6 真犯人
「トーヤの手の次はミーヤさんの手か」
「うん」
シャンタルが目をつぶって軽く頭を下げた。
「温かかった。柔らかくて、強く、でも優しくギュッと握ってくれて、それでパッと目が覚めたんだ。その手が誰の手だったろうと考えて思い出した、ミーヤの手だって」
「へえ」
「でもそれも違ったんだ。ミーヤが握ったのは私と夢を共有して苦しんでいたトーヤの手だったんだよね?
シャンタルがトーヤをちらりと見て言う。
「ああ」
トーヤがぶっきらぼうに短くそう答えた。
「その時はトーヤはいなかったからね。だからミーヤがトーヤの手を握ったのは、私と夢を共有した時、二度目の共鳴の時のことだ。おそらくはその時の残像みたいなものなんだろうと思うよ」
「それなんだよな、不思議なのは」
ベルがううーんと考えながら言う。
「本当にシャンタルが溺れたのは棺桶沈めた時なんだろ? その時の夢をまだ人形だった時のシャンタルが見て、それがトーヤに共鳴ってのでつながって、その共鳴がミーヤさんを触ったシャンタルを水の中に引っ張った。でもさ、一番最初に起きたのはトーヤが見たあの夢じゃん? その次がおまえが夢の水で溺れたってやつで、最後に湖で引っ張られた。一体どうなってんの?」
真剣に頭を抱えるベルにトーヤが、
「あの光も言ってただろうが、上から見たらみんな同じ場所にあるようなもんだって」
「言ってたっけ?」
「おまえなあ」
トーヤは一瞬張り倒そうかなと考えたのだが、あの時には色々なことを聞き過ぎて、ベルでなくとも色々と混乱することも多すぎた、そう思ってやめた。
「いや、頭ではなんとなくわかるんだぜ? だけどさ、実際にこう、ごちゃごちゃになってたら、わかるようでよくわかんねえんだよ」
確かにベルが言う通りだ。トーヤ自身も神様の立場から見たらそう見えると言われただけで、実際は不思議な話だと思っている。
トーヤが黙り込んで何かを考える。ベルとシャンタルもそれを見て、黙ってじっと待っている。
時刻はもうそろそろ明け方だろう。暗い洞窟の中、シャンタルが
「そうなんだよな、そんな感じがするけど外は明るくなってるはずだ」
トーヤが何かを思いついたようにポツリとそう言った。
「3回とも本当にあったことみたいに思ってるが、前の2つは本当にあったことの残像みたいなもんだってことだよな。本当にあったこととはちょっと違う」
「そうだよな、それならなんとなく分かる」
ベルがトーヤのつぶやきにそう答えた。
「ずいぶんときつい残像だけどな」
「まったくだよなあ、夢の中で溺れて本当みたいになるなんてな」
トーヤはさらに考えをまとめるように、上を向いて、洞窟の天井、暗くてそのあたりまでは光が届いていない場所をじっと見つめて考えた。
溺れたシャンタルとトーヤ、溺れる夢、夢の共有、共鳴、夢に引き込まれたシャンタル、引き込んだ手、助けたミーヤの手、トーヤの手だと思ったシャンタル、ミーヤの手だと思ったシャンタル、シャンタルが流した血、驚いて手を離した「誰か」、シャンタルが湖に沈むことになったら自分も沈むつもりだったマユリアとラーラ様、マユリアの海でトーヤを引っ張った「誰か」、その「誰か」を追い払った不思議な石……
色んなことがトーヤの頭の中でぐるぐると回る。浮かんでは消える、消えては出る。一体どれとどれがどうつながっているのか。そしてその「誰か」は誰なのか。
「くそっ、考えれば考えるほど分かんねえな」
「なんだよ、あんだけ考えてなんか分かるのかと思ったら、分かんねえのかよ!」
イライラしながらそういうトーヤにベルがからむ。
「そんな簡単に分かるわけねえだろが、おまえも足りない頭使ってちょっとは考えろ!」
「いで!」
いつものように軽く張り倒されるが、この場合はトーヤの言う方が理がありそうだ。
「おまえもなんか分かんねえのかよ、仮にもおまえが一番の当事者で、一応神様だろうが」
ベルがトーヤに張り倒された頭をさすりながら、ぶうぶうとシャンタルに文句を言う。
「う~ん……」
言われてシャンタルも何かを考え、ふと、思いついたようにこう言った。
「実際にその誰かに何かをされたのは実はその1回だけだってことになるのかな?」
「え?」
「うん、だから、実際にあちらが手を出してきたのはその時と、それから今日、トーヤを引っ張ったことだけでしょ?」
「そうか……」
言われてみたら確かにそうだ。
「私が自分に助けてって送って、そのことがあるから何回もやられてたように思うけど、実際はその2回だけだとも言えるよね」
「なるほど、そうだな」
トーヤもなんとなく考えが少しまとまった気がした。
「つまりどっちも水の底にいる誰かのしわざってことになんねえ?」
ベルがトーヤの心にもあったことを言葉にする。
「聖なる湖とマユリアの海はつながってるってことだったよな?」
「うん」
トーヤの質問にシャンタルが答える。
「実際に調べた人はいないと思うけど、そういう話になってるね」
「ってことはだ、湖のやつが海まできて、そんで俺を引っ張ったって可能性もあるわけか」
なんとなく、真犯人が少し見えた気がした。
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