14 誰かか何か
その後、キリエはアランとディレンの意見を聞きながらもう少し話をし、何か考えをまとめているようだった。ミーヤはその姿を不安な気持ちで見つめるしかできない。
『沈黙を』
あの日、わざわざミーヤの部屋に来て、宮にいるはずになったエリス様ご一行にそのことは伝えないように、そう命じたキリエが口にしたその言葉。
『もしかしたら今回は敵対するって可能性は? 申し訳ないけど、俺は、今回はそんな可能性があるんじゃないかと思ってます』
アランが口にしたその言葉。
今、目の前で穏やかに考えを持ち寄っているキリエとアランとディレン、その姿を見ていると互いに道を
見えては、いた。
だが、本当のことは分からない。キリエが何を考えているのか、アランが何を考えているのか、ディレンが何を考えているのか。人の心は見えないからだ。
「ミーヤ、ミーヤ?」
「え、あ、はい」
ミーヤは考え込むあまり、キリエに話しかけられているのに気がついていなかったようだ。
「どうしました」
「あ、いえ、申し訳ありません」
ミーヤが慌てて頭を下げる。
キリエは一瞬何か言いたげな視線をミーヤに送ったが、そのまま何も言わず、
「これ以上のことはまた何か新たなことが分かってからのことなりましたが、もしもトーヤから連絡があっても今のままでいるようにと伝えてください」
と、3人に言ってから退室して行った。
「これも謎なんだよなあ」
アランがキリエを送り出すとそう言って不審そうな顔になる。
「なんだ、なんも状況は変わってないから気にするなみたいに言ってなかったか、優秀な弟子は」
と、ディレンがからかうように言うが、その奥にはやはり同じ光が宿っているように見える。
「ま、そうなんですけどね、新しい要素が出てきて、やっぱりちょっと妙だなと思うもんで」
神官長の話である。
「やっぱりさっき話してたように、親父と息子をぶつけてどっちも
「それはそうだな」
「両方潰して神官長が王様の代わりをする、なんてことはできっこないし」
「そうなんだよなあ」
ディレンも首をひねる。
「あるとすれば、その代わりになる誰かか何かがあるはずなんです」
「誰かか何か、ですか?」
「ええ」
アランがどさっとベッドに腰を下ろし、
「トーヤだったら、もしかしたら何か知ってるのかも知れない」
「え?」
「まだ何か隠してる気がしてるんですよ。隠してるって言い方が悪かったら、こうして離れてるからまだ言えてないこと、かな」
「まだ言えてないこと、ですか」
「ええ」
「トーヤだけが知ることか」
「ってことですね」
あるのかも知れない。
「こうしてみんな巻き込まれてますけど、一番その鍵になるのはやっぱりトーヤ、それとシャンタルだと俺は思います。あ、うちのシャンタル、黒のシャンタルって言われてるあいつのことです、念のため」
「もしかして」
ディレンがふっと思いついたことを口にする。
「あの方を、黒のシャンタルを王様の代わりにしようとしてる、ってことはないか?」
「え?」
「ええっ!」
思いもかけなかったことにアランもミーヤも目を丸くしてディレンを見つめた。
「いや、なんの根拠もないけどな、そんな代わりを務められそうな人ってのが、あの方しかなさそうに思えた」
「シャンタルを王様の代わりに……」
アランが頭の中でその可能性があるのかどうかと計算を巡らせる。
「あいつを、黒のシャンタルを王に……」
「あの、でも」
ミーヤが思わず小さく挙手してディレンに言う。
「その場合、神官長はシャンタルの、先代シャンタルのことを知っているということになりませんか?」
「知ってるとしたら?」
「そんなことがあるのでしょうか」
「俺とアランは八年前にはここにいませんでした。ミーヤさんはその場にいた、関わってましたよね、その可能性はありそうに思いますか?」
「え……」
ミーヤはディレンの言葉に呆然とした。
「神官長が先代の生存を知っている可能性……」
あるのだろうか、そんなことが。
ミーヤは必死に八年前のことを思い出そうとした。
トーヤがこの地に流れ着き、そして世話役となった自分。
フェイのこと。
二つの託宣のこと。
シャンタルが自分を取り戻すまでの日々。
そしてあの運命の日、シャンタルが湖に沈んだ日のこと。
必死に考えを巡らせる。
その数々の場面に神官長の登場はあったのか?
神官長はトーヤが目を覚ましたあの日に客殿のあの部屋に来たが、その後で一度もトーヤと面会はしていないはずだ。自分はずっと世話役としてそばに付いていたのでそれは間違いがないと思えた。
自分が神官長と接触したのはその後はいつだったのか。
「シャンタル死す」の報告で神官長が奥宮へ飛んで来たのは間違いがないが、その時、自分はリルと共に月虹兵付き、トーヤとダルの世話役として前の宮で役目に就いていたので会ってはいない。
シャンタルの出棺の時、あの部屋に確かに神官長はいたが、特に何か言葉を交わすなどもなかった。
神官長がそんなことを知ることは可能だったのか。
ミーヤは必死で当時のことを思い出していた。
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