16 清める

トーヤがシャンタル宮から戻った日の午後、ラデルはリルから頼まれたお守りを持ってオーサ商会を尋ねた。


「まあ、なんて素敵なかわいいお守り!」


 リルは出来上がった木彫りのお守りを見るなり、そう言って胸の前で手を揉みしだいて喜んだ。


 頼まれたお守りの数は9つ。ダルの子5人とリルの子3人、そしてこれから生まれてくるお腹の子の分であった。

 ラデルはそれぞれの子の特徴を聞くと、青い小鳥の彫刻のような丸い木の玉の表面に、それぞれふさわしいと思われる色で花と小鳥の模様を細かく彫刻をした。


「これから生まれてくるお子様だけはどのような方か分かりませんから、これから色を作られる方ということで、白に銀の線刻にさせていただきました」

「ええ、ええ、本当にありがとうございます。本当、本当に素敵だわ」


 お守りには、青い小鳥と同じように上に金属の部品が付けられている。


「木で掘り出すことも考えたのですが、そうすると折れやすくなります。金属だと折れたり外れたりしても付け替えが効きますので」

「はい、ありがとうございます。感謝します」


 リルはそれぞれのお守りを手に取っては、かわいいかわいいと食べてしまいかねないような気にいり方だ。


「親方~これ、作って売り出したらどうです? きっと大繁盛ですよ」


 アベルことベルが商売っ気を出して本気でそう勧めた。


「ありがとう。でもこれはリルさんに特別にお願いされたお守りだし、私もそう商売を広げる気もないのでね」

「そうなの? うーん、でも欲しがる人多いと思うけどなあ。だっておれも早速欲しいもん」


 その言葉を聞いてラデルとリルが笑った。


「じゃあベルも親方に作っていただいたら? 費用なら私が出すから」

「え、ほんと? やったー!」


 大喜びするベルにまた二人が笑うが、


「いやいや、弟子の分ぐらい親方である私がなんとかしますので、リルさんはお気遣いなく」

「そう?」

 

 リルはなんとなく残念そうにそう答えた。


 そしてまた3人で色々と相談をし、ダルの子たちの分はこの後、ベルとラデルでリルの家にいるダルに届けることになった。


「これ、ダルに渡してくれるかしら。持って行ってもらう時にと思って書いておいたの」


 と、リルが預けてくれた手紙を持って師弟がマルトの雑貨店へと向かう。


 雑貨店ではまずマルトが出てきたので、ラデルがこっそりと耳打ちをしてダルを呼んでもらう。

 今、ダルは封鎖でカースの我が家に帰ることができないので、マルトの雑貨店に滞在させてもらっているのだ。


「あの隊長、これを」

「え、何?」


 ダルは受け取った包みを開いてびっくりし、リルの手紙を読んで理由を知り、またびっくりする。


「それでうちの子たちにもこれを?」

「はい、リルの発案で」

「リルが?」

 

 マルトの言葉にすでに鼻声になっている。


「いやいや、ちょっと隊長~泣かないでくださいよ~」

「うん、あの、ごめん。俺ちょっと」


 後ろを向いて鼻をすすっている。


(本当に涙もろいんだなあ、ダル)


 少し笑いながらそう思いながらも、ベルもなんとなく涙ぐむ。


 ここに入って来た時、ラデルの後ろに隠れながらだがダルにも軽く挨拶をしているのだが、ダルはベルに全く気がついていないようだった。


「そうですか、お弟子さんかあ。小さいのにえらいなあ。がんばっていい職人さんになってくださいね」


 そう言ってニコニコと挨拶をしてくれた。


 あまりに気がつかないもので、ベルはダルが気がつかないぐらいなら街を歩いても大丈夫だなと安心すると同時に、


(それって仮にも一隊の隊長としてどうなの)


 と思ったが、


(まあダルだしな)


 と納得した。


「それで、門のところまで子どもさんたちに来てもらって、門番から渡してもらったらどうかと思うんです。用事があるわけだから構わないでしょう」


 ダルが生まれ育ったカースという漁師町はやや特殊な存在である。

 「マユリアの海」と続きにあるためか「聖地の守り番もりばん」的役割があり、嵐の後などに「マユリアの海」を清掃をしたり、無闇に人が立ち入ることがないように見張ったりもしている。


 リュセルスとほぼ同じ場所にありながらリュセルスではない。

 封鎖期間中、カースはリュセルスから切り離されてしまうと、ポツンと離れ小島のようになる。

 そのため、リュセルスと他の町との検問所よりもっと頻繁に連絡などが取れるようにはしてもらっている。

 まあ、内緒のルートで海を渡ったキノスへ行く者もいるにはいるが、王都への出入りができなくなると死活問題なので便宜を図られているという形だ。


「じゃあこれを持って早速街の神殿に行ってくるよ」

「え、なんで?」


 思わずベルがそう聞いて、


(しまった)


 と思った。


 もしも今ダルが自分に気がついてしまい、様子がおかしくなってマルトに怪しまれてしまったら困る。

 

 だが、


「ああ、君は封鎖は知らなかったんだっけ。あのね、王都から出たり入ったりする物はみんな、一度神殿で祝福を受けて清めてからにしないといけないんだよ。封鎖はそもそもけがれが王都に入らないようにするもので、物にくっついて穢れが行き来してはいけないだろう?」


 と、ダルがごく普通に教えてくれたのでホッとしながら、


(気がついてないのかよ!)


 と、心の中でつっこんでいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「小椋夏己のア・ラ・カルト」の「本の妖精」の誤字を修正した時、一時こちらにその内容を間違えて公開していました。

そのタイミングで読まれた方がいらっしゃいましたら、こちらが正しい投稿となります。

申し訳ありませんでした。


後日この後書きは削除します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る