11 もう一人の実験台
「そうかなあ、俺の方がいい男だと思うけど」
「まあ、こういうのは好みというものがありますから」
「そりゃまあそうだ」
「私は背の高い殿方が好みなんですよ。ですからこの中ではアランさんが一番ですね」
身長のことを持ち出されるとそれ以上の反論はできない。何しろトーヤもハリオも標準身長なのに対し、アランが背が高いのは事実だ。それでも、自分たちよりいいと言われた点が身長だけということで、2人とも少し気持ちが収まった気がした。
「ま、いいや。そんで、俺もお話に参加させてもらっていいのかな」
「ええ、ボスがいてくれないと話が進みませんから。どうぞ」
フウはそう言うと、トーヤとベルに手招きをする。トーヤはベルに中にいるもう一人を呼ぶように言うと、自分はテーブルのところにある椅子を持ってソファへ運んだ。2つ並べたそれに出てきた2人を座らせると、自分ももう1つを持ってきて一緒に並んで座る。ソファから見て扉側に3つ並ぶ形だ。
フウは優雅に立ち上がると、椅子の真ん中に座る「男性」に正式の礼をした。
シャンタルは今日は宮から逃げ出した時の「兄」の姿をしている。
「おひさしぶりでございます」
「うん、ひさしぶりだね」
「キリエ様のお部屋でお会いして以来ですから、あらまあ、まだ
「長く感じたねえ」
「ええ、本当に」
「貴婦人もお美しかったですが、そのお姿もかっこいいですね」
「そう?」
「ええ、お背も高くてスラっとなさっていらっしゃる。ですが、ちょっとお美しすぎます。変装なら女性の方がよかったかも知れませんね」
「うーん、それだと目立ちすぎるんだよねえ」
「そうですねえ」
なんとも緊張感のない、主と侍女の会話が続く。
「それで、新しい味方は何をどの程度知ってるのか教えてもらえるかな」
トーヤが笑いながら会話を止めた。
「キリエさんは、あんたに一体何を言いました」
「キリエ様は何もおっしゃいませんでしたよ」
「何も?」
「ええ」
「そんじゃそれはいいや。じゃあ何を知ってるのかを」
「それもおそらく、何も知らないかと」
フウはあっさりとそう答えた。
何も聞いていない、何も知らない。その状態で味方だと言われても、何をどうすればいいものか。
「えーと、そんじゃ聞き方を変えようか。あんたは何が分かってます?」
「ええ、それだったらいくつか」
この聞き方が正解だったか。トーヤは話をしながらフウとの対応の仕方を探っているようだ。
「そんじゃ、その分かったこと、それから、なんであんたがそれが分かったか、そのへん教えてもらえますか?」
「ええ、ボス」
フウはトーヤの結構無礼な言い方にも、何も思わないようで、淡々と話を続ける。
「あ、まず一つは教えていただいていましたね、思い出しました」
「何をです?」
「キリエ様がエリス様がご先代だと教えてくださいました。そこは訂正」
「分かりました。そんで?」
「まずは八年前のことに戻りますが、あの薬、実験台になったのは私だけではないのです」
「え?」
トーヤがちらりとアランに視線を流し、アランもそれに目で答える。
「じゃあ、他にもそのことを知ってる人がいたってことになりますね」
「いいえ」
アランの質問をフウがあっさりと否定する。
「もう一人の実験台、それはキリエ様ご自身でした」
「えっ!」
「ええっ!」
「ちょっ!」
皆が思わず驚きの声を口にする。反応しなかったのはトーヤとアランだけだ。
「そうなさったことで、あの薬はおそらくご先代が必要となさっているのだろうなと分かりました」
「ほう、なんでです?」
「キリエ様がご自分の身を危険にさらしてまで、あの薬の効果と安全性を確認なさりたかったのです。そこまでなさるお方はシャンタルとマユリア以外におられないでしょう」
「なるほど。じゃあなんでマユリアじゃなくこいつだと分かりました」
トーヤがクイッと指をしゃくってシャンタルを指す。
その様子にもフウは特に反応をしない。この宮の侍女であれば、驚くか怒る無礼な態度だが、フウは全く動じなかった。そのことにミーヤがひそかに心の中で驚いた。
「キリエ様が作れるかとお尋ねになったのが、ご先代がお生まれになってすぐ後でした。それから、いつまでに必要かとお聞きしたら十年以内にとおしゃったので、交代の時に必要なのだろうと分かりました」
「なるほど、まいったな」
「そうしたら交代の時に先代が死んだ。それでその薬を使ったと確信を持ったわけですね」
「ええ」
感心するトーヤの言葉を継いだアランの質問に、フウは簡単に一言で答える。
なんとも驚くような人だとトーヤは愉快になった。これはキリエが次の侍女頭にと決めていても不思議ではない。
「フウさんは、もしかするとキリエさんの上を行く人かも知れねえな。いや、おそれいった。さすがは次の侍女頭候補だ」
「おほめにいただき光栄ですが、私がキリエ様の上を行くなぞ、考えるのも恐れ多いことです」
「まあ、何にしろ、それだけの人を俺らの味方にくれた。やっぱりキリエさんはすげえな」
「ええ、すげえでしょう」
フウがこれ以上の表情はないという得意そうな顔になり、トーヤが声を上げて笑った。
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