12 アラン激昂
「それで、結局のところどうなんだ?」
トーヤが美しく涙を流す女神から目を
なんとなく、自分がよく知る知人を泣かせてしまったような、そんな気持ちになっていた。
「あんたの半身って言ったよな? つまり、マユリアもこいつもそれぞれあんたの半身ってことでいいんだよな? じゃあ、マユリアとこいつ、一体どこがどう一緒でどこがどう違うんだ」
『それを分かってもらいたくて、これまでに何度も話をしてきたのです』
「まあな、確かにいきなりこいつとマユリアが自分だ、って言われても意味不明だわな」
トーヤの言葉にシャンタルがくすくすと笑った。
「トーヤにそんな風に、いつものように話をしてもらいたくて、それであんなに色々言ってくれてた、ということは分かったかも」
「そうかもな」
ベルもそう言ってうんうんと頷いた。
その姿は、いつもの調子のベルだ。
『光と闇、それは最も尊いもの。同じもの、そう言いましたね。マユリアと黒のシャンタルも同じです。ただ、この世は
「それがこの髪と肌と、そんで男ってことか」
『その通りです』
「そうして2人に分けないといけなかった理由はなんだ?」
『一つは、次代の神の身を人にするには、そうですね、強すぎると言えばいいのでしょうか』
「まあ、なんとなく分かる感じかな」
本当の意味でどういう感じかは分からなかったが、大体そんな感じなのだろうと受け止めるしかなさそうだ。トーヤはそう思っていた。
『マユリアは次代の神ではありませんでした。それだけ人の身に近い神、受け止めるだけの器を探せばそれでよかったのです』
「けど、それでも負担は大きくて、ラーラ様の母親って人は体を悪くしたんだったな」
『その通りです』
女神がつらそうに認める。
「ってことは、そのままだったら普通の人には、あなたの体を出産するのは絶対に無理ってことですね」
アランが冷静に事実を述べた。
『その通りです』
「そうまでして次代を、マユリアとこいつを産ませる必要があったんですか?」
アランが続けて聞く。
「それだけの無理をしても、結局ラデルさんたち以外に親になれる人はいない。そしてマユリアとあなたが自分の神としての身を人にしてしまったら、もうその後は続かない。そういえば、当代シャンタルですけど、あの子は託宣ができない。それは人の身に人の魂が入った普通の人だからじゃないんですか?」
あまりにズバリと聞くもので、トーヤもベルも思わず身を引く。
「こうなったアランはちょっと怖いよね」
シャンタルがくすくす笑って、
「だから、正直に全部答えた方がいいですよ。私のことは心配しなくていいですから、何でも言ってください」
そう言ったので、ますますトーヤとベルが身を引き、目配せで何かを伝え合った。
「逆らうな」
こうなったアランには、さすがの2人も何もいえない。
めったにあることではないが、三年の月日の間に何度かはあった。
トーヤとベルは顔を見合わせて、何も言わないと確認し合う。
「どうなんです? たった二十八年引き伸ばしただけじゃないですか。人の世界から見たらそりゃ長いけど、あんたらから見たらたった、でしょ? そうまでする意味があったんですか?」
同じ部屋にいるディレンとミーヤ、アーダも少し驚いている。今までずっと、アランはいつも冷静で、こんなに感情を露わにしているところを見たことがなかったからだ。
リルの家にいるダルとハリオも同じく、思わず顔を見合わせてしまった。
リルだけはほおっと感心し、アランを頼もしそうに見ていた。
リルは宮で初めて会った時から、アランのことを評価している。その判断に間違いはなかった、そう思っているようだ。
『必要はありました』
女神が怒るアランに静かに答える。
『さきほども申した通り、わたくしはこの神域を開こうと思っています。そのために、わたくしの力を全て、わたくしの半身として生まれてくる二名に託す必要がありました』
「で、思った通り、なんとか無事に、その力ってのは引き継がせたんですか?」
『それは……」
女神が言い淀む。
「失敗した、ってことですか?」
アランが遠慮なくそう聞いた。
『いいえ、そうではありません』
女神が弱く首を振った。
『力を引き継がせることはできました。ですが、その力を奪おうとしている者がいるのです』
「なに!」
「そいつがいるせいで、あんたはこそこそと俺たちを呼びつけた、ってことか」
驚いているアランを押しのけるようにして、トーヤが後を継いだ。
『その通りです』
「そんで、そいつはどいつだ? そいつが神官長やセルマを動かしてんのか?」
『それは申せません』
トーヤの問いに女神がまた弱く首を振った。
「ここまできてまたそれかよ。なんでだ? そいつが誰か俺らに教えて、そんで退治してもらいたいんじゃねえのか? だから俺らみたいな傭兵を呼びつけたんだろ?」
トーヤはこの時を待っていた。
ずっと、その見えない誰かの正体を知りたいと思い続けていた。
「なあ、とっとと教えてくれよ、そいつの正体をよ」
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