7 意思表示
「仕掛けてきたのは湖の底にいるやつ、で確定だな」
トーヤがきっぱりと断言した。
「だけど、それが誰かは分からん。それから、湖の底にいるとは言ったが、実際にいるのかどうかも分からん」
「それ、どういう意味?」
「あの光が言ってて、ミーヤたちも分かるって言ってたことがあるだろが」
「なんだ?」
ベルが質問しながらさっと身をよけた。頭も一応手で押さえている。
「女神シャンタルが歴代シャンタルの中にいて、でも湖の底にもいて、それが俺らにはよく分からんが侍女である自分たちには分かる、ミーヤがそんなこと言っただろ?」
「ああ」
ベルがうっすらと思い出した時、シャンタルがまた一字一句違えずにその言葉を口にした。
『宮に仕える侍女の身として、頭ではなく心と言うか感覚で理解できたと思います。それはちょうど、マユリアがあの海の底でお眠りになりながらも、宮におられるマユリアの中にもおられるということ、神のマユリアと人のマユリアが同じお方であるということと同じではないかと』
「いっつも思うんだけどさ、それどうやってんの? おまえ、ひょっとして、今までに聞いたこと、全部覚えてんの?」
ベルの言葉にシャンタルが楽しそうに笑う。
「どうなっているんだろうね、私にもよく分からないよ。だけど、何か必要だなと思ったら、どこかにしまっておいた言葉がすっと浮かんでくるんだ。だから、きっと、人は今までに聞いた言葉、知ったこと、見たことは、おそらく全部自分の中のどこかにしまってあるんじゃないかな。私はただ、それを引き出すのがうまいだけなのかも」
「へえ~」
そう言いながらベルは自分も何かを思い出そうと努力してみたようだが、
「だめだ、ぜんっぜん思い出せねえや」
と、諦めたようだ。
「なんでもいいけど、話の続きだ」
その様子に、トーヤが少しだけ笑ってから話を続けた。
「とにかく、真犯人はあの湖の底から海まで手を伸ばしてきたんだ、それは間違いないと思う。だが、そいつがどこにいるのかは今のところ不明だということだ」
「ああ、そう言ってくれたらなんとなく分かる」
「そうだね、それは私も間違いないと思うよ」
ベルも納得し、シャンタルもそう受け止めているようだ。
「あの湖も海も、普通じゃない。湖のことはもう話したよな? そして今度は海だ。だが、やってきたことは考えてみりゃ逆なんだ」
「ああ、なるほど」
湖はトーヤを「傲慢」と認定して寄せ付けなくしたが、海はどういう目的かは分からないが引き寄せようとした。
「確かに逆だね」
「もちろん、目的そのものが違うから相手の反応が違っても不思議じゃねえとは思う。だがな、あそこはいわゆる『聖地』だそうだ。ってことは、やっぱり普通の状態なら来るなって意思表示があるのが普通な気がする」
聞いたところによると、どちらの聖地にも特に禁忌というものはないということであった。だが、何もない限り特に人が行く場所でもないとも言う。
「そのへんがアルディナとはちっと違うんだよな。これが俺らが生まれ育った、って、おまえは違うが」
と、トーヤが一応シャンタルに一言言ってから続ける。
「まあ、俺らがいた場所やおそらく『中の国』や他の国とは違うとこなんだよ、この国は」
「言われて見りゃそうだよな。おれも、神殿行った時とかに、なーんか違うなーって思った」
「そうだろ?」
「うん」
ベルが思いっきり首を縦に振った。
「なんつーかな、あっちではそういう場所は思いっきりみんながお参りに行くか、その逆で人は入るなってそのどっちかなんだよ」
「ああ、わかるわかる!」
ベルがもう一度思いっきり首を振った。
「なんかさ、ちょっとどう言っていいかわかんねえからもやもや~っとしたもんが、このへんにあった」
と、ベルが自分の胸のあたりの空気をわさわさとかき混ぜるようにした。
「ああ分かる。けど、それは神様の扱いってのが違うからかなと俺も思ってた。結局はそういうことなんだが、なんつーか、そこに実際にいる、みたいな扱いなんだよな、考えてみりゃ」
「わかるー!」
「聖地っつーてるが、神様が実際にそこにいるって風にしてる感じだ」
「うんうん!」
「だから、来てほしくない時は俺やルギみたいに来るなって言われるし、用事があればああやって呼ぶ」
トーヤの言葉を聞いたベルが、すっきりしたみたいな顔になる。
「なんか分かった気がする。つまりだな、あそこはほんとに神様が住んでる家だから、用事があったら行ってもいい。その時に神様が来てもいいって言ったら行ける、来てほしくないと思ったらトーヤやルギみたいにひどい目に合う。おれらだって嫌なやつが来たら居留守使ったりするもんな、そんな感じってことだな!」
「言い方はあれだが、まあそうじゃないのかと思う」
「ってことは、今度はあっちがどうしてもトーヤを呼びたい用事があったってことか。じゃあ、船を引っ張られても、海の底に引きずり込まれるってことはなかったんじゃね?」
ベルの言葉にトーヤが少し考えてから、
「いや、明らかに悪意があった。だから懲罰房の時と同じ感じがしたんだよ。明らかに俺が邪魔だって言ってやがった。そういう意思表示をしてきてた」
トーヤがきっぱりと言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます