9 結界の中の結界
「あんたが俺らが宮に入れるように、そんで多分、見つからないようにしてくれてたってことでいいか?」
『それでいいと思いますよ』
「じゃあ、マユリアがシャンタルを吸うための結界ってのはどこにあるんだ?」
『わたくしの結界の中に』
「え?」
『黒のシャンタルの力が使われたら反応するように結界が張られていました』
「ってことは、あんたのと重ねて二重に張られてたってことか」
『いいえ違います』
『元々宮に結界を張っていたのはマユリアでした』
『ですからそれに重ねるように、わたくしが結界を張ったのです』
『あなた方が宮へ戻った時に気づかれぬようにと』
『わたくしが結界を張ったことでマユリアの最初の結界は無効になりました』
『ですが、その最初の結界が既に罠だったようです』
『マユリアはきっとわたくしがそうしてあなたがたの手助けをする』
『そこまで考えてあえてそうしていたのでしょう』
『そして本当の結界はその更に中に』
『黒のシャンタルが力を使ったら、その力を奪うために張ってあったようです』
「つまり二重じゃなくて三重だったってことか……」
「そんなことができるんだな」
トーヤとアランが
「なんかシャンタルの痛くなる魔法みたいだ」
「そうだね、似てるね」
「ってか、一緒だよな」
ベルの言葉にシャンタルがそう認めた。
トーヤとアランは二人の言葉に思わず顔を見合わせる。こちらに来る途中、馬車の中でこう話したことがあったからだ。
――シャンタルの力は魔法か、それとも神の力なのか――
「どうやら神様の方だったみたいだな」
「ああ」
あの時はどちらにしても神様がいるという高いところからではなく、自分たちと同じ地べたを這いずって使っている力、なんでもいいではないかという話になった。その答えをまさかこんな形で知ることになるとは。
「そんで、あんたはマユリアがそんなことしてるって知らなかったのか?」
『残念ながら気がついておりませんでした』
『わたくしが結界を張っていられる間は、あなたがたを守れる』
『そう思っておりました』
「おいおい、それって……」
アランがトーヤの質問に答えた光の言葉にそう言って言葉を止めた。
「ああ、そんだけあっちの方が上ってことになるよな」
その言葉をトーヤが継ぐと、アランも自分を取り戻したように会話を続ける。
「そうなるよな、まるきり遊ばれてる感じだ。つまり、マユリアはルギがいなくても、自分でシャンタルをなんとかできるだけの力があるってことか」
「ますますルギは必要ねえってか」
「そうも思える。じゃあ一体マユリアはどうしてああもルギに執着するんだよ」
「ほんとだな、あんな可愛げなくてでかいばかりの無愛想なやつ」
トーヤが言葉ではそう言いながらも複雑な表情を浮かべた。
最初に会った時から気に食わなかった。やることなすこと気に
『当代の気持ちゆえでしょう』
光の声が聞こえた。
『ルギが運命の主と定めたのは当代マユリア、当時のシャンタルです』
『わたくしの侍女のマユリアではないのです』
『ですが、二人が一人のように重なっている今』
『存在だけではなく気持ちが重なるのも当然のこと』
「ってことは、当代は、俺らが知ってるマユリアはルギのことを大事に思ってる、そのことに間違いはないってことか」
『その通りです』
「だとよ。じいさん、よかったな」
トーヤは村長にそう声をかけながらも、自分が喜んでいるようにミーヤには見え、なんだかそれがつらくなる。
決して相性がいいわけではない。どちらかと言えば天敵と言える二人だが、決して憎み合っているわけではない。
(それなのに、そんな二人が命を奪い合うようなことに、そしてもしかしたら……)
――共に命を落とす可能性がある――
考えるだけで胸が締め付けられて苦しくなる。
「そんで、その三重の結界に引っかかって、シャンタルは力を吸われたわけだな」
『そう思ってもらっていいでしょう』
「あの時、あのままだったらシャンタルは力を全部吸われてた可能性は」
『あります』
「一か八かであんたにもらったあの石を持たせたら止まった。ってことは、あの時もあんたが助けてくれたってことでいいのか?」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「なつかしいのが出たな。だがそれだけではよく分からん」
「あの石を握ったらシャンタルが治ったんだよな」
他の仲間たちもそのことは話してあった。宮の外へはダルを通して伝えてもらってある。
「あれもあんたが助けてくれたんだとばかり思っていたんだが、半分は違うみたいだな」
『シャンタルが言う命が流れ出る穴を塞いだのは確かにわたくしです』
「それはあの石を握らせたからか」
『その通りです』
「じゃあ、何が違うってんだ。その後、シャンタルが命を補充されたって言ってたのもあんたじゃねえのか?」
『違います』
光はきっぱりと否定する。では、一体誰だろ言うのか。
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