2 冷静さとせつなさ
ミーヤはキリエの執務室から出て自分の職務の場であるアランたちの部屋へと戻った。
室内にはアラン、ディレン、ハリオ、もう一人のこの部屋付きの侍女であるアーダ、そしてたまたまダルも訪ねて来ていた。二度目の召喚の時に揃っていたメンバーだ。
「あの、どのようなお話だったのでしょうか」
「ええ」
ミーヤはアーダの質問に少しだけ考える。
キリエはアーダとハリオに知られぬようにと言ったが、それはこの2人が八年前の出来事とそれに連なる現在進行中の出来事を知らぬと思っているからだろう。全てを共有していると思われる今、話す必要があるだろうと判断し、そして何があったかを話した。
「じゃあトーヤたちには今まで通りカースで隠れてもらってろってことですか?」
「それしかないかと」
「理由は教えてもらえなかったんですよね?」
「ええ」
「もしかしてあれですか、言えないことには沈黙ってやつ」
アランがトーヤから聞いていた過去の話から推測してそう言った。
「キリエ様はただ一言、沈黙を、と」
ミーヤがつらそうに認める。
「はあ、なるほど」
アランがうーんと考えながらも、
「まあ、そういうこともあるかも知れませんね」
と、あっさりと言った。
ミーヤはあまりに簡単にアランがそう言うので、何を言っていいのか言葉を失った。
「まあ、予想のうちっすよ。トーヤだっておそらくそう言います。ミーヤさんもあまりそう深刻にならないで」
「でも、そう言われても」
「よく考えてみてください」
アランが冷静に
「何も状況変わってなくないですか?」
「え?」
「元々、正体がバレてエリス様一行はここから逃げ出したわけです。そんで、どうしようかって考えてたら、まあある方法でトーヤが宮へ舞い戻って、そんでなんでかまた王都の
「あの場所にですか?」
「多分ですが」
アランは多分とは言いながらも確信したかのように言う。
「トーヤはあの場所を知ってるみたいでした。そして王都の隠れ家で、ちょっとばかり不思議なことがありました。そのことはまだ話してませんでしたが」
「不思議なことですか」
「はっきり言います、共鳴です」
「共鳴が!」
ミーヤが目を丸く見開いて驚いた。
「そうです。俺らは全部の話を共有しようってことになってますが、実際にはまだまだ話せてないことも多いと思いますよ。話したくても話せない状況だったし、今あそこで話してるのも決まった話題だけですしね」
言われてみるとその通りだった。
「こんな妙ちきりんなこと、こんだけの時間で全部共有しようっての無理なことでしょ?」
「ええ、確かにその通りね」
アランの冷静な話しぶりにミーヤの気持ちも少し落ち着いてきた。
「だから今さら、何があっても慌てることはないってことですよ。まあ、読み違えたら一巻の終わりって可能性もありますから、そのあたりは気をつけて気をつけて動くに限りますけどね」
「なんか、えらく簡単に言うなあ」
ダルが呆れたように、それでもどこか面白そうにそう言った。
「そりゃまあ、なんやかんや経験してきてますからね、死にかけたこともありますし。でも確かにキリエさんに何が起こったのかは重要になると思います。だから気にはしておいて、俺らは俺らで自分らのやることしっかりやりましょうってことで、そんでいいですよね、皆さんも」
「さすがはアラン隊長ですね」
ミーヤがふっと笑いながらそう言った。
「ありがとう、気持ちが楽になりました。キリエ様は私たちと道を違えようとなさっているのではない、そう伝えてくださって落ち着いたつもりではいましたが、やはりまだまだ動揺していたようです」
「そりゃ仕方ないでしょう、そんだけのことがあったら」
「本当に優秀な弟子なのですね」
「ええ、まあ」
アランがあっさりと認めたのでミーヤが思わず吹き出した。そういうところ、なんだか師匠譲りな気がしたからだ。
「じゃあ時間もそうないでしょうし、話を始めましょうか。もしも今度集まった時に時間があったらトーヤたちには報告するけど、なかったら知らん顔で。元に戻っただけです、話す手間が省けた、そのぐらいでいきましょう」
「ええ、そうですね」
今度はアーダがそう答えた。
「ただまあ、エリス様ご一行がここにいてくれた方が事は簡単でしたよね、知らん顔してとっとと交代済ませちまえばそんでよかったんだし」
「そうだな」
今度はディレンがそう言う。
「なんとかあいつらをここに引っ張り込んで、そんで交代を済ませてあの方とマユリアを俺の船であっちに連れて行く、それを成功させなきゃならん」
「ミーヤさん、セルマはどうなってます」
「セルマ様は、普通に過ごしていらっしゃいます」
「そうですか。何考えてるんだろうなあ」
アランがうーんと伸びをしながら言う
「何も変わっていらっしゃらないと思います。あの部屋を出たらあの方は私たちの敵なのだと、そういう約束になっています。私もそのことは忘れていませんから」
そのことを思う時、やはりミーヤの心にはせつなさが満ちていた。
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