19 神のベル感
「あの時もそんなこと言ってたよな、シャンタル」
ベルがあの日、4人がその先のことを話し合っている時にシャンタルが言っていたことを思い出す。
『あの時、私たちは他の戦場へ行く途中だったんだ、それで急いでいた。そうしたら誰かの声が聞こえて、そちらに行けと私は言われた。だからベルがこの町に連れてきてくれた、が正しいんだよ』
「うん」
シャンタルが短くそう返事をする。
「その時にね、私もなんとなくそういうことを感じた気がする」
「そういうこと?」
「うん」
シャンタルがベルをじっと見て続けた。
「
これまでにも、なぜかベルのことをなんとなく気になるという発言はあった。
『この嬢ちゃんはなんか特別な人間って気がするな』
と、ディレンもそう言っていた。
『確かにそう見えるね。トーヤもベルに甘えてるみたい』
トーヤは口にして言うことはなかったが、初めて会った時からなんだか妙に気にいって、それだけに別れる日のことを考え、あえて突き放そうと冷たくあしらっていたようだ。
シャンタルにはそう見えていた。あのトーヤがなぜだかそうしてベルに「なついている」ように。
「ベルは不思議な子だよね、それが『童子』というものかも知れない」
なんとなく、意味も分からず皆がその言葉に納得していた。
「でも、おれ、なんか、そんなこと言われても困るよ……」
以前、自分が話している「アルディナ語」とシャンタリオの「シャンタリオ語」が同じ「神の言葉」だと聞いた時、神の言葉を話しているらしいと大興奮していたベルが、そう言って本気で困っている。
あれはそこまで本気ではなかったからこそ嬉しかったのだと今なら分かる。本当のことではないと心のどこかで思っていたからこその興奮だったと。
「困るって……」
なんだかもう泣き出しそうな顔でそう言うのに、
「まあ、そんなに気にすることでもないと思うよ」
と、シャンタルが軽い調子で言う。
「私だって神様だって言ってるけど、アランにはお説教されるしベルともふざけてるでしょ。ベルは私のこと、そんな特別に、神様だって扱ってる? そのことを知る前と今と、何も変わってない。違うかな?」
「いや、そりゃ違わないけどさ」
「でしょ? だから、もしもベルが特別な何かだとしても、私も変わらないよ」
「うん……」
そう言われてもまだなんとなく考えるようなベルに、
「いでっ!」
さっき空振りした分を取り戻すかのように、いつものように、トーヤから軽い一発が飛んだ。
「なにすんだよ!」
「バカは考えるだけ無駄だ、おまえはいつものようにヘラヘラしてりゃそんでいいんだよ」
そう言うだけ言って、ガシッとベルの頭を抱えると、
「シャンタルの言う通りだ。前にも言っただろうが、何があろうとおまえはおまえだ、他の誰でもない」
「…………」
ベルも思い出す。フェイの話を聞いて自分がフェイの代わりなんだろうと言った時のトーヤのあの怒りを。
「何があっても俺らの関係は変わんねえ、だからもう考えんな」
「うん……」
「まあ、たとえ神様の選んだガキだとしても、おまえがバカなのには変わりはねえ。そのこともよーく覚えとけ、バカ」
「いでっ!」
そう言ってベルの頭を放し、トーヤが軽くデコピンをかます。
「ってことで、この話はもう終わりだ。おふくろさん、そろそろ飯の時間じゃねえのか?」
「あ、そうだそうだ。なんか、ああいうことがあるとうっかりしちまうよね。ちょっと待ってな」
そうして、何もなかったように普通の食事風景の後、いつものように皆で集まって話をし、いつもの部屋に戻って就寝時間になった。
トーヤはシャンタルと一緒にダルの部屋に入り、八年前にダルの部屋に泊まっていた時と同じ場所に横になる。シャンタルはダルの場所だ。
間もなくシャンタルのすうすうという静かな寝息が聞こえてきた。
いつもならトーヤの方が先に寝付くので、あまり聞くことはない。
眠れなかったのではない。
考えなければいけないと思って寝なかった。
『今、この場はとても安定しています。おそらくまだしばらくはこうして話をしておられるのでしょうが、一度皆にも童子の申したこと、光と闇のことを考えてもらいたいのです』
光のこの言葉が気になった。
『光と闇』
この言葉で思い出すのはやはりあの懲罰房だ。あの一瞬でトーヤに流れ込んだ、あの様々な場面を思い出す。
『シャンタル宮の闇』
文字通り光の中に深く深く沈み込む闇だ。
光が明るいところにこそ深い闇が生まれる。
考えろと言われれば、やはり思い出すのはそのことだ。
では、今起きている問題、その根本はこの宮の中にこそあるということなのか?
(一番深い闇ができるところ)
それがあの懲罰房だとばかり思っていた。
この国で一番
『最も穢れた場所なのです』
キリエもそう言っていた。最も
(そういや、あのバカの作った青い小鳥でミーヤとセルマは助かったって話だったが、それであの穢れのかたまりをどうにかできたってのじゃねえんだよな)
シャンタルに背中を向けるように寝返りを打ち、トーヤはそのことを考え続けていた。
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