19 秘中の秘
シャンタルからの手紙で、すぐにアランにもマユリアのための新しい建物が建てられることが伝えられた。アランはそのことを部屋に来たミーヤからフウ経由でトーヤに伝えてもらう。
「それで、あんたら侍女にもその話は伝わってなかったってことなんだな」
「少なくとも私は伺ってはいませんでしたね。キリエ様ご存知かどうかまでは分かりませんが」
「なるほど」
トーヤとフウは顔を見合わせた。
「ラーラ様は全く知らなかったと考えていいだろう。シャンタルから聞いて驚いたようだからな。シャンタルは自分がマユリアに一番最初に話を聞いたようだと喜んでいたってことだし」
「キリエ様とネイ様、タリア様は侍女の中でも別格ですが、また違う別格のラーラ様ですらご存知なかったとすると、秘中の秘ということになるかも知れませんね」
「秘中の秘、まさにそれだな。ってことは、そのことを知ってるのは誰だと思う」
「マユリアはもちろんご本人のことでご存知でしょうが、次に浮かぶのは神官長ですね」
「俺もだ」
トーヤとフウの意見が一致した。
「国王は知ってると思うか?」
「どうでしょう」
フウは一度首を傾げてから、
「ご存知な気がしますね。もしかしたら神官長からマユリアのために新しい宮殿をとの話がいったのではないでしょうか」
そう答えたのに、トーヤも、
「俺もそう思った。それしか考えられん」
と答える。
おそらく宮には話さず王宮にだけ話を持っていったのだろう。
「では、それは何のためだ?」
「今のまま宮におられるわけにはいかないからでは?」
「もちろんそれはそうだろうが、この後マユリアがどこに住むのかなんて、婚儀ってのは一体何なんだってのに気持ちを持ってかれちまって、考えたことなかった。そしたらベルが言い出したんだよ」
トーヤがシャンタルの部屋に隠してもらおうと提案した時、ふと思い出したようにベルがこんなことを口にした。
「シャンタルの部屋ってのも交代までしかいられねえだろ?」
「なんにしても交代の時にけりをつけちまわねえといけねえだろうが、だからその先のことは考えなくていい」
「それはいいんだけどさ、その時までしかいられないって聞いて、なんか気になってきた」
「何がだ」
「うん、もしものことだけど、おれらが結局なんもできないってことになって、マユリアの思った通りになったとする。そしたらその後、ちびシャンタルはマユリアになってマユリアの宮殿に引っ越すじゃない。だったら押し出された前のマユリアはどこに住むつもりなんだ?」
「なんだと? もう一回言ってみろ!」
トーヤが厳しい口調でそう言ったのでベルは思わず口を閉じる。トーヤが気色ばんだことにベルはちょっとばかり身を縮まらせていた。
「いや、だからもしもだよ! もしも、そんなことはないと思うけど、万が一そういうことがあったらってこと!」
「いや、違う。その後でおまえ、なんて言った」
「え? マユリアがどこに住むかっての?」
「それだ」
トーヤが顔色を変えたのは、そのことを考えてもみなかったからだ。
「俺はてっきり、今のままマユリアの宮殿に残るもんだと思ってたが」
「俺もなんだかそんな気がしてた」
アランの言葉にトーヤも同意した。
「けど、その場合は今のシャンタルがマユリアになるわけだから、あの宮殿は当代の住居ってことになる。そうだよな」
「ええ、そうなりますね」
トーヤの言葉にミーヤもそうだと認める。
「じゃあ、そこに今のマユリアと次のマユリアが一緒に住むってことはできるのか?」
「それは……」
言われてミーヤが考え込む。
「今まで、そのような前例がなかったのでなんとも言えませんが、ラーラ様が宮に残られたのは人に戻られて、そしてご先代のために侍女になられたからです。マユリアとしてお残りになられたのではありませんから、マユリアがお二人同居というのはないような気がします」
「ええ、私もミーヤ様と同じ考えです」
アーダもミーヤの考えに同意した。
「本当ならどうなるんだっけ」
「通常ならばマユリアの交代が終わった後、先代が真名を受け取られて宮を出られます。その瞬間からもう神ではなく人にお戻りですので」
「シャンタルは交代した日は二人になるわけだ。だからこそ八年前、あんなことができた。だがマユリアが二人になることはないんだよな?」
「はい、それは確かです」
「ということは、今回もいくらご婚儀ってのを済ませて王家の人間ってのになったとしても、そのままマユリアとして元の宮殿にはいられねえ。そうだな」
「ええ、本来の通りならばですが」
トーヤはミーヤの言葉に少し考え込む。
「なんだろうな、なんだかそのことが重要なことな気がしてきた」
「ああ、俺もなんだかそんな気がする」
トーヤとアランの考えが一致して、そしてベルにシャンタルに聞いてみてもらうように話を持っていったのだ。
「シャンタルは今はまだこの国、この神域で唯一、最高の神だ。たとえマユリアだってその命令に答えないというわけにはいかないだろう」
そしてやっとマユリアの宮殿という、今までは見えてこなかったことが見えてきた。
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