18 ベッドとソファ
その夜ベルは眠れずにいた。
ここは従者部屋。従者用とは言ってもかなり広めのベッドに兄のアランと一緒に寝ている。2人で寝ても何も問題がない大きさのベッドだ。
初めてトーヤとシャンタルに会ってアランを助けてもらった時、アルディナによくある「一人前半」の宿では最初はソファ、アランが良くなってからはアランと一つのベッドで寝た。身を寄せ合うようにしてだが、それでも寝床があるだけでどれほどありがたかったことか。
アランが動かせないうちは2つあるベッドはアランとシャンタル、そしてベッド代わりのソファにベルが寝て、トーヤは椅子に座ったまま寝ていた。
ベルが気を遣って自分が椅子で寝ると言ったことも何度かあるが、その
「はあ? ガキ、お前には椅子に座って寝るなんて芸当無理だろうが。俺は慣れてる。ちびの頃から戦場で生きてきたからな」
「おれだって慣れてる! おれだって7つの時からずっと戦場暮らしだったからな! ベッドでなんてずっと寝てなかった。だから椅子でも寝られる!」
「おまえと俺じゃあレベルが違うんだよ。俺はずっと一人でこの腕一本で生きてきた。おまえは兄貴達に助けてもらって生きてきたんだろうが、おまえには無理だ。クソガキは黙ってソファで丸まってろ」
そう言って、トーヤは決してベルを椅子で寝かせるようなことはしなかった。
「ほんとに
「寝られないのかよ」
ベルがポツリとそうつぶやくと、アランがそれに声をかけた。
「兄貴は寝られんのかよ」
「寝るのも仕事だからな。だけど今日はちょっと無理っぽい」
アランがそう言ってベッドの上に体を起こした。
「全く、無駄にふかふかだよな、ここのベッドは」
もしかしたら兄も自分と同じように、出会って連れて行ってもらったあの宿のベッドを思い出していたのかも知れない。今はもうないあの宿屋の二階の大きな部屋を。
「しゃあねえよ、シャンタル宮だもんな」
「そりゃまあそうか」
兄と妹がそう言ってくしゃりと笑い合った。
「そのシャンタル宮でこんなことになってるなんて、この国の民たちは知らねえんだよな」
「そうだな」
「そんで、そのことでトーヤがあれだけ苦しんでるってことも」
「そうだな」
黙って兄と妹が顔を見合わせる。
「なあ兄貴」
「なんだ」
「なんとかならねえかな」
「なんとかって何をだ」
「トーヤを、止められねえかな」
ベルはトーヤとルギの対決を止めたいと心から思った。
「止めるって、どうやってだよ」
「だからそれを相談してんじゃねえかよ」
「トーヤを止める、なあ」
アランはベルの言葉で色々と考えてみるが、どうにもいい方法は浮かばないと思った。
「おまえ、トーヤを止めるってことはな、つまりこの仕事から手を引かせるってことだ。俺にはそれ以外の方法は思い浮かばねえ」
「やっぱりか」
ベルも言ってはみたものの、同じくそれしか思い浮かばなかった。
「仕事から手を引くってことは、うちの仲間のシャンタルの交代はなしになるってこった。それは分かるよな」
「うん」
「そうなるとだな、交代の日にはマユリアから当代にマユリアが受け継がれ、次代様がシャンタルになる。見た目だけは平和な交代だが、その先はねえ」
「そうなるよな」
アランの言葉をベルも認めるしかない。
「マユリアは女王様ってのになって、この後はもう交代はない。十数年後、次代様はその、まあ一人前の女になって、それで」
「シャンタルの資格を失うんだよな」
「そうだ。つまりどうなる」
「次代様が死んで、当代はマユリアのまま。その混乱を女王マユリアがおさめる」
「そうだ、神官長の思うがままってこった」
どうにも嫌な未来しか思い浮かばない。
「結局、どうやってもトーヤにルギとの対決を避けさせるってことはできそうにねえな」
「トーヤからは無理ってことは、ルギからだったらどうだ?」
「なんだと?」
一見するとそれはもっと無理そうに思えたが、ベルにはある考えが
「ミーヤさんが言うには、ルギが八年前のトーヤへの殺意を思い出して、そんでマユリアの命があるから二人が本気でぶつかる、そういうことだったよな?」
「そうだな」
「ってことは、そのどっちかがなかったら、トーヤがなんとかできるかもってことか?」
アランは妹の言っていることを理解しようとしたが、どうもよく分からない。
そもそもアランは理論的に、ベルは感情で話を進めるタイプだ。
「おまえ、もうちょい分かりやすく話せよ、何を考えてる」
「うん、マユリアの
「マユリアの命が? だけどそれがあったみたいだってんで、こういう話になってんだぞ」
「うん。その命令が本物のマユリアの命令じゃなかったら、ルギはどうすると思う?」
「なんだと」
「言ってたじゃん、マユリアの中のマユリアがマユリアを操ってんじゃないかってさ」
ベルが言うと分かりにくいが、つまりルギに命を下したマユリアはルギが忠誠を誓ったマユリアとは違う可能性がある、そういうことになる。
「なあ、それがはっきりしたらルギもやめると思わねえ?」
「なるほど」
アランもベルの思いつきについてもう一度考えてみる。
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