すことは叶いません。ですが、本来の神としての役割を果たしているとだけ』
「ふうん……」
トーヤが何を考えているのかは分からないが、言いたいことをその一言に閉じ込めたという感じでそう答え、
「まあ、話せねえこともあるってことでそれはもういいや」
と話を打ち切った。
「そんじゃこの先はマユリアって言ったらあんたと一緒にここに、人の世に残ったマユリアということで話をする。俺らが知ってるこの宮にいるマユリアのことは当代マユリアだ。そんで話を進めるでおまえらもいいよな?」
「いいぜ」
「おれもー」
アランとベルが真っ先にそう答え、続くように他の者たちも頷いた。
「私もそれでいいと思う」
最後にシャンタルがゆっくりと、やはりいつもと変わりない様子でそう言って話は決まった。
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